第1話 終わるはずの戦い
本日から連載を始めました。
転生を終わらせたい賢者とポンコツ女神の物語です。よろしくお願いします。
気づいたら、白い世界にいた。
なぜこうなった。
「……十四回目だぞ」
喉の奥から、声が出た。
「これが最後だって、言ってただろ」
白は何も答えない。
ただ、静かに広がっていく。
「魔王も倒した。世界も救った。言われたことは、全部やった」
言葉が、空しく溶けた。
「あの女神……また外しやがったな」
白が、さらに濃くなる。逃げ場がない。
「……なんだよ、くそ」
拳を握る。何も殴れない。
「今回は、大丈夫だと思った」
ぽつりと落ちた。
「最後まで条件は揃っていた。勇者もいた。魔王もいた。全部、噛み合っていた」
だから——信じた。
「だから安心して、余生を送ったんだ」
静かに生きて、静かに終わるはずだった。
それが——
「あと、何が足りなかったんだ!」
白が、膨らむ。
思い出すのは、今世の記憶。
それと——十四回分の、積み重なった苦悩。
***
最初の人生で“転生スキル”を授かってから、すべてが狂った。
死ぬたびに、また始まる。
世界も、時代も、違う。
ただ一つ、変わらないものがある。
十五歳で訪れる神託の儀。
そして——女神。
転生を重ねるたびに、いろいろなものを手に入れた。
封印を解いたこともある。国を救ったこともある。術式を残したこともある。
気づけば、どの世界でも「賢者」と呼ばれていた。
だが——終わらない。
何を成しても、また始まる。
七回目の転生で、ようやく理解した。
これは、終わらない。
終わらせるために、女神に頼るしかなかった。
だが——そこからが本当の地獄だった。
***
——九回目の転生
「この世界で最も深い愛を知りなさい。あなたにはそれができます。私が保証します」
人口三十二人。最年少が五十代。
出会いはなかった。
「保証します」は、砂漠より乾いて聞こえた。
——十一回目の転生
「大陸を統一する王の右腕になりなさい。今回は大丈夫です。王がいます。統一直近です。確認しました」
王は翌年、流行り病で死んだ。
「確認しました」は、根本的に何かが違った。
——十三回目の転生
「海の向こうの秘宝を見つけなさい! 今回は絶対です。海があります。秘宝があります。私、ちゃんと調べましたから!」
その世界に、海はなかった。
何を調べたのか——問いただす前に、人生が終わった。
***
全部こうだった。
成立していない。最初から。
それでも——十四回目だけは違った。
「魔王を討伐する勇者を支えなさい!」
女神は自信満々に言った。
「勇者、います。魔王、います。条件、全部揃ってます。今回は本当に大丈夫です、信じてください!」
最後の一言が、妙に引っかかった。
だが——今回ばかりは信じた。
勇者がいた。魔王がいた。
旅もあった。仲間もできた。
そして——
***
魔王が、倒れた。
黒い魔力が霧散していく。テルミアはぼんやりとそれを見ていた。全身が悲鳴を上げている。いつ怪我を負ったのかも覚えていない。それでも、どうでもよかった。
終わったのだと、思ったからだ。
「テルミア!」
振り返る前に体当たりが来た。白銀の鎧の重み。アデルだ。
今世の勇者。魔王に致命傷を与えた、本当の英雄。
「生きてる! 良かった、本当に良かった——」
「……重い。鎧が硬い。あと少し、優しくしてくれ」
「うるさい!」
泣いていた。
困った人だ、とテルミアは思う。いつも真っ先に飛び込んで、そのたびに周囲が傷を負う。今回の旅も、その繰り返しだった。
だが——悪くなかった。
腕を回し、背中を軽く叩く。二回。
よくやった、の代わりに。
アデルはそれを分かっていて、少し笑った。
「——任務完了だ」
「そうね。終わったわ」
終わった。
その言葉が、胸に落ちた。
今度こそ、本当に終わりだと——そう思った。
***
その後の人生は、穏やかだった。
英雄として名が残り、望んではいなかったが悪くはなかった。街を歩けば頭を下げられ、子供に囲まれた。やがて家族ができ、温かい食事と眠れる夜があった。
名前を呼ばれることに、意味があった。
アデルは国に嫁いだ。それでも節目ごとに手紙をよこした。
「また変な顔してるんでしょう、あなたは」
そのたびにテルミアは少し笑った。
戦いの記憶は、ゆっくりと上書きされていった。
そしてある日、ふと気づいた。
ああ、これが終わりというものか、と。
——それなのに。
***
光が広がっていく。止まらない。
終わったはずだった。
終わって、いいはずだった。
条件は果たした。魔王も倒した。世界も救った。女神の言った通りにやった。
なのに。
「……もう十分だよ」
怒りでも嘆きでもなかった。ただ疲れた声だった。
光が、白く世界を塗り潰した。
***
——十五回目の転生。
意識が戻る。
もう迷わない。
従うためではない。
終わらせるためだ。
あの女神に、きっちり説明してもらう。
神界に乗り込んででも——
今度こそ、終わらせる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
第一章の終わりまでは毎日更新予定です。
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