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【完結】都合のいい婚約者のはずが、近衛隊長と第三王子に囲い込まれました  作者: 水瀬みずか


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第7話

 舞踏会の空気は、いつもより少しだけ重かった。

 理由は単純。

視線が、私に集まっている。

同情でも、羨望でもなく――値踏み。


(来たわね)


ハリス男爵夫人は、今夜も完璧な微笑みを纏っていた。

ただし、今夜その視線は一度もアーサー様に向かない。

向けるのは、私だけ。


「伯爵家のお嬢様ですもの。ご実家もお強いし、安心ですわね。」


甘い声 だが、その裏に含まれる棘は、はっきりしている。


――身分だけで、妻の座に収まろうとしている小娘。

(ええ、そう見えるでしょうとも)



私は微笑みを崩さない。

反論もしない。

弁明など、もってのほか。


だって――

この手の敵意は、相手が反応した瞬間に勝ちなのだから。


噂が流れていることも、 湖畔の別邸の名が囁かれていることも、 もちろん――気づいているはず。

それでも彼は、 いつも通りの近衛隊長の顔で、 淡々と挨拶をこなしている。


(……触れられたくない話題なのね)


あの別邸での時間。

ハリス男爵夫人と過ごした、完全な私事。

あそこに、シシィの名前を絡められること。

それ自体が、彼にとって不愉快なのだ。


だから騒がないし、 だから否定しない。

だから――守りもしない。

少なくとも、表では。


「シシィ。」

ふいに、低い声で呼ばれた。

「少し、風に当たらないか。」

それは、社交辞令にも聞こえる誘い。

私は頷き、彼の隣を歩く。

人気のない回廊、 そこで彼は初めて言った。


「すまない。」

それだけ。

言い訳も、説明もない。


(あら)

これは、予想外な展開。

「何について、ですか?」

わざと、そう聞くと彼は少しだけ視線を伏せた。


「君が、余計な視線を浴びることになってしまったようだ。」


噂が問題なのではない。 ハリス男爵夫人が何を思っていようと、どうでもいい。

ただ――

自分の過去の選択が、今の婚約者を傷つける形になっている。

それに、ようやく気づいた顔だ。

「私は、大丈夫ですわ。」

そう言うと、 彼の眉が、わずかに動いた。

「……それが、一番困る。怒られる方が、まだいい。婚約者という立場は体裁を整えるためにあるものだと、そう思っていた。」


彼は、そこで言葉を切った。

「だが君が傷つく可能性を見過ごすためのものではない。」

「では、どうなさるおつもりですの?」


彼は即答しなかった。

けれど、その沈黙が答えだった。

――守る。 ――失わない。 ――今さら、手放さない。



触れられたくない過去がある男ほど、

今、手にしているものを失うことに弱いものだ。

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