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第25話
同日夜
――近衛隊長執務室。
副官が低い声で報告した。
「近衛隊長、正式情報です。王宮がヴァルモン伯爵家へ婚約再検討手続きを開始しました。」
アーサーの手が止まる。
「そうか。」
声は変わらない。
だが、書類を持つ指先だけがほんのわずかに力を帯びた。
副官がためらいながら続ける。
「異例です。既存婚約がある状態で王族がここまで早く動くのは……。」
「問題ない。手続きは制度上認められている。」
「ですが――」
「職務に戻れ。」
副官は一礼し、退室した。
扉が閉まる。
数秒の沈黙。
アーサーはゆっくり椅子に背を預け、天井を見た。
「本気か、殿下は。」
小さく、息を吐く。
そして卓上ベルを鳴らした。
入ってきた部下に、低く命じる。
「王宮警備計画、第三王子動線の監視精度を上げろ。」
「は?」
「記録頻度も上げる。」
「……了解。」
部下が出ていく。
アーサーは書類を閉じ、独りごとのように呟いた。
「自由に口説くのは構わないと言った。」
視線がわずかに鋭くなる。
「だが――奪わせるとは言っていない。」




