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【完結】都合のいい婚約者のはずが、近衛隊長と第三王子に囲い込まれました  作者: 水瀬みずか


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第23話

 翌日

 ――王宮内、中央回廊。


昼の時間帯にもかかわらず、長い廊下は不思議なほど静かだった。

窓から差し込む光の中を、規則正しい足音が一つ進んでいく。

近衛隊長アーサーだった。

巡回報告書を確認しながら歩くその姿は、いつも通り冷静で隙がない。



だが――

「相変わらず、真面目だね。」

軽い声が、正面から落ちてきた。


顔を上げるまでもない。

「殿下。」

第三王子ヘンリクが、柱にもたれたまま立っていた。

いかにも待ち構えていたような位置だった。


「偶然、ですか。」

「半分は偶然、半分は待ち伏せ。」

「……正直で何よりです。」

アーサーは足を止めたまま、形式通りに一礼する。


ヘンリク王子はゆっくりと歩み寄った。

「昨日は楽しかったな。」

「任務でしたので。」

「庭園は、な。」

口元にうっすら笑みを浮かべる。

「それ以外も、なかなか見応えがあった。」


アーサーの表情は動かない。

「何のことでしょう。」

「とぼけるな。」


ヘンリク王子は、声を少しだけ落とした。

「過剰警備。」

「安全確保です。」

「テラス周囲にあれだけ配置する必要はない。」

「必要がありました。」

「理由は?」


一瞬の沈黙。

アーサーは淡々と答える。

「重要人物が二名おられましたので。」

ヘンリク王子が小さく笑う。

「なるほど。」


一歩、距離を詰める。

「つまり、俺だけじゃなかったわけだ。」

「警備基準は対象の地位と状況で決定されます。」

「へえ。」

ヘンリク王子は横に回り込み、アーサーの顔を覗き込んだ。


「じゃあ確認だ。」

「何でしょう。」

「君にとって、シシィは警備対象か?」

空気が、わずかに張る。

近くにいた文官たちが、何事もないふりをして足早に通り過ぎていく。

アーサーは視線を動かさず、静かに答えた。


「婚約者です。」

「立場の話じゃない。」

ヘンリク王子は笑う。

「聞きたいのは、そっちじゃない。」


沈黙が落ちた。

アーサーは、わずかに息を吐く。


「シシィは――守るべき対象です。」

ヘンリク王子の目が細くなる。

「それだけか?」

「それ以上の説明は任務に不要です。」

「任務、ね。」

ヘンリク王子は小さく肩をすくめた。

「俺は任務じゃない。」

「存じております。」

「俺は男として口説いている。止める権利は、君にはない。」


その言葉に、アーサーの指がわずかに動く。

だが、声は変わらない。


「承知しております。」

「へえ。」

ヘンリク王子は少しだけ驚いたように笑う。


「もっと反応すると思った。」

「殿下のご自由ですので。」

「だが、昨日の配置を見る限り自由にさせる気はなさそうだったが?」


アーサーは初めて、ほんのわずかに視線を合わせた。

「護衛配置は、危険の可能性に比例します。」

「俺が危険だと?」

「可能性の話です。」

「随分な評価だな。」

「王族は常に警護対象です。」


ヘンリク王子は数秒アーサーを見つめ、

そして、にやりと笑った。


「いいな。」

「何がでしょう。」

「やっと本気になってきた顔をしている。」


そのまま耳元近くまで距離を詰め、小さく囁く。

「安心しろ、近衛隊長。俺も、やめる気はない。」



一歩下がり、いつもの軽い調子に戻った。

「今日も薔薇を送った。」

アーサーの眉が、ほんのわずかに動く。

「赤じゃない。」

「……。」

「今日は白だ。花言葉は『私は貴方にふさわしい』。」


意味を含ませたように笑う。

「色は日替わりにするつもりだ。飽きさせないために。」


沈黙。

アーサーは書類を閉じ、静かに言った。

「殿下。」

「何だ。」

「王都警備計画の都合上、伯爵令嬢周辺の警護は当面強化されます。」

「へえ。」

「不審人物の接近は記録対象になります。」


ヘンリク王子は目を細めた。

「俺もか?」

「例外はございません。」

数秒の静寂。

そして――

ヘンリク王子が、楽しそうに笑った。

「ますます面白い。次は、何を贈ろうかな。」

去り際、振り返らずに言った。



「近衛隊長。」

「はい。」

「ちゃんと見ていろ。」

ヘンリク王子の足音が遠ざかっても尚、回廊に残ったアーサーはしばらく動かなかった。

そして小さく、部下へ命じる。


「――報告頻度を上げろ。」

声は低く、静かだった。

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