第17話
お茶会の翌日。
朝の身支度を終えたところ、控えめなノックの音がした。
「失礼いたします、お嬢様。」
入ってきたポリーの手には、小さな箱と一通の封書。
……嫌な予感しかしない。
「そちらは?」
私が尋ねると、ポリーは淡々と答えた。
「ヘンリク王子殿下から、お嬢様へお届け物でございます。」
箱の蓋が開かれる。
中にあったのは――
真っ赤な薔薇が一輪と、丁寧に封をされた手紙。
私は深くため息をつくより先に、思わず苦笑した。
「随分、分かりやすいわね。」
「ええ。」
ポリーはそう言いながら、薔薇を取り出し、花器の水を替え始めた。
その仕草はいつも通り丁寧で、無駄がない。
「赤い薔薇の花言葉は、
『あなたを愛しています』ですわ。」
花を活けながら、視線だけをちらりとこちらに向ける。
「随分と情熱的でございますね。」
声は穏やか。
けれど、目は冷め切っていた。
「愛の告白としては、非常に教科書通りかと。」
薔薇は、完璧な位置に収まった。
朝の光を受けて、赤がやけに鮮やかに映える。
私は手紙を手に取り、封を切る。
そこに並んでいたのは、甘く熱を帯びた言葉の数々。
昨日のお茶会がいかに特別だったか。
私がどれほど印象に残ったか。
また必ず、二人で会いたい――。
(一晩でここまで仕上げてくるの、さすが一応は王子様ね)
「どうなさいますか?」
ポリーが尋ねる。
「どうもしないわ。」
私は手紙を畳み、机に置いた。
「返事もなさいませんか?」
「しないわ。」
「では、薔薇は?」
私は少し考えてから、花器の方を見る。
「花には罪はないからそのままにしておいて。」
ポリーは一瞬だけ眉を動かし、すぐに頷いた。
「承知いたしました。」
それ以上、何も言わない。
それがポリーの流儀。
ただ、部屋に残された赤い薔薇は、まるでここが自分の居場所だと主張するように、静かに堂々と咲いていた。
二人きりのお茶会の翌日から第三王子ヘンリクは、
私を口説いた相手ではなく、手に入れたい相手として扱い始めた。
そして――
この薔薇の存在に、まだ気づいていない人がいる。
麗しの近衛隊長、アーサー様。
彼がこの花を目にしたとき、何も起きないはずがない、ということだけは、はっきりと分かっていた。




