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【完結】都合のいい婚約者のはずが、近衛隊長と第三王子に囲い込まれました  作者: 水瀬みずか


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第12話

マリーが変わったことに、アーサーが気づいたのは早かった。


最初は取るに足らない違和感だった。

髪を結い上げる高さ、選ぶ色、香の種類。

それらは偶然の範疇に収まる――はずだった。

だが、ある日ふと気づく。

それらすべてが、シシィと同じだと。


「……その装いは?」

問いかけると、マリーはためらいなく微笑んだ。

「アーサー様の奥様に相応しいと思って。」

その言葉に、胸の奥がひやりと冷えた。


相応しいという言い方。

まるで、すでに自分の立場が決まっているかのような声音。

決定的だったのは、その夜。

「私が、代わりになれますわ」

シシィの名を口にしながら、

同じ声色で、同じ仕草で、そう告げた瞬間――

アーサーの中で、何かがはっきりと壊れた。

それは愛ではなく侵食だと。



翌日、マリーは王都から消えた。

記録には、事故死とだけ残された。

あまりにも静かで、あまりにも完璧な始末。

関わった者が誰であるかなど、考えるまでもない。


シシィのあの専属メイドだ。

アーサーはその事実を咎めなかった。

むしろ、背筋が伸びる思いだった。


――勝てない。

剣でも、策でもない。

守るためなら、ためらいなく手を汚す覚悟。

そして、それを主のためだけに使う忠誠。

ポリーと、彼女の主であるシシィ。

この二人だけは、決して敵に回してはいけない。

生涯、誰にも屈したことのなかった男は、そこで初めて完全に打ち負かされた。


そして――

その瞬間から、愛は歪み始めた。

シシィがポリーと連れ立って、王都の貴族街へ出かけたある日。

馬車の窓越しに外を見渡し、彼女は小さく首を傾げた。


「やけに兵が多くありませんか?」

通りの要所ごとに立つ近衛兵。

明らかに視線は、彼女の馬車を追っている。

「今日は、特別な行事は無いはずですが。」

ポリーが静かに馬車を降り、確認に向かった。

戻ってきた彼女の表情は変わらない。


「隊長の命令、とのことです。詳細は伏せられています。」

その言葉だけで、十分だった。

アーサー様だ。


一方その頃、アーサーは詰所で地図を見下ろしていた。

「死角を全て潰せ。」

「屋根の上にも配置を増員しろ。」

「彼女が戻るまで、気を抜くな。」


部下が一瞬、言葉を選ぶ。

「国賓の滞在時並みの警備体制ですが、さすがに過剰では?」

アーサーは顔を上げなかった。

「過剰でいい。」

万が一など、存在してはならない。



彼女の不安も、恐怖も、傷も。

すべて、起こる前に摘み取る。

それが、打ち負かされた男の選んだ愛し方だった。

静かで、深く、逃げ場のないほどに。

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