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第七話
かつて織田家中でも屈指の老練とされた男が、いまや蒲生氏郷の旗下に加わった。その噂は近隣諸国に波紋のように広がったが、信雄の陣営だけはあり得ぬと耳を塞いでいた。慢心は時に、情報よりも甘い。
刃だけが呼吸しているかのよう静かな軍団、蒲生軍。
その先頭には、一益がいた。
十市城は半日持たなかった。
城門は秒で破られ、鼓動のように響く陣太鼓がすべてを飲み込んだ。
落城の報せが霧山御所へ届く前に、第二波が既に進軍していた。一益は迷わない。
霧山御所は、抵抗らしい抵抗もなく陥落した。
当然、亀山城へも波が押し寄せた。
ここもまた、信雄の中枢防衛線であったはずだが、あまりに急すぎる戦況の変転に、城内は命令系統さえ立ち上がらぬまま混乱に沈んだ。
わずか三日のうちに、三つの要害が連続して灰に返った。
織田信雄は呆然と座していた。
報せが飛び込み、地図の上に赤く塗られる領地。
十市、霧山、亀山。
まるで失われる領土を、誰かが乱暴に削り落としているかのようだった。
「なにが……起こって……?」
状況把握すら間に合わぬまま、ただ驚愕だけが空気を満たした。




