第六話
滝川一益、蒲生領へ侵攻を画策中‥。
その報が氏郷に届いたのは、まだ夜がほろりと明けきらぬ刻だった。使者は声を震わせ、事の緊急を訴えた。だが、氏郷はただ静かに頷いただけだった。滝川家は弱小クラブだし同盟もいない。
「ガモ」
短く、乾いていて、どこか美しい響きの決断だった。
翌日、長島は炎に抱かれた。滝川勢は動揺し、備えは整わぬまま崩れ落ちる。氏郷の先鋒は雪崩のように城内奥深くへ押し寄せ、夕刻には長島城の大手門が割れ、翌朝には静かに、しかし冷酷に落城が宣せられた。
後にそれが全くのデマだったと判明したとき、家臣たちは言葉を失った。けれど、すでに馬は走り、刀は血を吸い、軍は前進していた。氏郷が一度動き始めた時、世界のほうが彼に合わせて変わるしかなかった。
「ガモォ」
氏郷の言葉は冷ややかで、そのくせ妙に軽やかだった。
その頃、織田信雄は、岐阜織田家との抗争勃発。かつての栄光ある信長の血脈は今、痩せた犬のように互いの喉を噛み合っていた。信雄は苛立ち、焦り、そして常の如く判断を誤り続けていた。
氏郷の元にもその混乱の報は届いていた。
長島を落とし、勢いを得た軍は血の匂いに酔っていた。だが氏郷の思考は常に先へ伸びていた。戦略家としての本能が、ひとつの運命の分岐を嗅ぎ取っていた。
すべては好機の連鎖。両方、叩く。
翌朝、蒲生軍は長島を後にし、織田に牙を向いた。




