第二話
明智光秀は安土城にいた。
蒲生氏郷は全戦力で潰しにいく。
「申し上げます!蒲生氏郷の軍勢が現れましたァ!」
光秀にとっては想定外であった。
「‥ガモ!」
「‥一騎討ちか‥いいだろう‥」
一騎討ちに応じる光秀。
「‥とでも思ったか間抜けが!」
突如、安土の空気が裂けるような怒号。両軍の火矢が飛び交い、瓦の上に炎が走る。
「ガモ!」
氏郷の声は、戦場の喧噪の中でも異様に澄んで響いた。若き将の双眸には一片の迷いもない。
「裏切り者が裏切り者を討つ、か……悪趣味な見世物だよな‥蒲生‥」
光秀は静かに呟いた。だがその手には、すでに血の気を帯びた太刀が握られている。
突撃してくる蒲生の先陣。
光秀は馬上で身を翻し、矢の雨を潜り抜ける。
「落ちろォ!」
放たれた一閃。馬ごと斬り伏せる光秀。だがその瞬間、左右の藪から鉄砲の火花が閃いた。
轟音とともに、光秀の馬が悲鳴を上げて崩れた。
土煙の中、光秀は転げ落ち、瞬時に立ち上がる。
「ガモ」
氏郷は前へ出た。。
「俺が憎いか蒲生‥。存分に憎め。憎めばその分強くなるだろう‥」
その瞬間、背後の楼門が轟音を上げて爆ぜた。
炎の中から、蒲生軍の別働隊が突入してくる。
光秀は刀を構えたまま、冷笑を浮かべた。
「見事だ……だがな、安土は俺の城だ。道連れくらいはできる」
次の瞬間、光秀は背後の炎に手を翳し、何かを呟いた。
城中に仕掛けられた油壺が一斉に爆ぜる。
地鳴りのような爆音。炎の奔流が蒲生軍を呑み込んだ。
「ガモ……!」
氏郷が顔を覆う間に、光秀は炎の中へと消えていった。
その夜、安土城は赤々と燃え上がり、湖面に映る炎がまるで地獄の門のように揺れていた。
そして誰も、光秀の遺骸を見た者はいなかった。




