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第一章サージエンス編⑨ ナハルルのお引越し

YouTubeにて音声動画上げてます


OP「今はまだヒミツ♡」


https://youtube.com/shorts/ztOAm6DjzNI


 さらに翌日。

 予定通り、フルルの包帯が取れるということで立ち会うことに。

 今日はなんとルククも立ち会うそうだ。

 しかし。

「カナートはみちゃダメなのでして」

「ハイハイ」

 ニンフとはいえレディだからな。

 大丈夫、その辺はわきまえているぜ?

 フルルたちに背を向け、病室から外の眺めを見る…くらいしかできない。

「はい、それじゃ包帯取りますが」

 背後からスルスルと包帯が発する衣擦れの音。

 後ろを向くことができない以上、ここからしばらく


SOUND ONLY


 でお届けだ。

 病室からの景色と共にお楽しみください。

「どう…なのです?」

「ふーむ…化膿もしてないようですし、問題ありませんがね。羽、動かしてみてくれますか」

「むぅ、むぅぅっ」

「あ、動いた!」

「神経接続も大丈夫なようですが」

「もとはわたくしのハネですもの、そのくらいとうぜんですわ!」

「とりあえず今日一日はこちらに泊まっていただいて、様子をみますがね。無理に動かさないで欲しいですがね」

「先生、ありがとうございます」

「具合が悪くなったりしたら呼んでください。では私はこれで」

「メルリ、おようふくをきたいのでして。カナートがこっちをみれないのでして」

「はいはい。これでいいかな?」

「はいなのでして…よいしょうんしょ…カナート、こっちをみてもいいのでして」

 やっとお許しが出た。

 振り返ってみると

「へぇぇ…」

 確かにフルルの背中から羽が生えている。

 トンボともチョウとも違う、透明な、少し光り輝く羽が。

 羽無しを見慣れたせいか、何か神々しく感じるな。

「似合ってる…って言い方はおかしいんだろうな。元はその姿だったんだから」

「でもいわれてわるいきはしないのでして」

「そうか。ルクク…ホントにこれで良かったのか?」

「とうぜんですわ。わたくしは…わたくしにはそらをとぶじゆうはもうないですけど、そのかわりこのまちをまもるしゅごしんとなりますのよ」

 強がってはいるが、言葉に強さは無い。

「あの…ごめんなさい、ルククちゃん。メルリ、あなたのことを誤解してました…」

 しょんぼりしながらメルリは言う。

「な、なにかしら? そんなあらたまって」

「あの…なんだかフルルちゃんに強く当たるんで意地悪な子なのかなって思っちゃって…でもこんな…やだ、涙が」

「あら、あらあらあら、なかないでくださいまし…そんなこと…わたくしだってそらをとぶじゆうはほしいですわ。でもいまは…どこへともわからずつれさられちりぢりになったどうほうのことをしんぱいすることのほうがゆうせんだとおもいましたの。ですから…フルルがそれをやってくれるなら…ハネのひとつやふたつ…」

「ほんに成長したの、ルククよ」

「お、おおばばさま!」

「よう、ばぁさん。どうすんだい? 羽の交換条件がアンタだったが」

「ああ。昔のように勝手な振る舞いばかりでは考えものじゃったが、今のルククならワシを預けても大丈夫そうじゃの。元よりお主らと旅に出て回っては我が身も危険に晒される。これは、ちょうどいい機会なのかも知れんの」

「ありがとうございますですわ。おおばばさま」

「さて、ルクク。お主に引っ越すことになるわけじゃが、そうなるとお主と顔を合わせるのもこれが最後じゃ。お主に意識がある内はワシは出て来れんからのう。何かワシに言っておきたいことはあるか?」

「いえ。ニンフのカミをうけさずかるミコとしてかくごはできていますのですわ」

「ふむ。なればそこへ横になるが良い。メルリ、手伝ってやってくれるか?」

「はい。ルククちゃん、ちょっとこっちへ運ぶね」

「よろしくてよ…ふぅ。ありがとうなのですわ」

「では目を瞑り眠りにつくんじゃ、ルククよ」

「はい…」

「さて引っ越しじゃわい。よいしょっと…」

 神様の足元がふわっとフルルから離れると、それはすぐさまルククに移った。

「…ふぅ。引っ越し完了じゃわい」

「案外と簡単なもんなんだな」

「どちらかと言えば受け入れ側の問題じゃからの。普通なら生まれたばかりの真っさらな子供に行くものじゃからな。ここまで大きくなった者に行くのは初めてじゃい…ま、それだけルククに覚悟ができてるということじゃな。さて、わしはルククの中へ入るからの、フルルによろしくじゃ」

「いえ、ボクはおきているのでして」

「フルル!」

 神様の出現と共にいつものように眠っていたフルルが目覚めている。

「おおばばさま。はじめましてなのです」

「そうじゃな。フルルは生まれた時からじゃからの」

「おあいできてこうえいなのでして」

「フルルはこのばぁさんが自分の中にいるって気が付いていたのか?」

「なんとなく…みんながおおばばさまにあったことがあるのにボクだけなくて、もしかしたらって。あの、おおばばさま。いままでボクをまもってくださってありがとうございますなのでして」

「うむ。これからはお前の身体はお前だけのものじゃ」

「ハイなのでして」

「あとはよろしくな。カナート。メルリ」

「ああ、任せとけ」

「仰せつかります」

「おう、そうじゃ、最後に…フルルよ、ちと耳を貸せ」

「なんでしょう…」

 何やらゴニョゴニョと耳打ちしているがこっちには聞こえない。

「ふふふ、わかったのでして! まかせてほしいのでして!」

「さて、これで心置きなくルククに移れるわい。ルククが目覚めたらよろしく伝えておくれ。それじゃな」

 ばぁさんは煙のように透けると、スゥっとルククの中へ消えていった。

「ん…んん…」

「ルククがおめざめなのでして」

「あ。おおばばさまは?」

「お前の中に入っていったよ。ルククによろしく、だってさ」

「そうですか…ワタクシは…あとはフルルにまかせたのですわ」

「ルクク…」

 ひしっと抱き合う二人。

「まぁもう一晩フルルはここに泊まるんだ、今のうちに話せることは話しておくんだな」

「…あの…カナート、さん…?」

「はい、なんでしょう?」

 ルククに初めて名前で呼ばれた。

 びっくりして敬語になっちまったよ。

「わたくしの【設定】のことなんですが…」

「ああそうか、盗まれたヤツをそのまま押っ被せられたまんまだったんだな。全部消すか?」

「いえ、これはこれできにいってまして。メイドふくというのもこのまちのたみにつかえるといういみでもふさわしいとおもってますの」

 神を内包するニンフが民に仕える、か。

 高飛車なツンデレというファーストインプレッションから随分と遠くへ来たもんだ。

「じゃぁ髪か? 銀髪は嫌だったか?」

「いえ、それも…むしろまえよりながくつややかになったくらいで…」

「ん? だとすると何が不満なんだ?」

 メルリクイズより難しい気がする。

「あの…かみがたが…ポニーテールにしかできなくて…」

「あぁ! あーあーあー! なるほど!」

 【設定】では銀髪のポニーテールだったもんな。

「ルククはどんな髪型にしたいんだ?」

「…ツインテールでおねがいします…」

 どこに恥じらう要素があったか分からんがなんか顔真っ赤になっとる。

「ニンフのせかいではおとこのひとにかみのけをいじらせるのはこういのあかしなのですよ、カナート?」

「フルル! よけいなことをいわないでくださいまし!」

 そうなんか! 難しいな、異文化交流。

「分かった。で、どうすればいい?」

「ワタクシをてのひらにのせてねんじてくだされば…」

「分かった。 これでいいか?」

「はい…」

 なんか消え入るほどか細い声で返事が返ってきた。

 そんなに恥ずかしいとはね。

 だったら尚更、男らしくさっさとビシッと決めてやるぜ!

 書き換えることはできないそうだから上書きでオプションを追加する感じになる。

 それなら…

「行くぞ… …ムンっ!」

 脳裏にルククを思い描き、念ずる。

 すると…


ぱら…


「え?」

 ポニーテールを結いていた紐が解けて長く美しい銀髪がハラリと流れ落ちる。

 …が、それだけだった。

「あの…ツインテールは…?」

「せっかくだ、他の髪型にもできるよう【ポニーテール】【以外にも似合う髪型なら何でも】って追加しておいた」

「それじゃ…」

「【似合う】とは入れたが、何でも似合いそうだ。つまりは髪型はお前さんの好きにしていいってこった。その日の気分で変えてみたくなることもあるだろう。女の子だもんな。ついでにメイド服も好きにできるようにしておいた。だからルククは自由にしていいんだぜ? 羽を失ったんだ、これくらいの自由があってもバチは当たらんだろ」

「そんな…ワタクシ…ワタクシ…」

「おやおやー? ルククさんはカナートのことがスキになっちゃいましたのでしてー?」

 フルルが珍しくグイグイツッコむ。

「ちが…そんなんじゃありませんわ!」

 ルククは真っ赤になってプイッと横を向く。

 この二人、何事もなかったらいつもこんな感じだったんだろうな…

「ルククちゃん。それじゃメルリが髪をまとめてあげますね?」

「よろしく…おねがいしますわ」

 ニンフ用の小さなブラシで髪を梳くメルリ。

 うーん、なんかいい景色だね。

「はい、できました」

「い、いかがですの?」

 おー。見事なまでに高飛車ツンデレキャラにお似合いのツインテールだ。

 鏡が無いってのはこういう時不便なんだな。

「おお。似合ってるぞ」

「かわいくできました!」

「ありがとう…ございますわ…」

 再び顔を真っ赤に。コイツは褒められ慣れてないんだろうな。庶民の出は本当のようだ。

「それじゃオレたちはこの辺で」

「フルルちゃん、また明日。今度はお迎えに参りますね?」

「ハイなのです!」

 病室を出たと思ったらメルリが引き返した。忘れ物でもしたか?


「ねぇフルルちゃん」

「どうしました? メルリ」

「病気行くの決めたって、メルリのエプロンドレスの出来上がりの時間稼ぎだったりしない?」

「ふふふ。さて、どうなんでしょー、でして」

「あ、さては! ふふ、じゃぁ明日、また」

「はいでして!」



「さて、どうするか?」

「どうする、とは?」

「フルルが退院したらここを出発だが、いつにするかなって」

「そういえば司祭さまがここを出る時は声をかけるようおっしゃっていましたよね」

「ああ、そういやそうだな。とりあえずホテル戻ってみんなと相談だ!」

「はい!」



ED「この穏やかなぬくもりに」


https://youtube.com/shorts/TfUN7HlPlsI

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