第一章サージエンス編④ 悪の三人組
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「今はまだヒミツ♡」
https://youtube.com/shorts/ztOAm6DjzNI
ピンポーン
「僕が出ます」
「あ、いや、オレが出る。ユーリは別にオレの従者じゃないからな」
「はは。そうですか」
そりゃそうだ、確かに【設定】奪取バトルで勝ったのはオレだがその後の世話のなりようからすれば対等な関係であっても構わないだろう。
まぁ何よりそうでなくてはオレが息苦しくなっちまう。
ピッ
〈今帰っだぞー!〉
この割れた音声、パイセンだな。
「今開ける」
と、ドアを開ける、と
「たっだいまー!」
「おじゃまするね、カナートくん」
「ただいまでしてー!」
「ただいま戻りました。ご主人様」
「メルリ殿。昨日はワタシを助けていただき、誠にありがとうございます」
騎士流の、例の膝をつくスタイルで礼をするグランディール。
「あ、いえ、その、ご無事なようでなによりです」
…誰? え?
「メルリぃぃぃ?」
「え? あ、はい、そうですが」
「そ、その服…」
「あ、そうですね、あの、いつものメイド服を修繕に出しましたので、代わりに、と皆さまに買っていただいて…あの…ダメ、でしたか…?」
俯き、もじもじと上目遣いでオレを見つめるメルリ。
「いや、それは構わない…が…」
問題なのは、その服だ。
ハッ、と思いつき、ユーリを見る。
そしてユーリもこちらを見ている。
険しい目つきでオレを見る。
つまり、考えが一致した。
おそらくシンクロ率400%のダブルライダーキックが出せるレベルで。
ユーリと目があった瞬間、おそらくヤツの脳裏にも浮かんだ言葉が、これだ。
童(貞を)殺(す)服
世にも恐ろしい装束がある。
胸元に大きめのフリルがある白いブラウス。
膝丈のコルセットスカート。
首元にワンポイントアクセントの紐タイ。
それを…オレはネットの世界でしか見たことがない。
だから都市伝説なのだと思っていたのだが…
それが、その恐ろしい装束が、今、目の間に。
しかもそれを身に纏うはカワイさの化身、メルリ!
死ねる。
萌えに燃えて焼き尽くされる。
しかも…足元は膝下丈の編みブーツだとぉッ?
まさに完全武装だ…
…誰だ?
誰がこの服を選んだ⁈
この中、いや…あのニヤニヤとこちらを見てるあの3人。
あの中に犯人は、いる。
…いや、共犯か? 組織的犯罪か?
クソォォォ…ヤツら、オレをハメやがったァァァ…
「あの…」
「あ…?」
おっと、メルリの一声で現実に引き戻された。
「あの…ご主人様…」
…これは…来たな、メルリクイズ!
しかしこの解は簡単だ。余裕余裕。
「ああ、似合ってるぞ」
「あ、はい、ありがとうございます…」
ぬ? この反応…違うのかッ?
いや、衣装が変わった時のメルリ方程式の解としては適切なハズ。
しかしこの反応…別解が…ある?
む。
再び振り返る。
ヤツら…まだニヤニヤしてやがる…
何か入れ知恵されたか⁈
クソォ、清純潔癖たるメルリだからこそ童殺服ですら本来の機能を発揮するというのに、不浄なオトナの思惑を持ち込みおって…
落ち着け、カナート。
考えろ! 考えるんだ‼︎
オマエはメルリに相応しい主人になると誓ったのではないのか⁈
…ダメだぁ…わかんにゃいよぉ…
…あ。
「そうだ、これを」
ポケットから取り出す小さな包み。
「メルリに渡そうと思ってたんだ」
「え、何ですか?」
「開けてみてくれ」
「はい…わぁ…」
昨日の買い物の時に買ったヘアピン。
そういえばまだ渡してなかったんだよ。
まぁあの後、歯ブラシデブと斬ったり斬られたりしてたからなぁ…
で…あ、アレェ?
「ご主人様…」
オレを見上げるメルリの目に涙が溜まっている…
「うわ、その、あの、どどどどうした? イヤだったか? 違ったか? それ返して違うの買おうか?」
「いえ、違うんです。ありがとうございます! 嬉しくて…あの、グズッ…ありがとうございます!」
「お、おう。そ、それは良かった」
うわー、ビックリした!
「付けてみてくれるか?」
「…あの…付けて下さいますか? ご主人様…」
上目遣いに懇願された。
「ご主人様のお気に召すところへ…」
「お気に…って…こ、この辺で、どうかな?」
手渡されたヘアピンを、すっとメルリの前髪に付けてやる。
「メルリからは見えませんので…どう、ですか?」
「うん。似合うぞ」
ふっと後ろを振り返る。
ど、どうなんだ? 共犯者の3人!?
(ウソ、だろ…)
(そんな…カナートくんにあんな甲斐性があったなんて…)
(ヌカったっす! ヘアピンは盲点だったっす!)
(それだけじゃないよ! 返すメルリちゃんの反応…相手に付けさせるなんて…なんという上級者っぷり!)
(正直、エロっ!とか思っちゃったよー)
(まぁメルリちゃんが幸せそうだし、いいんじゃないっすか?)
…なんだあの表情…悔しそうな…あるいは怨嗟に満ちたような…
だが、このメルリの表情よ。
多分…
勝った、な。
(まだだ…まだ終わらんよ!)
「メルリちゃーん」
おもむろにパイセンは立ち上がり、メルリに何か耳打ちした。
「!?」
ビクンとなったメルリ。
ふと、メルリの視界にオスカレッテが入った。
(…『女の自信』…か…)
「わかりました」
何かを決心したように、強く応えるメルリ。
「カナっちー。ちょっと部屋借りるよー。ヒィちゃんとリリアさんも来てー」
「ミキミキさん、ウチはフルルさまの件があるので外れるっすね」
「そっかー、分かった」
何を企む…パイセン!
◆
「オーラトゥム! こちらへ!」
「はい! オスカレッテ先輩!」
メルリたちと一緒に帰って来た女がグランディールに呼ばれ、話し合いの席に着く。
「紹介する。白騎士団サージエンス支部民生部のリリア=オーラトゥムだ」
「はじまして、民生部のリリア=オーラトゥムっす。どれだけの期間になるかは分からないっすけど、皆さまのサージエンス滞在中のサポートをするよう、司祭様から仰せつかったっす」
「彼女は民生部のエース、非常に優秀だ。困ったことがあれば頼るといい」
「よろしくお願いするっす」
すっす言ってる時点で…と思わなくもないが、何よりそこのお堅くクソマジメなグランディールが優秀だというのだ、そこは信用がおける。
「オーラトゥム、お二人には簡単にだがフルル様の病院については話してある」
「了解っす。それで、フルル様。いかがするっすか?」
悪巧みでメルリを弄ぶパイセンたちから逸れ、フルルはテーブルの上でちょこんと女の子座りしている。
「カナートたちはどうなのでして?」
「どうって…オレは全然構わないし、フルルの意思でと思ってるんだが、ユーリはどうなんだ? お姉さん探しもあることだし」
「ああ、それで気を使わせてしまうのは申し訳ないですね。手掛かりでもあれば別ですが、こちらも急ぐ旅ではありませんので、フルルさん次第と思っています」
「そうでして…」
(あ! でして!)
「それではよろしくおねがいするのでして!」
「分かったっす。では病院に連絡入れるので、ちょっと待って欲しいっす」
と、ケータイを取り出し
「もしもし。民生部のオーラトゥムと申します。先ほど連絡したフルル様の件で、はい、先方の了解が得られましたので。はい。はい。分かりました。明日一番で、はい。持ち物は…はい、分かりました。それでは先生によろしくお伝えください。はい。よろしくお願いします。はい、失礼します」
っすって言わねぇ!?
なんだこの女、普通にできる女じゃねぇか!
「フルル様、予約取れたっす。明日朝一番で診てもらえるっす」
また、っすに戻った…
「では明日、付き添いは?」
「まぁメルリが行くだろうな。ならオレも、となるが」
「ウチは病院まで案内するっす。何かあれば民生部へ連絡して欲しいっす」
「分かったっす」
あ、伝染っちゃった…
「カナートくーん! ジャーン!」
バスタオルで身体を包んだメルリがパイセンたちに連れて来られたかと思えば
「パージ!」
「ひゃん!」
バスタオルをひん剥かれたメルリが…下着姿に…
「ほらー! ほらー! ねー? かわいいっしょ? かわいいっしょー?」
「ね? かわいいよね! ね? カナートくん、感想は? 感想!」
「ゲフッ ゴホッ う、か、カワイイんじゃ、ないでしょうか…l
バカヤロウ! 咽せちまったじゃねぇか!
…白い肌に纏わるそれは、白地に淡いピンクと緑の刺繍で花柄をあしらったブラジャー、そしてお揃いのパパパパンティ!
カワイイ、というよりは美しい、そう言っても過言ではない。
「あの…やっぱり恥ずかしい…です…」
真っ赤な顔で胸元と股間を隠す姿がいじらしくカワイイが
「パイセン…その辺にしときましょうか…」
「えーっ。こんなかわいいのにもったいないー」
もっとじっくり眺めていたいくらいだが、そうはいくまい?
ああ、ユーリ?
オレの横で白目剥いて固まってるよ。刺激が強すぎたんだろう。
「うーん残念。じゃ着替えよっか」
「…はい…」
(やだ…すごいドキドキしてる…水着ならなんともなかったのに…見られて恥ずかしい…のはそうだけど…もっと見て欲しいって気持ちも…メルリだけを…ヤダ、メルリ何を言って…でもあの女性がいるんじゃ…)
「カナート…ミキミキたちは…一体何をやっているんだ?」
「オレに分かるか…」
むしろオレが知りたい…
◆
ED「この穏やかなぬくもりに」
https://youtube.com/shorts/TfUN7HlPlsI