第一章サージエンス編③ ニンフの医者?
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「今はまだヒミツ♡」
https://youtube.com/shorts/ztOAm6DjzNI
「僕がお茶を淹れましょう」
「あ? ああ、すまない。それで、白騎士団の団長さんがオレに何の用だい?」
「昨日は盗賊団討伐にご助力いただき、治安部一同誠に感謝の念に絶えない。礼を言う…助力というか、ワタシは意識が無かったので詳細を知らぬが、アナタとメルリ殿で倒したと聞く」
「うん…まぁ、そうだな」
「私は…無力だ…この街に貢献できなかった…」
と、ガックリうな垂れる。
「そうは言うけどよぉ、オレもさ、メルリがいなかったら正直ヤバかったぜ? そもそもお前を治療したのはメルリだぞ」
「そ、そうなのか?」
「だから、礼ならメルリに言えよ。ここへ来る途中で会わなかったか?」
「エントランスでお会いした。まさかそんなこととはつゆ知らず、礼も言わなかった…」
「まぁ買い物に出てるだけだ、すぐ戻るさ」
「なんでもメルリ殿の下着を買いに行くとか」
「聞いたのかよ?」
「ああ。ミキミキ殿が教えてくれた」
「それはしゃべって良かったのか? で、要件はそれで終わりか?」
「いや、その件と関連するのだが、しばらくサージエンスに滞在いただくとのことで、司祭様が民生部から1名、派遣するようにと。その紹介で参った」
「え? だって、オマエ一人じゃん?」
「先程エントランスでお会いしたと言ったが、その際、その者は買い物の案内の任務に就いて、現在も遂行中だ」
「白騎士団って観光案内もやってんの?」
「まぁ近いかもしれん。民生部は一般市民の生活の補助をするのが仕事だからな」
「ふーん。で、終わり?」
「いや、まだある。フルル様についてだ」
◆
「似合う! すっごい似合う! さすがメルリちゃん!」
「ほえー、かわいいのでして」
「そ、そお? 何だか照れちゃうな」
「これにしよー! これで決定ー!」
「でも…これではフルルちゃんが入れるところが無いですよね?」
「「「あ…」」」
「不覚…!」
「見た目にステイタス振り過ぎて機能面を怠った…」
「可愛さ余って憎さ百倍とはこのことっす…」
「では残念ですが、お返ししなくては、ですね」
「メルリはこのおようふく、きたいのでして?」
「え? まぁ…着れるというのなら着てみたい、かも…」
「ならきるといいのです」
「え? それではフルルちゃんが」
「メルリはボクのうんぱんがかりじゃないのですよ?」
「おお、フルルちゃんがオトナな意見を!」
「エヘン! カナートもいってましたが、メルリはもっとわがままいってもいいのでして。ボクはメルリのともだちだからわがままをきいてあげたいのでして」
「フルルちゃん…」
「そもそもこのまちにいるあいだはうんぱんがかりはもうひとりいるのでして!」
「ウチ? もちろんで…あ!」
「ん? どうしたのでして?」
「そもそもウチ、フルル様に用があって来たんすよ」
「ほえ? ボクに?」
◆
「司祭様から聞いたが、フルル様は羽をもぎ取られたそうで」
「ああ、盗賊にやられた、って言ってたよ」
「この街にはニンフの専門医がいる。診てもらってはいかがだろうか?」
「ほう…腕は確かなのか?」
「他にニンフを診れる医者がないので比較はできないが、遠方からも患者がみえるそうだ。先日の人質となっていたニンフもその医者の元に預けられた。いかがだろうか?」
「いかがと言われても…本人の意思を確認してみないとな」
「それはもっともだが、まずはカナートに話を通しておこうと思ってな」
「なんでオレ?」
「今ここにフルル様がおられるなら話は早いが、フルル様はメルリ殿と仲がお宜しいようなので、メルリ殿の主人であるアナタに、ということなんだが」
まわりっくどいな。
◆
「へぇ」
「ニンフ専門のお医者さん…そいうのもあるのかー」
「どう? フルルちゃん?」
「どうって…ボクがきめてよいのでして…?」
「ミキミキさん、いかがでしょう?」
「フルルちゃんの好きにしていいよー」
「ヒミコは…」
「いいんじゃない?」
「ええ…どうしましょうでして…」
「フルルちゃん、何が気になるのー?」
ミキミキがメルリの肩に乗ったフルルを覗き込む。
「ボクはみんなにおせわになってばかりなので…」
「あらあら、この子ったらー。メルリちゃんの遠慮グセが移っちゃったのかなー?」
「え? メルリ?」
思わぬ飛び火にうろたえるメルリ。
「まぁメルリちゃんはともかくだな…んー、じゃぁ今から帰ってみんなでお話ししよっかー? いやそうしよう。決定ー!」
「フルルちゃん、ご主人様やユーリ様のご意見も聞いてみましょう?」
「はい、でして…」
「あー、それじゃウチ、オスカレッテ先輩に連絡してみるっす。まだカナートくんのとこにいるなら皆さんと一緒に行って合流するんで」
と、リリアは胸ポケットから携帯電話を取り出した。
「ケータイーっ?」
「そんなものがあるんだ…」
◆
「診察受けるというならなら白騎士団から予約入れれば話もスムーズに行くと思う」
ピリリ ピリリ
「ん? 何の音だ?」
「ああ、ちょっと失礼」
と、オスカレッテは胸ポケットから携帯電話を取り出した。
「ああ、ワタシだ ああ、分かった。ならばこちらで待たせてもらえるようお願いしておく ああ、待っている」
ピッ
「すまない、待たせた。今、オーラトゥムから連絡があって、みんな今からこちらへ帰るそうだ。オーラトゥムも一緒に来るということなので、それまでこちらで待たせてもらってもよろしいか?」
「それは構わないが…携帯電話ってあんの?」
携帯電話…スマホじゃないぞ、ケータイだ。しかもパカパカするヤツ。大昔に見たことはあるが、触ったことはないな。
「ああ。あっちにあったものは大概あるな。【真祖の魔王】も便利な方がよいのだろう」
「【真祖の魔王】…結構俗物だな」
「【真祖の魔王】も人の子なのだろうな。だが、電話はできるんだが、カメラは付いていないのだ」
「それはその機種が、ということですか?」
「いや、ありとあらゆる機種が、だ。その調子だとアナタ方はまだ気付いていないようだな。この世界には鏡がない」
「は?」
「ああ、そうですね、言われてみれば」
「なんなら波一つ立ってない池を覗いても自分の姿は映らない」
「なぜ?」
「さぁ?」
「さぁ?って」
「そういう【設定】になってるとしか。だから自分の姿、特に顔は自分で想像するしかない。絶世の美男美女になりたいって思っても、果たして自分がどういう顔なのかは知りようがないのだ」
「時計やカレンダーが無いというのは気が付きましたが…なるほど、自分の姿を確認できるものは一切排除されていると。それに気付くのも女性ならではですね。我々男はあまり鏡を気にしませんからね」
「そんなことないぞ? オレは毎日鏡に映るイケメンが誰なんだか気になってたからな」
「カナート、それは家に不審者がいる、ということか?」
しまった…グランディールの頭の硬さを失念していた。冗談が通じねぇ…
ユーリはまた視界から消えている。
そりゃ面白ぇだろ、この歯車の噛み合わなさ具合。
…起き上がった。プルプルしながら…
「ああ、ええと、それで、なぜなんでしょうね? 過去には遡れない。自分の姿は確認できない」
「【真祖の魔王】の仕業だろうことは分かってはいるのだが、理由までは…」
「おお、【真祖の魔王】といや、歯ブラシオークたちはどうなった? 取り調べとかしてんの?」
「歯ブラシオーク?」
これも通じねぇか…
「オラシオン=ハウウェルのことだよ!」
「ああ、盗賊の頭か。現在も取り調べ中だが」
「アイツ、【真祖の魔王】の手下とか言ってたよな?」
「そうなのだが、実際のところは会ったことすら無いらしい」
「ハッタリかよ⁈」
「だがあちこちで【設定】を奪ってはどこかに届けていたらしい。攫われたニンフの皆様の行方共々、現在取り調べと捜査をしているところだ」
「【真祖の魔王】までの道のりは、このように遠いのですよ、カナート」
「アナタ方は【真祖の魔王】を探しているのか?」
「【真祖の魔王】っちゅうか、【真祖の魔王】に攫われたユーリのお姉さんを探している」
「そうか、攫われて…労しいことだな」
静かにそう言うと、グランディールはティーカップを取り、お茶を一口啜る。
「ンボフッ?!」
かかったな、グランディールめ。
『ユーリが淹れたお茶』の意味を知らねばこのトラップは回避できまい。
こちとらロッジで出た晩メシで経験済みだ!
「ゴホッゴホッ…失礼した。少々咽せてしまってな」
ハンドバッグからハンカチ出し、口元を拭う。
無骨な脳筋騎士かと思えばちゃんと女性らしいところもあったりするんだよな。
「お口に合いませんでしたか?」
「いや、そんなことは…それで…その…」
「どうした?」
グランディールがモジモジしてる。なんかキモ…いややめておく。だってメルリママに叱られちゃうもん!
「それで…あの…追加された【設定】の方…どうにかしてもらえないだろうか…」
「ダメだな」
一刀両断。
「グッ…し、しかし…下着の方はせめて…」
…コイツ、なんか顔が赤いぞ? 恥ずかしいなら言わなければ済むだろうに。まぁ、そこまで羞恥を与えるつもりはないんだが…
「そいつはメルリとセットだ。ありがたく着けとけ」
ひでぇ目に遭わされてんだ、こっちはこっちでそうは簡単に引き下がれねぇ。
「ぐぬぅ…下手に出ればぁぁぁ…」
「そんなんだから外せないんだっつぅの。まぁそんなことより、主メルリに説教でもされてこい。新しい世界の扉が開くぞ」
「アナタは…ヘンタイか?」
「お褒めに預かり、どうも」
◆
ED「この穏やかなぬくもりに」
https://youtube.com/shorts/TfUN7HlPlsI