移動中小話①
本編がシリアス方向へ向かっているのでちょいと一息、ほのぼの系を入れてみました。
若いヤングな人にはわからんネタですが。
サージエンスからモルドレンまでの列車の旅。
車窓を流れる森林の風景。
それも初めのうちはキレイなもんだと眺めていたが、ずっと同じならそりゃぁ飽きる。
飽きてなおジッとしていられればいいが、そうじゃないのがいるものだ。
しかもそれが年長者たちだったりすると手に負えないわけで。
これは…そんな困った人たちの話。
◆
モルドレン行きの列車の中。
座席はいわゆるボックス席というヤツだ。
まぁ壁際にしかベンチシートがない客車で丸1日の旅とか言われたら、通勤通学ラッシュでなくとも絶望的にしかならんが。それよかマシ、か。
そんな席に、オレとユーリが対面に座り、その後ろの席にグランディールとリリアの白騎士団コンビ。
問題は…1つ置いてパイセンとヒミコ。
メルリは、と言うと、最初はフルルを胸にオレの隣にいたんだが、まぁ何しろ物言わぬオレとユーリだ、そりゃ飽きる。
飽きてパイセンとヒミコの席へ行った。
ヤツらがなんで席1つ置いたのか、そりゃ分からん。
内緒話を聞かれたくないのか、まぁそんなところだろう。
そこへメルリが混じり、仲良く談笑していたのだが…次第にその会話の音量が下がっていった。
もはや内緒話レベル。
いや、聞き耳立ててたんじゃないぞ?
だって、あの人たち、フツーに声デケェんだもん。
それが音量下げるんだから、寝てんのか?くらいには思う。
でもなんか聞こえるわけで…童殺服という前科があるからな、あの二人は。
◆
とととー、とメルリがやってきた。
「ご主人様。見ててくださいね?」
「ん? 何を?」
メルリを見る。
やにわにメルリはオレに背を向け、おもむろに上体を捻ってこっちを向くと
「大好き!」
は?
え?
何?
どう…反応すればいい?
「あ、ありがとうございます。オレもです」
と気の抜けた返事。
「もう! 分かってないなー、ご主人様!」
と、メルリは引き返す。
え? え? え?
今の、メルリクイズ?
いや、なんだ、それ。
ノーヒントにも程が…
って!
向こうの座席でパイセンとヒミコが大笑い。
車内で大声出すのは他のお客様にご迷惑が…って、誰もいねぇ!
この客車、オレたちだけだぜよ。
だもんで、遠慮無しの大爆笑。
ヒーヒー言ってんぞ…
「なぁ、ユーリ。今の、何?」
メルリクイズじゃなさそうなんで、これは気楽に誰かに聞けるが
「昔、90年代だったかの深夜番組で、CM入る前のアイキャッチで使われてたものですね」
「で…それで…笑いどころは?」
「さぁ? 僕にも分かりかねますが」
だってよ!
ほらーっ! 物知りユーリ様だって分かんネェって言ってんぞ!
…とメルリを責めても仕方ない。
そもそも12歳のお子様だぜ?
こんなに長時間、列車の中でおとなしく過ごせってのが無茶振りだっての。
しかし、それはともかく。
それ吹き込んだヤツは誰じゃーい!
いや、犯人分かってるんだけどさー!
ウチの子に変なこと、教えないでほしいザマス!
少しの時を置いて…
とっとっとー、とまたメルリがやってきた。
「ご主人様!」
「ん?」
「メルリ、だっちゅーの」
いや、ちょっと待て。
「あ、いやー! ご主人様ー!」
オレはメルリをふん捕まえ、小脇に抱えるとパイセン達の席へ行く。
「よーよー、パイセンよー。ちとウチの子に変なこと教えないでくれますかネェー?!」
オレに抱えられたメルリは
「いやー! いやー!」
と手足をバタバタさせている。
そしてパイセンたちは…やっと笑い終わった。
いや、笑い終わったって言葉があるのか知らんが、ずっと笑いっぱなしだ。
しかも…ヒミコに至っては泣いてるよ…笑いすぎて。
「いやー、いやいや、カナっち、ちびっ子のちょっとしたイタズラじゃないかー。見逃してくれよぉー」
「そうはいかねぇ。ウチの子にはそういったセクシャルなポーズとか禁止なんスよ。分かるっスかねぇ?」
「あーあーあー、分かった、分かった。分かったから、メルリちゃん、リリースしてあげてぇー」
分かってねぇな。だって笑ってんもん。
ともかくメルリを降ろすとオレは自分の席に戻る。
だが戻って間も無く
とっとっとー、からの
「大好き! だっちゅーの」
ダッ!
メルリがヒット&アウェイを覚えた。
謎ギャグのコンビネーションまで。
クッソー。誰かさんたちのせいで、要らん知識が増えて行く。
さらに
たったったー、からの
「だっちゅーの」
ピョコ
「だっちゅーの」
解説しよう。
まず初弾、メルリの「だっちゅーの」から、胸の谷間からフルルが飛び出し「だっちゅーの」。
つまり…そういうことだ。
分かった? 分かんねぇよなー…
でもアチラの席では大爆笑。
メルリとフルルもコンビネーションが決まって楽しかったのか、一緒に大笑いしている。
いや…
隣にもう一人いましたわ…
「ユーリサンよぉ…」
「いやいや、今のメルリさんとフルルさんのコンビはさすがに僕も笑いますって」
「ええぇ…?」
なんだか、オレだけ置いてけぼり?
いや、違うらしい。
オレの後ろでこしょこしょ何か聞こえる。
この声、グランディール、か?
そして人の気配。
横を見れば…メルリとグランディールが縦に一列。
「せーの…」
「「だっちゅーの」」
そしてメルリがヒット&アウェイで逃げていった。
キャハハと笑い声を残して…
いや、もう一つ残されたのがグランディール。
「…何…やってんの?」
「いや、ワタシも何をやっているのか分からなくてメルリ殿に伺ってみたのだが…一緒にやろうと誘われて…」
「で…分かった?」
「いや…さっぱり…」
仲間いたー。あまり嬉しくもないが。
そんな感じで、暇を弄びながらの列車の旅は、ゴールまでまだかかる…ようだ。




