第二章モルドレン編⑭ 割れるモルドレン
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「今はまだヒミツ」
https://youtube.com/shorts/ztOAm6DjzNI
「たっだいまぁ…」
「おかえりなさい。ミキ先輩」
「お疲れ様です、ミキ姉さん」
「カナっちは?」
「ここの医務室に。メルリさんのそばにいます」
「ふぅぅ…そうか…」
ミキは仕方ないな、という顔でため息をつくと
「ちょっと様子見てくる」
と、医務室へ向かった。
◆
「カナっちぃ。メルリちゃんの様子はどうだぁい?」
医務室に入り、カナートの姿を確認すると小声で話しかけた。
メルリはキメラとの戦いの後、地に倒れ伏せると元の姿になり、それきり目を開けていない。
同時に、メルリの中に飛び込んで行ったフルルも、まだ外へは出ていなかった。
「おつかれさん、パイセン。ここの医者が言うには意識が無いだけでバイタル的には問題ないって話なんだけど」
「そう… …ねぇ、メルリちゃんが心配なのは分かるんだけど、ちょっと来てくれるかな。みんなと話したいことがあるから」
「ここじゃダメなのか?」
「うん…みんなの意思を確認したいから。ごめんね、カナっち」
「いや…分かった、行くよ」
いつもと違うミキの様子、それに素直にごめんと言われた違和感に、カナートは、呼ばれる理由がタダ事ではないのだなと直感した。
◆
「ごめんね、みんな。疲れてるとこ、集まってもらって」
なんか違う。これパイセンなのか?
トーンが低めで声に張りもない。
「ミキ先輩、何かあったんですか?」
そう思ったのはオレだけじゃなかったようだ。
「うん…まずね、今さっき、あっちの子と面会してきたんだけど、それは…そんなに大事な話じゃないかな。いずれ話のタネにでもって感じで。問題はね、拘置所からここまで、ちょっと歩くんだけど、街がね、モルドレンの街が大変なことになってるのよ」
「大変って?」
「さっきの戦闘の件でね、街が…モルドレンの人たちが真っ二つに分かれて…言い争ってる。それでね、特にカナっちには冷静に聞いて欲しいんだけど、キメラから街を救ったのはメルリちゃんだって派閥と…キメラを呼び寄せたのはメルリちゃんだって、メルリちゃんが街を壊した犯人だっていう派閥と…そしてね、メルリちゃんを犯人とする人たちは、口々にこう言ってるの。『エルフォイドだ』って。メルリちゃんのことを」
「エルフォイドって…何?」
「意味は分からない。侮蔑的な意味はあると思う」
ガタン
「待って! カナっち、待って!」
オレは…全身が震えていた。
怒りで。
「お願い! 今は立ち上がらないで!」
パイセンがまるでタックルするように組み付き、オレを押し留める。
「カナっちの気持ちは分かるの! ここにいる誰もが、メルリちゃんは関係ないって! メルリちゃんがキメラを倒した英雄なんだって! でも! でもね! そうは思わない人もいるって話なの! …あたしね…メルリちゃんが好き。カナっちが好き。二人が、仲良く楽しそうに笑ってるのを見るのが大好き。でも、あたし、怖かったの! 感情ムキ出しで罵り合う人たちを見て! こんなのに巻き込まれたら…メルリちゃんもみんなも巻き込まれちゃったら…って想像したら…もう怖くって… …だから…お願い…今は事を荒立てないで…お願い…お願い…」
オレの胴に回った腕が震えている。
最後はもう消え入るかのように、小さな声だった。
「僕からもお願いします、カナート。何より、あなたが本気で動いてしまえばこの街そのものがタダでは済まない事態になりかねない。一度やってしまえば、今度はあなたが、街の破壊者としての誹りを免れない。自重することも強い力を持つ者の責務です」
確かに…手加減なしに【焼き鳥火炎】でもブッ放そうもんなら人や物がどれだけ消えるか…
「分かった…」
「ありがとう…カナっち…」
「この件、白騎士団はどう動いているのです?」
「うむ…モルドレンの支部でも、事を起こしたのはハルキとかいう男で、キメラを倒したのはメルリ殿、我々と同じ認識だ。ただ、当事者のハルキの姿が無い上に、メルリ殿…いや、『裏メルリ』がキメラ打倒に使ったモノが、危険魔法に当たるのではないか、との見方も出ている」
「あれは魔法ではないですよ?」
「理屈ではどうでも、見た目がどうか、という話でな。特に一般民衆にとっては魔法かどうかの中身は関係ない。説得に時間がかかるのは間違いないところだ」
「ミキ姉さん、これからどうするの?」
パイセンはオレから離れるとみんなの方へ向き直った。
「グズッ…ごめん、こんな顔で…グズッ…みんなに集まってもらったのは…それぞれの意思を確認したいから。あたしは…ほとぼりが冷めるまで、街の外に出た方がいいのかな、って考えてる。でも急な話でユー君に行動計画作ってもらってないから…アテのない、終わりのない旅に出ることになっちゃう可能性がある。だから…街を出るか、街に残るか、みんなそれぞれで決めて欲しい。考える時間無くてごめんね…誘導のつもりは無いんだけど、あたしとオスカレッテさんは、メルリちゃんを連れて外に出るって決めてる。まずはメルリちゃんを連れ出さないと、身の危険が起こりそうだからね。カナっちから奪ってでも安全を確保したい、そう思って…」
「少なくともモルドレン支部で騒ぎを抑えられるまで、モルドレンの外へ出ていた方がいいことだけは確実だ」
「勝手に決めんなよ…」
「カナート!」
「カナートくん…」
「勝手に決めんなよ、そんなこと!」
「ごめん、でも」
「違う! そうじゃねぇっ! メルリの笑顔を守るのはオレの【役目】だ! その【役目】を勝手に取るんじゃねぇ! オレは守る。メルリを守る。だから! どうしてもメルリを守りたいってなら!」
オレはパイセンに右手を差し出す。
「オレについて来い。一緒に守ろう」
「カナっち…ありがとう、カナっち…うぅ…ウワァァァァァァァァ」
パイセンはまたオレに抱きついた。
そして誰の目を憚ることなく、大泣きしている。
「ごめんね! ごめんね! あたし、こんなことしか思い付かなくて…どうしようもなくて…」
これが…人をまとめるリーダーの重圧ってやつなんだろう。
リーダーとかそんなのの前に、パイセンも人なのだ。
そっとパイセンを抱きしめた。
「ユーリはどうするんだ?」
「ミキ先輩について行くと、元より心は決まっています」
「ヒミコは?」
「うん…グズッ…わたし、ミキ姉さんに初めて会った時に決めたんだ。ずっとついて行くって。こんな温かい人になるんだって。だから行くよ、一緒に。まだまだ学び足りないからね」
「ヒミコは学ばなきゃいけない人、多いな」
「あはは。そうだね。メルリちゃんからもまだまだ学ばなきゃいけないから、ずっと一緒にいなきゃね!」
「グランディールは…それで良いのか?」
「良いも何も…そうするということは、カナート、アナタが決めたことでもあるぞ?」
「あ、ああ、そうね、そう。リリアはどうするんだ?」
「え? どうも何も、先輩について行くんすけど」
「そんな簡単で良いのか?」
「そもそも、メルリちゃんの中に入っちゃったフルル様がまだ出てきてないっすから、メルリちゃん行くところフルル様ありで、護衛任務は継続っす」
「そうか」
モノは言い様だな。
みんな離れたくないんだ。
「まぁ、あの…ついて来いとか偉そうなこと言っちゃったけど、オレはメルリを守ることで精一杯だ。だから、パイセン。オレたちのこと、まだまだあんたが仕切ってくれるか?」
「グズッ…うん」
オレもまたその一人。この人に、ついて行く。
◆
その日。
オレたちは白騎士団の手引きで、この街、モルドレンを後にした。
夜の闇に紛れて。
時計もカレンダーもない世界の、日付が変わる頃に。
ED「この穏やかなぬくもりに」
https://youtube.com/shorts/TfUN7HlPlsI




