第一章サージエンス編② 女の自信
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「今はまだヒミツ♡」
https://youtube.com/shorts/ztOAm6DjzNI
ピーン ポーン
オスカレッテを乗せたエレベーターが最上階へ着き、扉が開く。
カナートの部屋へ向かおうとしたところへ、見覚えある人影が。
「ユーリ殿!」
「おや、オスカレッテさん。何か御用ですか?」
「ああ、カナートに、ちょっと」
「奇遇です。僕も今、カナートのところへ。ご一緒しても?」
「お邪魔でなければ」
「暇なので顔を出そうかというだけですから。お気遣いなく」
「かたじけない」
◆
「んんー ふわあぁぁぁ」
メルリの胸元からひょっこり顔を出し、フルルが大あくび。
「フルルちゃんおはよう。よく眠れた?」
「はいでしてー ふわぁぁ ここはどこなのでして?」
「フルル様、おはようございますっす。ウチは白騎士団サージエンス支部民生部のリリア=オーラトゥムと申しまっす。今はサージエンス南3区あたりっす。メルリさんの下着を買いに行ってるところっすよー」
「おおぅ、メルリのしたぎ! それはボクもえらぶのにさんかしないといけないのでして」
「構わないけど、なんでー?」
「ボクのいごこちにちょっけつするからなのでして!」
「「「なるほどぉ」」」
◆
「ココっす!」
鼻息も荒くリリアに案内されたのは女性下着の専門店。
「ウチらも結構利用するんすよ。こんちわー、カトレアさーん。お客さん連れてきたっすよー」
「いらっしゃいませ。あらリリアさん」
「カトレアさーん、この子の胸周り測ってあげて欲しいっす」
「よろしいですよ、ではこちら…この子って…メルリさんッ⁈」
「そうっす! サージエンスの英雄っす! 丁重な扱いを要求するっす!」
「英雄だなんて、そんな…」
「もー、昨日は大変だったんすよー」
「あら。またオスカレッテちゃんが無茶して突っ込んだんじゃないの?」
「あらら? 身近に同じことをする子がおったっけねー…」
「…今はメルリちゃんのブラ選びに全集中です…」
「違うっすよー…今回は…ともかく彼女の! バストを! この大きさでノーブラっす!」
「あらあら! それはいけません。分かりました」
「あの…その…」
「大丈夫よ。ちゃんと計って正しいサイズ着けないと大変なことになっちゃいますからね。メルリさん、こちらへいらっしゃい?」
カトレアが試着室へ誘うと
「あのー、ボクはどうしたらよいでしょう…?」
フルルがひょっこり顔を出す。
「ニンフ様ッ⁈」
突然目の前に現れたフルルに驚いたカトレアは、以前フルルがそうしていたのと同じように、スカートを摘み上げ、会釈した。
それに返すようにフルルもまた同じく会釈をする。
「フルル様はウチが責任持ってお預かりするっす」
「ではお願いしますね?」
「それ! よいしょ!」
メルリの手からリリアの手へ、フルルが這い移った。
「では参りましょう!」
「あ、あれぇ…!」
メルリは店員に手を引かれ試着室へ連行された。
ジャッ
(では両手を上げてくださいね)
(いや、あの、その、あン、く、くすぐったい!)
(じっとしててくださ…ちょ、ちょっとお待ちいただけますか?)
ジャッ
試着室のカーテンが開くとカトレアが3人と1人の元へ神妙な面持ちでやってきて、小声で囁いた。
「あの…メルリさん、下、履いてないんだけど…」
「いっ? マジっすか?」
「あ…」
「カナートくん、下着の【設定】してないってことは、そういうことだよね…」
「ショーツも…ご用意した方がいいのかしら…?」
「「「もちろんです!!!」」」
「ですよね…承りました…」
「あっぶねー…メルリちゃんミニスカじゃんかー」
「…何度か転んでたよね?」
「それって乙女のピンチじゃないっすか…」
――――数分後。
ジャッ
試着室のカーテンが開かれる。
「どう?」
「スゴい…軽い…」
「今まで重かったし、擦れて痛かったでしょう? でももうこれで大丈夫よ。一緒にショーツも可愛いのを選んでおきましょうか。きっとカナートさんも喜ばれるわよ?」
「ええっ? ご主人様になんて、そそそそんな…」
「あら? てっきりそういう間柄なのかと。でも女の子はいつ見られても困らないような下着を着けておいた方がいいわよ? それが自分の自信にもなるもの」
「自分の…自信?」
「そう。女としてのね」
◆
「あの、ありがとうございました、代金まで払って頂いて…」
「まぁこれもこの街の善意ってことでー」
「メルリさんの乙女を守れるなら、サージエンス市民一同、誇りに思うっすよ」
リリアは両掌にフルルを乗せながらドンっと胸を張った。
対してメルリは申し訳なさそうに上目遣いで縮こまる。
「あ、あの、リリアさん? その、メルリに『さん』付けするの、やめて…いただけますか?」
「えー? サージエンスの誇りなのに?」
「あの、そんな呼ばれ方するの、慣れてなくて、緊張しちゃうので」
「じゃぁ、メルリちゃん、でいいっすか?」
「ぜひそうしてください」
メルリは苦笑い。
「英雄の頼みとあらば。で、どうっすか? 着け心地とか」
「その…動きやすいです。でも、ちょっと…」
「なんか違和感とかあるの? だったら戻って直してもらわないと」
「いえ、違うんです。持ち上げられてる分、前よりも足元が見えにくく、というか…そうでなくてもよく転ぶのに…」
「あー…そりゃあたしたちにゃぁ分かってあげられない悩みだにゃぁ…」
額に手を当て3人揃って天を仰ぐ。
「あ! いいこと思い付いた! メルリちゃん、カナートくんに手を繋いでもらえば良いんだよ!」
「そーだー! それ良いぞ、それ!」
「ええぇっ? はい…今度お願いしてみます…」
「断られたらあたしに言いなよー? 説教してやっから!」
と、ミキは拳を振り回す。
「ははは… あ、リリアさん、お店、ご紹介くださってありがとうございます。カトレアさん、素敵な方でしたね。勉強になりました」
「勉強に? どんなっすか?」
「自分の、女性としての自信なんて、考えたこと無くって」
「まーねぇ。メルリちゃん、カナートくんに愛されてるもんねー」
「あああ愛されてるだなんて」
信号が変わったかのように急に真っ赤になり両手をバタバタさせて否定する。
「ああ、そっか…愛されてるってもいろんなカタチ、いろんな意味の愛ってあるからね。男女間のっての抜きにしても、メルリちゃんはカナートくんからとっても大事にされてるのは分かるよね?」
「はい…」
「じゃ、そゆことー」
「でも、メルリ、何もご主人様にお返しできてないなって…」
「え? 本気でそんなこと言ってんのー?」
「そうですけど…変ですか?」
「変っていうか…マジメに考え過ぎだよー。カナートくんはメルリちゃんがニコニコしてると嬉しそうじゃん? それで十分だと思うよー」
「そう、ですか?」
「そうですよ?」
隣のヒミコが優しく微笑み、答えた。
「あの、リリア」
「はい、なんっすか? フルル様」
「ボク、もうあっちにいきたいのでして…」
「あっち…ああ、なるほど。メルリちゃん、荷物持つっすよ」
「そんな、このくらいメルリが」
「でもそうやって荷物を胸に抱えてるとフルル様が」
「あ、そうか。じゃ、お願いしますね。はい。フルルちゃん」
「ハイでして!」
メルリは両手を差し出しリリアから受け取ると、フルルはスルスルっとメルリの胸元へ潜り込んだ。
「どうっすか、フルル様。居心地は?」
「おー、しんどうがすくないぶん、まえよりあんていするのでして! すたびりてぃがこうじょうしてるのでして!」
「なんか自動車の評論みたいなこと言ってる…」
「ねぇ、せっかく外へ出てきたんだし、どっか行きたいとこあるー?」
「そうだ、リリアさん。ひとつ教えて欲しいお店が」
「お、なんでしょう? 何でも聞いてくださいっす!」
◆
「ここがオススメっす」
と、行った先は洋服お直しの店。
「あの…このエプロンドレスを直したいのですけど」
「ふーむ…縫い跡は出ちゃうけど、それでいいかい?」
「ええ。構いません」
「ちょっと日数いただけるかねぇ?」
「どのくらいで?」
「できるだけきれいに直したいからね。2日、でどうかね?」
「2日、ですか…分かりました。お願いします」
「できたら連絡入れようかい?」
「それは…」
「そしたら白騎士団のウチ宛にもらえればメルリちゃんに伝えるっすよ?」
「じゃぁ、お手数ですが、お願いします」
「すみません、お待たせしました」
「直して着るんだ?」
「はい。これは…この服はご主人様から賜ったものですから。この服が無いとメルリがメルリじゃなくなっちゃう気がして…」
「そんなことはないと思うけどなー」
「それにしてもエプロンドレスがないと、寂しいっすね」
「メイド服ならセットで1つって感じだもんね」
「ボクのいばしょがないのです…」
「ごめんね、フルルちゃん。しばらくがまんして?」
「ふむ…居場所、か」
「あ! ミキ姉さんの考えてること、分かっちゃった!」
「多分ウチも同じ意見っす」
「買っちゃうー? メルリちゃんの洋服ー!」
「行きましょう!」
「買っちゃうっす!」
「そんな! メルリの服なんか!」
「メルリちゃんが着るならサージエンスの民は大喜びっすよ!」
「あ、こういうのどうかな…?」
女3人、額を突き合わせ、小声で悪巧みの相談。
「何なに…? おおう、ヤヨイ屋、お主も悪よのう」
「ウェッヒッヒッ。お代官様に比べれば、まだまだ」
「ふーん、じゃぁ…」
「ふむふむ…おおぅ。それは完全体のできあがりじゃないかー!」
「そうかぁ! すごいな、リリアさん。わたし、まだまだ詰めが甘いなぁ」
「みんななにをはなしているのでして?」
「さぁ?」
◆
ED「この穏やかなぬくもりに」
https://youtube.com/shorts/TfUN7HlPlsI