第二章モルドレン編⑦ 勝負服選び
「さぁ、出すぞー!」
普段ユーリが背負っている箱にミキが腕を突っ込んだ。
「そーれ、それそれー!」
「さぁやるよ! メルリちゃん!」
「はいッ!」
ミキが引っ張り出した衣服をヒミコとメルリが受け取っては武道場の床に並べていく。
「お! やってるっすねー!」
「リリアさん! オスカレッテさん!」
「ウチも手伝うっすよー!」
「ありがとうございます! お願いします! あれ? フルルちゃんは…」
「ここっす」
と、骨折した腕を吊るように首から掛けた布を開いて見せる。
「…眠ってますね…」
「起こしては可哀そうなのであっちに寝床を作ってくるっす」
「お願いします」
「これは…凄いな…」
オスカレッテは次々と並べられていく衣服たちに言葉を失った。
「ワタシは…寮生活だからという理由もあるがそれでもこの10分の1も持っていないだろうな…」
「まだ半分も出てきてないよー」
「ウッ…」
今度こそ本当に言葉が出なかった。
唖然として立ち尽くすオスカレッテの元へメルリがととと、と駆け寄り
「あの…オスカレッテさん…先ほどはご迷惑をお掛けしまして、大変申し訳ありませんでした」
と頭を下げる。
「いや、ワタシは大丈夫。それよりごし、メルリ殿は、お身体の加減は?」
「メルリは大丈夫です」
「ふ、そうか。良かった。明日は出掛けられるのでしょう? 早くお召し物を決めないといつまでも眠れませんよ?」
「そうですね。では作業に戻ります。あの、メルリはオスカレッテさんのことが大好きです。ですから…その、嫌いにならないで…ください」
「何を仰る。ワタシがメルリ殿を嫌いになる理由などありませんよ」
「ありがとうございます…では」
「ああ」
(メルリは、か…うむ)
「ワタシも手伝わせてもらってよろしいか?」
「おー! 頼むよー!」
「助かります。数が数だけに、ね」
とヒミコは腰をさすりながら苦笑いした。
――――1時間後。
「さーて、どうしますかねー?」
ズラーっと並べられた衣服たちを俯瞰する女5人。
「季節ごとに分けたから、この辺の列から選ぶ感じかな」
「童殺服はカナートくんが警戒してたから無しっすね」
「メルリちゃんはどんなのがいい?」
「あの…よく分かりませんので、お任せで…」
と困り顔。
というのも、サージエンスでの服選びで自分の意見がさっぱり通らないことを経験済みだったからだ。それは嫌がらせではなく、メルリがいいな、と思ったものを上回る服を次々と持ってこられて
「この人たちには太刀打ちできない…」
ことを痛感、まな板の上の鯉になることを決心したのだった。
「これなんてどうかな?」
「おー! いいんじゃなーい?」
「靴はこんな感じで。ミュールなんかも欲しいけど、無いか」
「バッグはこんなのどうっすかね」
「いいねぇ。小物も色々揃えていきたいね」
と、わいわいやっているのを傍目で見ていたオスカレッテ。
「これを羽織るのはどうだろう?」
「え…?」
「あ…!」
「マジっすか…」
カナート言うところの悪巧み3人組が固まる。
「あ、いや、夏が近いとはいえ、朝夕は冷えるので何か羽織るものをと思ったのだが…ダメ…だったか…?」
3人の反応を見て、これはやらかした!とオスカレッテは首を竦める。
170超の長身がこれでもかというほど小さくなった。
ちなみにオスカレッテは大きく見られるのが嫌で168cmと身長を逆サバ申告している。
そして…地響きか?と疑うほどに
「「「おおおおおおおおおおおおおおおお」」」
3人揃って唸りを上げ
「なんだそれ、どこにあったー?」
「恥ずかしい…こんなアイテムを見落としていたんて…」
と、ミキとヒミコ。
リリアに至っては
「おかしいっす…そんなはずは…先輩にそんなセンスが…」
と、目も虚にむしろそれは侮辱ではないか?というレベルで驚愕している。
「あ、いや、メルリ殿が風邪を召されてはと」
「オスカレッテさんっ!」
バッとメルリが跳ね上がる。
「あ!」
一瞬脳裏に昼間のことがよぎったのだが
「ステキです! これ、とっても! メルリ、これを着てご主人様とお出掛けします!」
オスカレッテに抱きついた無邪気な笑みに、疑念は霧散した。
「そう。良かった。明日は楽しんできてください」
「はい!」
メルリの元気な返事を聞き、オスカレッテはメルリを優しく両腕で抱き包んだ。
(心より楽しんで…我が主人)
「そうか…これ、しまうんだったね…」
「明日…ユー君にタンス買ってきてってお願いするわ…季節ごと1つずつ…」
「タンスを運ぶのは…?」
「もちろん、ユー君で」
「酷い話だ…」
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