第二章モルドレン編⑥ カナートチーム
◾️『ドキッ♡ カナっちとメルリちゃんが急接近?! なんなら【フォビドゥン】の人口が増えちゃっても構わなくてよ?』作戦実行部隊 カナートチームの模様
「おやおや? こんなところにでっかいダンゴ虫がー」
パチッ カッ
「う…パイセン…?」
暗闇に蹲っていたカナートへ、容赦なく部屋の灯りが降り注ぐ。
その急激な眩しさに耐えきれず、カナートは目を細め、明かりを手で遮った。
「おやおや。ダンゴ虫かと思ったらカナっちだったかー」
蹲ったままのカナートのもとへ、ミキは歩み進む。
結果、お世辞にも背が高いとはいえないミキがカナートを見下ろす格好となっている。
「白々しく…何の用ですか?」
「お、珍しく敬語使われちゃってるねー、あ・た・し」
「ああ? あ、そう、ね…」
昼間の出来事で迷惑を掛けてしまった心苦しさと気後れが、その敬語に顕れていた。
「まぁさ、メルリちゃんのことは、気にするなとは言えないけど、気にし過ぎても良くないって。あたしたちも気まずいけど、何よりメルリちゃんが可哀想だしねー」
「そうだけど…」
「おおお。こんなに弱ってるカナっちはレアだな。普段は態度でっけーのに」
「それはスンマセンデシタ。で、結局何の用です?」
「問おう。アナタがメルリちゃんのご主人様か?」
「…パイセン…トレースすんぞ…」
「いやん。カナっちにみんな見透かされちゃうぅ!」
「…上から84、62、86」
「なぜ…その情報を…」
「え? 合ってんの?」
「全然違います」
「クソォ…」
「ウソでも少しは盛りなさいな。ボンッキュッボンッ、と。まぁ聞きなさい。先ほどフルル殿下の下、メルリちゃん有識者会議が開かれ、カナっち君、キミに任務が課せられることになりましたー。なおフルル殿下は公務のため欠席でしたが」
「ふーん…って、フルル参加してねぇじゃねぇか! ってか有識者って誰? 任務って何?」
「お姉さんは聞きなさい、と言いました! それで、カナっちに言い渡された任務は、なんと!」
「なんと?」
「ミッション! メルリちゃんのデートを成功裡に収めること!」
ピッとカナートを指差す。
「はぁ、デー…でぇとぉぉぉぉぉ?」
「そうです。そうなのです。メルリちゃんとデートをしてきなさい。これは命令です」
「いやデートって」
「反問は許さん!」
「いや、しかし」
「あのねぇ、カナっち。ヒエロフからここモルドレンまで、大変だったワケよ。特にメルリちゃんは。ハルキにナンパされたり、洋服選んだり、メイド服を修繕に出したり、フルルちゃんの入院で毎日お見舞い行ったり」
「洋服の件はパイセンたちが」
「しゃらーっぷ! お黙りなさいましチンカス野郎!」
「ハァッ? オレは海兵隊に志願なんかしてねぇ!」
「そんなこんなでストレスが溜まってる、そう有識者会議は判断したのです」
「聞いてねぇ…」
「メルリちゃんはね、特異体質なの。毎日毎日カナっちのお世話をしてないと、あの人は呼吸できなくて死んでしまいます。ということは、メルリちゃんはカナっちのお世話をすることがストレス解消、となるわけです。そこで!」
再びピッと指差す。
「カナっち君は、街へ出てメルリちゃんに普段着を選んでもらいなさい」
「普段着ぃ? これでいいじゃん…」
「よくありませんー。ダサダサ過ぎてメルリちゃんが可哀想ですぅー」
「普段着くらい自分で選ぶから」
「ダメですぅー。どうせそんなこと言って、上から下まで全部黒いの買ってくるつもりだろうがァッ!」
「(ギクゥ) な、なんだよ、実家のタンスの中でも見たっていうのかよ…」
「拝見させていただきました」
「マジかっ?」
「ウソです」
「な…」
「オタクとは黒い服を着たがる習性を持つ動物と、野生動物研究家の先生が言ってました」
「それも…」
「ウソです」
「だろうな…」
「まぁアレだよ、カナっち。染めるだけじゃなくてメルリちゃん色に染められてみろよ、たまには」
「なんだその言い方…染まりたくなるじゃねぇか…」
「そうだろう? そうだろう? 染められてみなぁー。気持ちいいぞぉー」
「そう言われるとちょっとアレだが…分かったよ、メルリと服買いに行きゃいいんだろ?!」
「はぁぁぁ…カナっち君はミキミキお姉さんの話をちぃとも聞いておらんね。先生、悲しいよ」
「お姉さんなのか先生なのかハッキリしろ」
「お姉さんはねぇ、さっき、デートを成功させろ、と言いました。服を買うなんぞ序章に過ぎんッ!」
「まだ他にすることあんのかよ」
「だ・か・ら! 先ほどからお姉さんはデートと言ってます! 読解力Cですよ。さてここにスーパーハイテクグッズがあります。な、なんと! じゃーん。モルドレン市街地の観光名所マップです!」
「マップ…地図? なんでそれがハイテクなんだよ」
「チッチッチ。アンタは日本で2番目だ。よーく考えてみぃ。ここは【フォビドゥン】、地図のない世界やぞぉ?」
「あ、そうか…」
「この地図はなんと! サージエンスとモルドレンの白騎士団民生部スタッフが総力を結集して作り上げた、愛と涙の結晶、宝の地図なのです」
「サージエンスの民生部ってリリアだけじゃねぇか? ってかアイツも一枚噛んで」
「お黙りなさい下等生物」
「誰がダンゴ虫か!」
「おや、分かってますのね? それで、この地図を元に、明朝まるきゅーまるまる行動開始、メルリちゃんとデートしてくること!」
「9時とか言われても時計がねぇぞ?」
「…雰囲気で」
「こら!」
「あー、でもカナっち君はおバカだから、回ってくるだけで終わっちゃうかー」
「さらっとバカって言われた!?」
「そこで。委員会はカナっちがメルリちゃんを満足させられないクソデートをした場合、ペナルティを科すことにしました」
「委員会初登場だろ! ってかペナルティってなんだよ?!」
「えっとね」
「今考えてる?!」
「…おおう、そうだ。カナっちはオスカレッテさんのことを名前で呼ばず、グランディールって苗字で呼ぶよね。なんで?」
「それは」
「とか理由は追求しませんが」
「クソォッ」
「オスカレッテさんを、今後『ちゃん』付けで呼んでもらいます」
「何ィィィィ?!」
「それだけではありません。愛称の『オスカル』に『ちゃん』付け、『オスカルちゃん』と呼んでもらいます」
「そんな愛称、誰も言ってなくね? 聞いたことねぇぞ?」
「あーあー、これだから浅薄なオタクはー。いいかい? オスカレッテとは『小さなオスカル』を意味します。ちなみにグランディールとはアンドレの苗字。すなわち、オスカレッテ=グランディールとは、アンドレさんちの子の小さなオスカルちゃん、という意味になるんですねぇ。娘さんですよぉー?」
「それもガセだろ」
「これはマジです」
「マジか?!」
「多分オスカレッテさんはベルばらオタなのでしょう。転生名に秘められた乙女の純情。カワイイじゃあーりませんか。もうオスカルちゃん!と呼ばすにはいられない!」
「いや、呼ばんが」
「呼んであげなよー。うれション3ガロンくらい振り撒くぜ?」
「それだけ出れば生命の危機だな」
「と・に・か・く! メルリちゃんとデートして、しっかりもてなされてきなさい!」
「分かったよ、しっかりもて…なされ?」
「もー、話聞いてないなー、男子ー! メルリちゃんはカナっちのお世話がストレス解消なんだって!」
「あ、そうか、そうだった」
「まぁそういうワケなんで。分かったらさっさと荷物をまとめてここから出て行けぇっ!」
「ええっ? なんで?」
「これよりこの大広間はメルリちゃんの勝負服選定会場となるっ! カナっち。アレを呼び出すのだよ、こ・こ・に」
「アレ…って、アレか」
「そう。サージエンスで街の皆様にいただいたメルリちゃんの服を! 全て! それに、カナっちも今は顔合わせ辛いだろ? 一晩別々に過ごして、明日の朝、ドラマチックに出会いなさい。会えない時間が愛育てるのさ。まぁそもそも年頃の男女が同じ部屋ってのがそもそもアレだからなー」
「まぁ…そりゃそうだ。で、明日の待ち合わせ場所は決まってんの?」
「ここのエントランスにニンフのレリーフが飾ってあったでしょ? あの辺」
「分かった…で、オレはどこに家出すればいいんだ?」
「上の階に上がるとリリアさんかここの中の人が案内してくれる。ハズ」
「ハズ、かよ。それじゃパイセン、メルリのこと、よろしく」
「おうよ。素敵なレディに仕上げてお届けするぜ!」
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「おや、来ましたね。ダンゴ虫さん」
階段を昇り上の階に達すると、待っていたのはユーリだった。
「お前まで…リリアが待ってるって聞いたんだが」
「僕が先に部屋を案内されたので、お引き取りいただきました。何やら忙しいそうなので」
「…ああ…そうらしいな」
メルリの服の件、だろうな。
「ミキ先輩と随分長く話し込んでましたね」
「話し込むって、パイセンがずっと喋ってただけだがな」
「まぁそうかもしれませんね。あの人、とても気を遣われる方ですから」
そうなんだろうな。脈絡もなく喋り続けて、話のトーンもアップダウン激しくて、着いていくのに精一杯だったが、おかげで少し気が楽になった。
「さて、我々の寝床を確保しましよ。お手伝い願えますか?」
「ああ。当然だ」
宿泊施設じゃないからそこからなんだな…
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