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第二章モルドレン編③ モルドレン支部

YouTubeにて音声動画上げてます


OP「今はまだヒミツ♡」


https://youtube.com/shorts/ztOAm6DjzNI

 白騎士団モルドレン支部。

 駅から南へ十数分歩いたところにある、5階建の現代的なビル。

 リリアの連絡一発で話は通った。

 むしろ「大変だったね」と労われたりして。

 無論、この建物の中にオスカレッテたちを悪く言うヤツなんかいない。

 明日は我が身、天に唾するようなもんだ。

 広くて何人でも大丈夫だろうと言うことで3階の道場を借りられた。

 みんなで雑魚寝か。合宿みたいだな。行ったことないけど。

「メルリちゃんも剣、練習してみないっすか?」

「剣を?」

 メルリが明らかに戸惑っている。

「オレはメルリに戦わせるつもりはないぞ」

「確かに先頭に立って、ってことは無かろうが、護身用にくらいは身に付けても良いかもしれんぞ。いついかなる時でもアナタが護れるというものでもあるまい」

 まぁ道理ではあるが

「どうだ、メルリ。やってみるか?」

「…ご主人様がそうとおっしゃるのなら」

「うーん、そういうんじゃないんだよな。メルリ自身のため、っていうか。万一メルリが危険な目に遭った時、最低限自分自身を守れるくらいにはなってた方がいいっていうか。ほれ、サージエンスの時も危ないことあったじゃん? そういう時に少しでも持ち堪えてくれたらオレが助けに行くのも間に合うかもだし。あー、そうすっと巡り巡ってオレのため、ってことになるのかな?」

「そういうことでしたら。やります」

 ほう。ちょっと決心めいたものを感じたな。結局オレのためってのが切り札なのか。メルリはメルリのために生きていいんだがなぁ。

「ミキ姉さんもやってみたら?」

「あたしは飛び道具専門だからねー。見てるだけでもお腹いっぱいさー」



「メルリちゃん初心者っすからねぇ。自分がお相手するっすよ!」

「リリア、お前戦闘経験あんの?」

「民生部とはいえ戦闘訓練は受けてるっす。まぁそれがからっきしだったから民生部配属なんっすけどね。テヘヘ」

「民生部とはいえ白騎士団の一員だ。ああは言っているが、リリィもそれなりにやるぞ」

「へぇ」

「始めるぞ」

 メルリもリリアも武器はレイピア。オスカレッテと同じタイプだな。

 まぁメルリがでっかい大剣振り回すってのは無理だろうて。

 …ちょっと想像してみたんだ…やだカッコイイ…

 あー、いかんいかん。オレはメルリに戦わせたりはしないぞ。


キンッ

  キィンッ


「ほう…」

「なかなかやるではないか、メルリ殿は。初めて剣を握ったんだよな?」

「そう…なハズだが…」

 なんと剣どころか戦闘初心者のメルリがリリア相手に善戦している。

 善戦どころか…押してないか?

「…あの太刀筋…」

「ん?」

「見たことが…カナート、アナタの太刀筋によく似ている」

「はぁ? そんなのわかんの?」

「フフ。こう見えても元団長だぞ? 剣に関しては指導する立場でもあるからな」

「そういうもんかね」

 自分のことは自分じゃ分からんから見てどうとかは分からんが…こないだオレがグランディールに稽古つけてもらったの見学してたから、それを見て覚えたのかね? いや、それはそれでスゴい学習能力なんだが。

「それまでっ!」

「ひぃぃぃ…メルリちゃんスゴイっす。これで初心者とか信じられないっす」

「次はワタシがお相手いたそう」

 いやー、さすがにコイツには敵わんだろうて…

 …そう思っていた頃もありました。


ガァッ

 ガキィッ

キィンッ


 なんだこれ。

 剣同士がぶつかり合う音がさっきよりも激しいんですが。

「クッ!」

 グランディールの表情にも余裕が感じられない。

 対するメルリは

「…」

 無言。無表情。

 真剣に取り組んでいる…ってこと、だよな?

「ただいま戻りました」

「でして!」

 役所に行っていたユーリとフルルがやってきた。

「おや? 何をやっているんです?」

「メルリに剣を覚えてもらおうと思ってな。ちょっと白騎士団の二人に稽古をつけてもらっているところだ」

「メルリちゃんスゴイんっすよ!」

「ほぉ…ン?」


キィッ

 キィィンッ


「これは…」


キッ キィィィン


 なんと。グランディールの剣が弾き飛ばされた。

「じゃぁその辺 え…?」

「ハッ!? メルリ! やめるのでしてっ!」

「クッ!」


キィンッ


 今隣にいたはずのユーリがメルリの剣を受けている。

 しかも手には…アサシンナイフ。

「メルリっ! ちがうのでして! 【メルリ】ッ!」

「ユーリ、何を」


ギリギリギリ…


「クゥッ!」


ギンッ


「クゥウォォォォォッ!」


ガシッ

グイッ

ダァンッ


 それは一瞬のできごとだったかもしれない。

 でもオレたちは…それをスローモーションのように、ただ眺めているしかなかった。

 グランディールの剣が弾き飛ばされたところでオレは終了の合図を送ろうとした。

 だが…メルリの剣は止まらなかった。

 とても…それはとてもコンパクトな動きで突きに行く姿勢を取る。

 そこへユーリが乱入、突きに出た剣をナイフで止め、いなすと刃を掴み捻り上げる。

 よほどしっかり握っていたのかメルリは捻りに合わせて体が回転し、地面に落ちた。

 そして…そのメルリの首元に、ユーリのアサシンナイフがギラリと光る。

「ユーリ! テメェ、なんてことを!」

「カナートッ! 見ていて分からなかったのですかッ⁈」

「え…?」

 珍しくユーリが激昂している。

「メルリさんは今…オスカレッテさんを殺すつもりでしたッ!」

「え… え…?」

 混乱のあまりオレは言葉を発することすらできない。

 メルリが? 殺す? グランディールを?

 まさか…そんな…

「ユーリ殿、すまない。ありがとう。助かった」

 グランディールがユーリに礼を?

 …そんなに余裕がなかったのか?

「もう大丈夫だろう。メルリ殿は気絶しておられる」

 ユーリはメルリを抑え込んでいた手を放し、ナイフも腰の鞘にしまった。

 見ればメルリはピクリとも動かない。

「リリア。メルリ殿を介抱してやってくれ」

「りょ…了解っす…」

「メルリ殿の…最後の一瞬、凄まじい殺気を感じた」

「殺…気…?」

「剣を飛ばされた上、完全に彼女の間合いだった。刃引きの剣とはいえ、突かれれば… …先ほどリリィとやり合っていた時とは段違いの切先の鋭さ…カナート。アナタの剣よりも、だ」

「本当に彼女、剣は初めてだったのですか? そういう【設定】をして忘れているとか」

「そんなことはない…ハズ…だ…」

 オレのスマホのメモ帳には数行、キャラ名と属性、あとは服装くらいしか書いていない。

 どうすればいいのかすら思いつかず、頭の中にすらアイディア的なものもなかったくらいだ。

「正直…手加減ができませんでした。押さえ込んでも暴れるようならどうなっていたか…」

「すまん…」

「いえ。あなたに保護者責任的なものを要求するつもりはないので。ただ、僕たちもそれぞれ自分の身を守るのに精一杯ですから、何かあった時には…相応の覚悟はしておいてください」

「ああ…そうだな…」

 空返事だった。

 何かあった時…そんなことが?と思いたいが…しかしそれは今目の前で起こってしまったのだ。



「…あれ…? メルリ…」

「カナート君! メルリちゃん目が覚めたっす!」

「メルリ…どうして…」

「あ、ああ、うん、剣の訓練してた時にウチの剣がメルリちゃんに当たっちゃって、気を失ってたっす。すまなかったっす」

「そう…なんですか?」

「あ、ああ、そうだ。バタンと行ったんで心配したんだぞ?」

「ともかく、ご無事で何よりです」

「そう、ですか。すみませんでした。ご迷惑をおかけして」

「いやー、いいっすよ。気にしないでくださいっすよ」



 皆…優しいウソをつく。

 ごめんなさい。

 メルリもウソをついた。

 メルリは全て知っている。

 剣を握った瞬間から…【彼女】に意識を、身体を乗っ取られた。

 どうにもできなかった。

 オスカレッテさんを目の前にした時に、それは最高潮に達した。

 やめて、と思っても…【彼女】は止まらなかった。

 ドス黒い何かがメルリの中を染め上げる。

 そのドス黒い何かは、やがて殺意とも取れるモノに育っていった。

 違う。

 メルリは…オスカレッテさんに対して思うところはあるのだけど…

 でも違う。

 オスカレッテさんは素敵な女性。

 凛々しくて頼もしくて。

 みんなのために命すら惜しまない勇気があって。

 背が高くてスタイルも良くて。

 メルリも…そんな風になれたらな。

 オスカレッテさんと一緒にいるご主人様は楽しそうに見える。

 お似合いなのかな、二人は。

 オスカレッテさんにご主人様を取られてしまうような…そんな気がしてしまう。

 それは…イヤ。

 メルリはご主人様のそばにいたい。

 【彼女】は相変わらず何も言わない。

 メルリの気持ちを一番よく知っているのは間違いなく【彼女】だ。

 でも違うの。

 そうじゃないの。

 メルリはオスカレッテさんと仲良くしたいの。

 だから…でも…

 どうしたらいいの?

 苦しい。

 こんな気持ち、みんな吐き出してすっきりしたいのに。

 もう…どうしていいか…分からない…


ED「この穏やかなぬくもりに」


https://youtube.com/shorts/TfUN7HlPlsI

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