第二章モルドレン編② それぞれの事情
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「今はまだヒミツ♡」
https://youtube.com/shorts/ztOAm6DjzNI
「うーむ…」
「どうしました? カナート」
「このパーティー、最強はフルルだな」
「そのようですね」
改札までの道を歩いていると、先頭にいたフルルがオレの頭に乗っかった。
「カナートはよくがまんしたのでして。えらいのでして」
ぺちぺちとおでこを叩く。
再びふわっと飛び上がると、今度はメルリの頭へ。
「メルリはゆうかんなのでして。たにんのめいよのためにからだをはるなんて、そうそうできることじゃないのでして」
「あの時、みんな怖い思いをしたのに…あんな言い方って…」
「まあまあ、そんなにおこってはいけないのでして。かわいいかおがだいなしなのでして」
「むうぅっ」
姫はまだご機嫌ナナメのようだ。
とはいえ、メルリがこれほどまでに怒りを顕にするなんて珍しいことでもある。
「きっとおなかがすいているのでして。カナート。あさごはんはまだでして?」
「そうだなぁ…何か食いたいところだが、さっきのこと思うとその辺ちょっと入って、って気分じゃないし、売店でなんか買ってその辺で食うか。そんなんでいい?」
「いーんじゃなーい?」
「メルリもお店入るの嫌ですから! そうして下さい!」
まぁ、仕方ないね。
◆
ってわけで、駅前の広場のベンチに腰掛けて、右手にパン、左手に瓶の牛乳という謎の団体さん。
一人なら哀愁漂うサラリーマンのおじさんとでも言えるが、総勢7名+1名ともなると怪しいとしか言いようがない。
陽の差し様からして朝7時くらいというところか。
かつての世界なら出勤や通学で人々でごった返す時間帯なのだが、産業が街中で完結しているのか、そうした人の姿はない。
よって、あわよくばと餌を狙う鳩に囲まれつつ、モソモソと団体さんは朝食を摂るのだった。
「さて、この街に寄ったのは僕のわがまま、一存のみですので、用件が済めば移動で構わないのですが、いかんせん列車の運行数が少ないですからね、次は明日の朝の便に乗るしかありません。よって、本意であるかどうかは関係なく、この街に一泊しなければならないのですが、みなさん、いかがいたします?」
「まぁ、正直さっきのアレがあるし、メルリもそういう気分じゃなかろうし。どっか部屋とって、ってのはどうかなぁとは思うんだが…かと言って代案はないんだな、これが」
「白騎士団のモルドレン支部を頼るのはどうだろうか?」
「支部?」
「サージエンスをはじめ、ある程度の規模の都市ならば白騎士団の支部がある。ここモルドレンもそうだ。支部ならこちらの事情も分かっているし、素泊まりくらいはさせてもらえるのではないかと」
「あー、それはそれとして、どっか部屋取ったり食事したりしないととダメなんっすよ。カナートくんたちのカードでモルドレン内の使用履歴がないってなると、ちょっと問題が出ちゃうんっすよね」
「問題、というと?」
「さっき揉めた時、ウチ、サージエンスに苦情として伝えるって言ったじゃないっすか。あれ、実はガチな方向でキツい脅しになってて、拗れると最悪モルドレンに水が流れてこなくなっちゃうんっす」
「水が? どういうこと?」
「それはボクたちニンフもかんけいしているのでして。ニンフはほんらいもりにすんでいて、みずやくうきをきれいにしてるというのはカナートもしっているのでして?」
「ああ、ばぁさんが言ってた、ような気がするな」
「いちかんけいからしてサージエンスのほうがもりにちかいので、サージエンスでくんだみずをこのまちまですいどうではこんでいるのでして。ということはサージエンスがへそをまげちゃうと」
「水を止められる、と」
「そういうことなのでして。サージエンスもモルドレンもボクたちニンフにたいするしんこうしんはつよいのでして」
「水や空気を浄化してくれる神、って感じなのか」
「まぁかみさまはおおばばさまなのでボクがおがまれてもこまってしまうのでして。でもニンフにたいするあつかいがわるいとしれたら、サージエンスのひとたちはへそをまげてしまうかもしれないのでして」
「それでさっき、駅じゃみんなフルルちゃんに平身低頭だったのかー」
「そういうことなのでして。ボクがつよいわけでもえらいわけでもないのでして。それでもニンフのまえでトラブルおこしちゃうのはとてもマズいことなのでして」
「それで…なんだっけ?」
「ああ…フルル様の話に聞き入っちゃった。で、モルドレンでのカードの使用履歴がないと、何かトラブルがあったんじゃ?って疑われちゃうんっす。今回の件、まぁ騎士団の悪口程度ですから、こんなことでことを荒立てたくないってとこなんっす」
「悪口程度って…こんなことって…」
「メルリちゃんにも分かってほしいっす。世のため人のためと思ってやってることでも憎まれたりすることってあるんっす。それにウチら…カナートくんたちの件ではシャレにならんチョンボをしてるんっす」
「オレたちの件で?」
「ああ。フルル様を、ニンフを逮捕した、というのがな」
「ああ、そういうことか。信仰の対象みたいなもんだしな」
「あの時、フルル様はメルリ殿の衣服に隠れておられて、その上…やむを得ない事情があったというのは後で知ったのだが、その、羽を失われておられて。ニンフと気付くのが遅れてな」
「それで慌てて司祭様が取り調べ室に呼ばれたってわけなんっす。おまけにナハルル様までいらしたとあっては…チョンボどころじゃない大失態なんす」
「それが先ほどの噂話ではそれが伝わってない様子。ワタシの失態の話程度で済むならそれでいい。二つの街の友好関係を保てるならば、それで。なのでメルリ殿。どうか気をお静めになっていただきたい。二つの街の民のために」
「そうですか…分かりました…」
大人の事情ってやつだな。メルリは…納得してくれただろうか?
「では、とりあえず…二部屋、大きめのを僕たちとそちらのカードそれぞれで取って、形式上でも使ったことにしてはいかがでしょう? あまり利害関係に関わらなさそうなその駅ビルのホテルで、ってことで」
「で、気が向けばホテル使う、とかそんな感じー?」
「どちらを使うにしても、少なくともワタシはフルル様と一緒にしていただきたい」
「なんで?」
「白騎士団というのはそもそもニンフの警護にあたるために組織されたものなのだ。『白』というのもニンフの象徴色だからな」
「へぇぇぇ、そうだったんだ」
「だからワタシが派遣されたという面もある。もっとも…あれしきの戦いで敗れた自分をもっと高めたいと願い出たんだがな」
ほんと真面目だな、コイツ。
「では、僕が部屋の予約をしておきましょう。役所に行くついでです」
「じゃ、ウチはモルドレン支部に連絡取ってみるっす」
ほんとこの二人は仕事ができる…
「ボクはユーリについていってあげるのでして。ボクといっしょのほうがユーリがゆうりになるのでして。ぷぷぷ」」
「それならワタシが護衛に」
「するー…でして… だいじょうぶでして。まちのなかならさしせまったキケンはないのでして。ユーリのうでがたつのはしっているのでして。むしろオスカレッテがいっしょではとおるはなしもとおらなくなるかもでして。オスカレッテはきしだんとはなしをつけることをゆうせんするのでして」
「分かりました。何かあればすぐにお呼びください」
「わかったのでして。さぁいくのでして! ユーリ!」
「はい。よろしくお願いします。フルル様」
「ユーリにそうよばれるのはくすぐったいのでして」
と、ユーリとフルルという割と珍しい組み合わせで出掛けていった。
「支部と連絡ついたっす。今から行ってもいいそうっす」
「では我らも参ろう」
「ああ」
◆
ED「この穏やかなぬくもりに」
https://youtube.com/shorts/TfUN7HlPlsI




