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第二章モルドレン編① 望まぬ歓待

YouTubeにて音声動画上げてます


OP「今はまだヒミツ♡」


https://youtube.com/shorts/ztOAm6DjzNI

 万感の思いを込めて、今、汽車は…

 …隣街の駅に着いた。

 長かったぁ…丸一日客車の中ですよ。

 最初のうちは外の景色に目を丸くしていたメルリとフルルも、さすがに同じ景色がずっと続けば飽きるわな。

 でもグズらず大人しくしていたのは偉いぞ、二人とも。

 …多少のことは目を瞑ろう。ハハハ…


 サージエンスを発つ時もそうだったが、昼夜の気温差が激しいのか夜明け間も無くは朝靄がかなり濃く出る。

 朝日を吸い込みほんのり赤く染まった霞を突き抜け、列車がホームへ滑り込んだ。

「お祭りでもあるんでしょうか?」

 少し前に目覚めたメルリがホームを見て問う。

 その声には不思議なものを見る気持ちに加え、何か楽しいことが始まりそうな予感にワクワクソワソワしているのがありありと分かる。

 ヤバいな。カワイイ。

 だがホームの、ちょうどオレたちが乗降する位置まで来た時、ある意味衝撃を受けた。


[歓迎 オヌマー様御一行

       モルドレン観光協会]


 …なんだ…それ。

 バカでっけー横断幕にも驚いたが、もっと驚くのはホームにいる人。人。人。


ガラァ


 ドアが開けば降車口にそれが殺到する。

 端的に言って降りられない。

 これでは他に乗降する客も迷惑だろうに…

 と、そこへオレの前にスッと入った者。

 グランディールだ。

「モルドレン市民の諸君! 道を開けていただきたい!」

 と叫ぶと剣を抜き、顔の前に立てた。

 これは…何か儀礼的な意味合いでもあるのか?

 それはともかく殺到していた人垣に合間が開き、道ができた。

「さぁ、行こう」

 促され、剣を構えたままのグランディールを先頭に、オレたちはその後をついてどうにか車外へ出られた。

「オヌマー様、ご宿泊には是非ともホテルニューモルドレンを」

「いやいや、我が城讃荘を!」

「お朝食はまだですか? それなら私どもトリエニーリがモーニングをやっていまして」

 …なるほどな。

 オレたち、ではなくあの黒カードが目当て、ってことか。

 あー、ヤダヤダ、こういうの。

 どっから伝わったんだか知らないが、英雄扱いでもかったるいってのに、その実、儲けのために利用しようって魂胆が見え見えともなればねぇ。

 ふと…ウンザリしながらも聞こえた声に足を止めざるを得なかった。

「白騎士団が先頭とか何様だ、役立たずのクセに」

 誰だ? 今のは誰だ?

 キョロキョロ見回す。

「無様に潰されたクセに、よくもまあ」

「あれ、元団長なんだろ?」

「クビになってオヌマー様の小間使いにでもなったんだろうよ」

 一人や二人じゃない。

 小声で、コソコソと。

 一体この中の何人があの状況を見たと言うんだ?

 グランディールは、負けはしたが身体を張って戦った。

 それがどう言うことなのか、分かるか?

 オレはコイツから騎士としてのプライドを奪い取った。

 だから名誉とかプライドとか、そんなモンに命を賭ける必要なんか無くなった。

 無論、そんな内部事情など外の人間には知る由もない。

 それでも…コイツは戦ったんだ。ボロボロにされても。

 他でもない、サージエンスの街、そしてその民の為に。

 それも知らずにコイツら…

「カナート、やめておけ」

 オレの怒りの気配…を察知したのか?

「グランディール…?」

「ワタシは慣れている」

 そうか…コイツの耳にも聞こえちゃってたか。

 誤認逮捕の件はあるにしても、一生懸命だったヤツをバカにすんのは許せねぇんだけどな。

 黙っているのが大人の対応、ってことなのかね。

 しかし困ったことに、黙ってらんなかった者が約1名。

「酷いですッ!!」

 メルリだった。

「そんな言い方、あんまりですッ! 影でコソコソなんて、ズルいですッ! あの時、オスカレッテさんがどんなことになっていたか知りもしないで…誰ですかッ? 名乗りなさいッ! メルリが説明して差し上げますッ! 鎧がどうなっていたのか! その中がどうなっていたのか! 治療にあたったメルリが! 余すところなく! 一部始終詳細を事細かに説明して差し上げますッ!」

 おおぅ…なかなかにエグい口撃だな、メルリよ。

 聞いちゃったら三日くらいはメシ食えないんじゃないか?

 ダイエットしたいヤツは手を挙げろ、ってところだな。

「メルリ殿。よろしいのです」

「オスカレッテさん…でも…メルリ、悔しくて…何にも知らないのにあんなことを…」

「我ら白騎士団、この程度の誹謗中傷は慣れておりますゆえ」

「でも、メルリは、メルリは…」

 あーあ、メルリが泣いちゃったー。

 だーれーがーなーかーせーたーかーなァァァァァァァッ!

 と、エックスカリなーに手をかけたところで

「さてここにお集まりの皆さまー。この中にメルリちゃんのグロ話を聞いてみたいという方、いらっしゃますかー? 血管の一本一本に至るまでの()()()なお話を、2時間ほどたーっぷりと聞かせてあげますよー」

 とパイセン。

「あー、サージエンス民生部のオーラトゥムっす。この度の件はモルドレンからのサージエンス支部に対する苦情ということで報告させていただきますんで、言い足りない分はモルドレン支部にて所定の書類にてお願いするっす」

「あなたを制さないと何しでかすか分かりませんからね、カナート」

 とユーリに苦笑いされた。

 確かに加減無しでエックスカリなー抜いたら、消し炭にすらならずに消えちゃったり斬殺死体の山積みできちゃったりするもんな。

「ううぅ…にぎやかなのでして…」

 空気を読まずにメルリの胸元からひょっこり顔を出すフルル。

 そしてフルルの姿を見るや、ひれ伏す民衆。

 頭の上に落ちてきた大粒のしょっぱい水滴に驚き、フルルは見上げると

「メルリ…ないてるのでして…?」

「フルルちゃん…ここの人たちがオスカレッテさんの悪口を…」

「あわわ。なんってこったいでして。これは…おおばばさまにいいつけないといけないあんけんでして?」

「ニンフ様! 申し訳ございません。我らモルドレンの民に不心得者がいたばかりに、このようなことに。探し出して厳罰に」

「そういうのはいいのでして。とりあえずボクたちをとおしてほしいのでして」

「ははぁっ!」

 ひれ伏した民衆が織りなす道ができた。

「さて、いくのでして。ボクはおなかがすいたのでして」

 ふわりひらひらとメルリから飛び立ったフルルが先導し、オレたちはホームを後にした。



ED「この穏やかなぬくもりに」


https://youtube.com/shorts/TfUN7HlPlsI

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