第一章サージエンス編⑩ やっと出発だ
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「今はまだヒミツ♡」
https://youtube.com/shorts/ztOAm6DjzNI
翌日。
フルルが退院ということで、迎えに行く。
医者からは無理をしなければ旅自体は特に問題は無い、と言われた。
となれば昨日の協議の通り明日ここサージエンスを発つということで、今日は一日その準備だ。
準備はすでにしたはずなのだが思いの外この街に滞在することになったので仕切り直しといったところ。
フルルは一応病み上がりだから部屋で待機するよう言ったのだが
「ボクもいくのでして!」
と言って聞かないので一緒に行くことに。
ここ数日ずっと病室にいたんだもん、部屋でじっとしてろってのも酷な話だよね。分かる。
せっかくだ、この際たっぷりとグゥの音も出んほど甘やかしてくれようぞ!
◆
オレが甘かったよ…
フルルを甘やかすつもりだったんだが、ほら、やっぱみんなも甘やかしたいじゃん?
それで洋服買おうと、これから先の旅のことも考えて多めに、とか思ったわけよ。予算も潤沢にあるわけだし。
この街の予算で賄われてるカード、ここで使う分には還元できるとも言える…とも思えば少しは罪悪感が減るかな?と…
そしたらメルリもフルルも行く先々で大人気よ。
商店街の皆様からアレもコレもとサービスの嵐。
メルリは固辞するのだが、そんなもんが通用するパワーじゃねぇ。
文字通り山盛りの洋服だ。
なんでも街の皆様の間では、「下着を買いに行く」→「服を修繕に出す」→「新しい服を買う」=「服が欲しいに違いない」という話になり、「出せるものは全部出せ、残弾を気にするな」と仕込んでいたそうだ。
そして明日出発という噂が流れ、洋服の弾幕が張られた、と。
ところで盗賊を討ち取ったのはメルリばかりじゃない。
そりゃパイセンもヒミコもそれなりに衣類の寄贈があったさ。
ユーリは…まぁ隠密の行動だから話が目立たないのはともかくとして、最後のトドメを刺したのは紛れもなくオレなのだ。
そのオレが称賛の声を受けないはずはないのだが…
「オヌマー殿ーっ!」
「この剣はどうでござるか! オヌマー殿ーっ!」
「一緒に酒でもいかがか? 何飲まれないと? 残念でござるオヌマー殿ーっ!」
とまぁオッサンたちに人気が集中している。
若い女子にモテてみたい気がしないでもないが…前世の因果がこちらで報いてでもいるのだろうか?
見通しの甘さはまだ続く。部屋に戻ってからだ。
「ご主人様…いただいたお洋服、着てみてもよろしいでしょうか?」
メイド服が大事だというのは本心ではあろうが、メルリもやはり女の子。
「なんだそんなこと。オレの許可なんか要らないだろう。サイズのこともあるから着てみたらいいんじゃないか?」
まぁオレも見てみたいと思うから…なんだが…
「ハイ!」
「ボクもきるのでして!」
「じゃあ一緒に着替えちゃお! おいで、フルルちゃん!」
「ハイなのでして!」
これより先、いろんな景色を見たものさ。
白い綿のワンピース、真っ赤なイブニングドレス、Tシャツにオーバーオール、そんなものまであるのかのダウンコート…
「ご主人様! 今度はこれを着てみました! いかがでしょう?」
「ボクもきがえたのでして! カナート! どうなのでして? どうなのでして?」
とまぁ、メルリとフルルの取っ替え引っ替えファッションショーが始まった。
二人とも、どれもこれも可愛い。しかし…カワイイの過剰摂取だ。体感2時間を超えたあたりで意識が薄れて…ね…
パイセンもヒミコも最初は面白がって付き合ってたが1時間も経たずに「自分の準備があるから」って自分の部屋へ行っちゃったよ…
◆
都合3時間超にわたったファッションショーがひと段落し、やっと旅の荷造りが始まる。
メルリたちの荷物をオレの部屋に入れちゃったもんだから、運ぶより来てもらった方が、とユーリを呼び、そして量が量だけにパイセンとヒミコにも手伝ってもらった。
荷造りといってもユーリの四次元ロッジにポイポイ放り込むだけなのだが、一体どこまで入るんだ…
あの洋服の山をすっぽりと飲み込んだ。
「フルルちゃんはそれでいいの?」
「ハイなのでして。これが一番動きやすいのでして」
と上からすっぽり被って着る薄緑のワンピース。
そして
「そう言うメルリはそれで良いのか?」
「はいっ! もちろんですっ!」
と、いつものメイド服だ。
見慣れているから、というのはもちろんなんだが、やはりメイド姿がメルリらしい、とも思う。
ピンポーン
「あれ? はーい」
そんな最中に来客だ。
「ご主人様。司祭様がお見えです。あと、オスカレッテ様とリリア様もご一緒に」
「何の用だ?」
「さぁ?」
メルリが首をかしげる。
カワイイ。
「まぁいい。入ってもらいなさい」
「分かりました。 どうぞ」
司祭の後に付いてあの二人なのだが…オスカレッテの騎士服、今日はいつもの白じゃない。赤だ。
はっはーん。さては白騎士団をクビにでもなったな?
「明日はサージエンスを発たれると聞きましてご挨拶に伺いました。つきましては我々サージエンスの民、最後の心尽くしといたしまして、ここにおります二人、オスカレッテ=グランディールとリリア=オーラトゥムを皆様に同行させまして、何かと便宜を図ろうと思いまして、今日は参りましたところで」
「はぁっ?」
なんだと?
え? コイツらと一緒に行け、と?
「お待ち願えますか、司祭様。それは…僕たちに見張りを付ける、ということですか?」
ユーリが先に口を開く。もっともな推測だ。
「いえいえ、滅相もございません。我らサージエンスの民、皆様に感謝こそすれ、見張りを付けるなど不粋なことはいたしませぬ。ですが、皆様の中にはニンフであらせられるフルル様がおいでです。なればその護衛を、という声が上がりまして、護衛任務とあればサージエンス支部一腕の立つ者をということでグランディールをと。また皆様ご婦人方ばかり。されば何かとご不便もあるのではと、民生部から1名、手向けてはどうかとグランディールに相談しましたところオーラトゥムを推挙いたしまして、彼女もまた白騎士団の優秀な女性、きっと皆様のお役に立てるのではないか、そういった次第でありまして。いかがでしょうか、我らサージエンスの民の気持ち、汲んではいただけないものでしょうか」
道理ではある。が…
「いーんじゃなーい?」
パイセン?
「みんなどぉ?」
「まぁ筋は通ってますので反対する理由は無いかと」
とユーリ。
「オスカレッテさんが一緒なら心強いよぉ」
とヒミコ。
「メルリはどうだ?」
「…メルリは…」
メルリが言い澱んだ。
「何か気になることでもあるか? オレはメルリが反対なら反対でいいと思うが」
「あ、いえ…ご主人様がよろしければ、それで」
「そうか…フルルはどうだ?」
「ボクもメルリがよければそれでいいのでして」
「ということは…」
「カナートの判断で、ということに」
「ふむ…」
しばし考える。
「二人は…それでいいのか?」
「ワタシはフルル様はもちろんごし、メルリ殿もお守りできるのであれば本望だ」
そうかしまった。
コイツがメルリを主君と認識するならこういうことにもなり得るのか。
むしろこの件、【設定】が引き起こした、とも考えられる。
「リリアは?」
「ウチはもう先輩のお声掛けともあればどこまでもついて行くっすよぉ。何より街の中にいるより面白そうっすからね」
丁重にお引き取り願う理由が無くなってしまった。
「途中、森の中とかで寝泊まりすることもあると思うがそん時はどうすんだ?」
「騎士団の遠征用宿泊施設を使うっす。騎士団の設備だからムダにでっかいっすけどね」
「費用は? 費用はどうするんだ? あの黒いカードで全部精算か?」
「そのカードはウチらにも発行されますんで大丈夫っす」
…これ…周到に準備してきてないか?
そうか。リリアも一緒に、ということはこの女…
リリアのメガネがギラリと光る。
(ぬっふっふ。こんな面白そうなこと、なかなかないっすからねぇ。逃さないっすよー‼︎)
策士め…!
「くぅぅぅ…分かった。ついてこい」
「よっしゃ!」
「ご理解いたみいる」
「おお、ありがとうございます。なればこの二人、どこで待機させましょうか。次の目的地はどこへ?」
「サージエンスの隣の、モルドレンに行ってみようかと。列車を使いますので駅改札口でいかがでしょうか?」
「了解いたしました。明日朝、改札口にこの二人を待たせますので、よろしくお願いします」
「なぁグランディール。いつもの白の上着はどうしたんだ?」
「ワタシはこれより騎士団を離れる身。団長の職を解いてもらい、今は通常兵と同じ身分、この赤がその証だ。形式上、階級章は残るのだが」
コイツ…ほんと行く時は後先考えないで一気に行くな。
オレらに断られたらどうするつもりだったんだ?
「では、明日朝」
「ああ、よろしくな」
「こちらこそ」
(…あの女性も一緒に…)
◆
翌朝。
まだ早い朝の駅。
改札口にはすでに影が二つ。
「待たせたな」
「それほどでもない」
「さぁ、行くぞ」
「ああ」
誰かに見送られることも無く、7つの影がホームへ向かう。
一人足りないって?
…フルルはまだメルリの胸の上でぐっすりだ。
ED「この穏やかなぬくもりに」
https://youtube.com/shorts/TfUN7HlPlsI