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【短編】バレンタインのあなたと私

 今日はバレンタイン。クラスの中は浮かれた話でもちきりだった。

 そう「だった」だ。それはもう過去の話。放課後になった私は教室で一人夕暮れを眺めていた。

 浮かれていた声でにぎやかだった教室は、一人になると冷たくて、鞄に入れたままのチョコは溶けそうにない。

「まだ来ないんですか?」

 私が小さな声で呟いたその時。静まり返った廊下から走ってくる足音が聞こえる。

 大きくて騒がしいその足音は、あの人の性格を映した様に横暴だ。

 足音と共に私の居る教室に入ってきたのは、学ランを着崩して息を乱した私の待ち人だった。


「あぁ、先輩お疲れ様です」

 私は平常を装ってそう声をかけるが、先輩は無言のまま私の机まで歩いてきて思い切り机を叩く。

「なあ。俺に渡すものあんじゃねぇの?」

「はあ? 無いですけど?」

 先輩のその態度に私も売り言葉に買い言葉でそう冷たく返してしまう。 でもこれは先輩が悪いと思う。

「あっそう」

 ぶっきら棒にそう言った先輩は向かいの席に腰を下ろして、不服そうにそっぽを向いてしまう。

「あ~先輩。もしかしてチョコが欲しいんですか?」

「あぁ?」

 先輩がわざわざ此処に来た理由や、先程の発言を聞いて彼の意図がわからない程、私も馬鹿ではない。でも彼に言って欲しい事があると思ってしまうのは、悪い事では無いだろう。

「まあ、あげなくも無いですけど。他の人に貰ってないんですか?」

「……断った」

「あら、もったいない。わざわざ私に貰いに来るくらいなら、それを受け取れば良かったじゃないですか」

 そんな事を言いつつも、私は顔がにやけるのを必死に隠して平静を装う。

「うるせえよ」

 先輩も先輩で、こうして断った理由まで言ってはくれないのだから、お互い様だ。


「まあ、どっちでも良いですけど、お返しは三倍でお願いしますね」

 自分の気持ちを悟らせない様にと鞄からチョコを取り出そうとすると、ずっと不貞腐れていた先輩から質問が飛んでくる。

「お前は他の奴に渡したのかよ」

「渡してませんよ。特に渡したい相手も居ませんし」

「なら良い」

「何なんですかもう。はい。チョコですよ」

「悪いな。って、おい。なんで引っ込めんだよ」 

 私が鞄から差し出したチョコに対して、何ら違和感の持っていないその顔がムカついたから、なんて言える筈も無く。遠回しに話始める。

「まあまあ、待ってくださいよ。それで、どうして他の人からのは断ったんですか?」

「さっきどうでも良いって言ってただろ?」

「まあ、良いですけど、先輩が良いなら」

 先輩はチョコを受け取ろうと伸ばした手を机の上に下ろしてから、心底不思議そうな顔をしてやっと私と目を合わせる。


「何だよそれ」

「はぁ。本当にこれを義理チョコにしていいのかって聞いてるんですよ」

 今度は私が目を瞑り、右手に持ったチョコを目立たせる様に軽く振る。だが、私の真意が先輩に届くはずも無く同じ質問が帰ってくる。

「? 何言ってんだよ」

「私のチョコが欲しいんですよね? 他の人から断ってまで」

「うっ、うるせえよ」

 こんなに言っても告白もしてくれない思い人に、私は呆れかえりながら、大きく息を吐き先輩の目を見て覚悟を決める。


「っ――先輩は義理が良いですか?それとも本命で受け取ってくれますか?」

「……いいからよこせ」

 不意の告白に、流石の先輩も驚いた顔を見せるが、彼は机に手を置いて体を少し持ち上げると、さっと私の手からチョコを奪い取る。

「あー! はぐらかさないでくださいよ」

「……俺以外には渡すなよ」

 告白の返事もしない先輩は小さくそう言うと、ゆっくりと椅子に座りなおす。

 ただ、彼の不器用なその言葉で満足しているの時点で、きっと私も同罪だ。

「……渡しませんよ」


ご無沙汰しています。

友人にボイスシナリオを送り付けていた物ですが、もうそろそろネットに上げてもいいだろうと、地の文を跡付けで書きました。よければどうぞ

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