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王女退場

「シヴァルがアデリオール王国の王太子……?」



キャスリンが信じられないといった様子でシヴァルを見ると、ルーターがキャスリンの耳元で言った。


「商家の子息シヴァル=アデールとは平民として自由に学園内を闊歩するための偽装だそうだ。こんな事がなければ卒業まで身分を偽って学生生活を謳歌していたんだろうな。でもあの方は紛うことなきアデリオールの王太子、シルヴェスト殿下だよ」


「シルヴェスト王太子殿下……ヒェッ私、散々王太子殿下に無礼を働いてしまったわっ!エメレイン王女殿下にもっ!」


ここにきてプリンメンタル発動のキャスリンが顔色を悪くする。

アデリオールの王太子のランチのオカズを横取りしたり、ハイラント王女の髪を三つ編みだらけにした罪は如何程のものか。


そんなキャスリンを見て、ルーターはぷっと吹き出し更に彼女を抱きすくめる。


「キャスは可愛い。本当に可愛いなぁ」


「キャッ……ル、ルーター?あ、あなたってそんな性格だったっけ……」


皆の前で堂々と惚気たりイチャコラを見せつけるタイプでは絶対になかったはず。

他の皆も仰天してルーターを凝視している。


「キャスを失うかと思って怖かった。そして逃げられ続けて後悔したんだ。それもこれも俺がきちんと想いを伝えて来なかったからだと。俺にとってキャスがどれだけ大切かどれだけ大好きか、それをちゃんと伝えていればキャスを不安にさせなかったんだ。だからこれからはもうキャスへの愛情表現は大袈裟なくらい伝えていくことにする」


そう言ってルーターはキャスリンの頬にキスをした。


「っ!?」


部屋の中からどよめきが聞こえる。

キャスリンだってどよめきたい!

フラれるのを覚悟してというのに、蓋を開けてみればまさかの溺愛。

キャスリンの精神の振り幅は完全に振り切れた。


「~~~モ、ダメ……」


「っえ?キャスっ!?」


途端に腕の中でぐったりとするキャスリンを見てルーターが慌てる。

真っ赤な顔をして気絶しているキャスリンを抱き上げ、シヴァル……シルヴェストに声をかけた。


「殿下、申し訳ありません。医務室に行きます」


意識を失っているキャスリンを見て、シルヴェストは呆れたように答えた。


「お前……飛ばしすぎなんだよ。メンタルがプリンな子にガンガンいったらそうなるに決まっているだろう」


「仕方ありません、キャスが可愛いのがいけないのです」


「お前……」


シルヴェストだけではない。

この部屋にいる者全員が豹変したルーターに度肝を抜かれている。


そこもまた、ルーターとマルティナが恋仲であるという噂を全否定するもので、皆はマルティナが噂を故意に流したという事は本当であると理解したらしい。


エレナ…エメレイン王女がルーターに言う。


「私の可愛いキャスリンにオイタをしたら許しませんからね?」


「はい。わかっております。彼女の名誉を傷付けるような行いは決してしないつもりです」


ルーターが神妙な面差しでそう答えるとエメレインは静かに頷いた。


「ではクルシオ王女の()()()()()()、殿下よろしくお願いいたします」


そう言ってルーターはキャスリンを抱えて教室を出て行った。


後にはシヴァルがアデリオールの王太子だと知り愕然としているマルティナとその腰巾着たちや普通クラスの者たちが残された。


「ウソよ……そんな……そんな報告、一つも上がってないわ……」


ぶつくさとひとり言を繰り返すマルティナにシルヴェストは泰然と告げる。


「当たり前だ。身分を隠しての学生生活、簡単に身元を割り出されるようなヘマはしない。ましてや我が国(ウチ)の情報操作を舐めてもらっては困る。ルーターにもそなたに適当な情報を渡すようにも指示していたしな」


「っではっ……なぜアデリオール魔術学園の見学会にシヴァルとして参加していたのっ?そこでわたくしは貴方を見初め、その高い魔力量から夫にしたいと思ったのよっ……?」


「見学会こそ平民を装って見て周りたいところだろ。まぁその見学会の時にそなたに目をつけられたのは感じていたよ。その後、私がアデリオール魔術学園ではなくハイラント魔法学校に入学するのを知り、東和学園に留学に来るよう裏から手を回したのも知っていた。だから私の代わりにルーターに留学に行って貰ったのだが……まさかそのルーターまで夫にするつもりだと知った時は流石に笑えたぞ」


「な、何がおかしいのですかっ?我が国は王族であれば女性も一婦多夫制が認められるのです!そしてその配偶者たちが有能であればあるほど、権力(チカラ)を手にする事が出来るのよっ、わたくしはっ、わたくしは能力の高い夫たちを手に入れて必ず女王になるのだからっ!」


「そのために学力テストで不正を働いてまでトップを取りたかったのか?阿呆だな。そんなハリボテを着飾ってもすぐにボロが出るに決まっているだろうに」


「あ、阿呆とはなんですかっ?」


「阿呆だろ?現に今、それで身を滅ぼしている」


「っ……!!」


散々御託を並べておいて、マルティナはようやく自身の置かれた状況に気付いたようだ。


この状況、かなり不味いと理解したようだ。


そして急に手の平を返したようにシルヴェストに擦り寄り甘えた声を出す。


「わかりましたわ、わたくしが悪うございました。罪を認め反省いたしますから、騎士団に引渡したりはなさいませんわよね?そのようなことをなさったら、わたくし泣いてしまいますわ……」


その言葉に対し、シルヴェストは苦虫を噛み潰したような顔になる。


エメレイン王女がぽつりと

「プライドはないのかしら……」とつぶやいた。


それを聞いた途端にマルティナはぶちギレてエメレインに掴み掛かろうとした。

鬼の形相で、もはや妖精の面影もない。


「なんですって!?この、女狐がっ!!」


マルティナがエメレインに掴みかかろうと伸ばした手をシルヴェストは捻りあげた。


「きゃぁっ!痛いっ!!」


「女狐はどっちだよ怖い怖い」


とそう言った時、丁度教室に入ってきた騎士たちにマルティナを引き渡した。


騎士たちは教室の中にエメレイン王女が居るのを知り、皆が騎士礼を執って恭しく頭を垂れる。


エメレインは小さく微笑み、

「皆、大義でした」と騎士たちの労を労った。


その様は誠に高尚で気品に満ち溢れ、彼女が王族である事を如実に物語っていた。



そしてそのままマルティナと、彼女の罪に加担した特進クラスの男子生徒たちは騎士団に連れられて行った。






───────────────────────



次回、最終話です。


文字数の暴力もなく、さっぱりと終わりそうですよ。




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