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王女の罪

 平民だと思っていた友人のエレナが大国ハイラントの第二王女だと知らされたキャスリン。


「エ、エ、エレナが王女さまっ……!?」


 キャスリンは驚きすぎてルーターの襟元に掴みかかっていた。

それにルーターが顔を顰めて告げる。


「キャ、キャスっ……苦しいよ」


「あっ、ごめんなさいっ」


 慌てて手を離すも、キャスリンの腰に回されたルーターの手は離れない。


「あの……ルーター?」


「なに?」


「て、手を……そろそろ離して……」


「いやだ」


「いやだっ?」


「やっと捕まえられたのに。逃してなるものか」


「捕まえるって……逃げるって……」


「だから絶対に離さない」


「で、でもこのままじゃエレナたちの話が……」


「このままでも話は聞ける」


「え?えぇ……?」


「そこっ!気持ちはわかるがイチャイチャするなっ!」


キャスリンたちが離す離さないのやり取りをしていると、シヴァルが揶揄うように横槍を入れてきた。

返すルーターは冷静なものだ。


「やっとキャスをこの手に取り戻せたんです、とりあえずは先にはじめておいて下さい」


「お前……キャスリンのこと好きすぎだろう。まぁいい、今まで無理を強いてきた自覚はある。仕方ない、許す。勝手にイチャついてろ」


「ありがたき幸せ」


「えっ?えぇっ?」


シヴァルはまるでルーターにとってキャスリンがご褒美であるかのように言う。

シヴァルの許しが出てルーターはキャスリンを再びぎゅうっと抱きしめた。


「ル、ルーターっ……?」


なんだこの展開はなんなんだ。

さっきまでルーターに嫌われたと思い、悲しくてたまらなかったのに今はそのルーターの腕の中に閉じ込められている。


「キャス……王女の毒気に当たり続けて死にそうなんだ……デトックスさせてくれ……」


キャスリンを抱きしめながらルーターが弱々しくそう言う。

その様がなんだか痛々しくて、キャスリンは大人しくしておくことにした。


みんなの前でとっっても恥ずかしいけれど、皆は今、正体を明かされたエレナの方に注目している。


キャスリンはルーターに抱きしめられながら、エレナたちのやり取りに耳を傾けた。



「ハイラントの……王女……?」


「エ、エメレイン王女、だと……で、でも髪がっ、容姿がっ……」


特進クラスの男子生徒が狼狽えながらもそう言う。

キャスリンはハイラント国民ではないので第二王女の容姿を深くは知らないが、たしか腰辺りまである長い髪だったはず。

だけどエレナは毛先が肩にも付かないボブスタイルだ。


その疑問にシヴァルが答えた。


「魔法学校の生徒が何を言う?髪の長さや容姿くらい魔法で何とでもなる、それくらい知っているだろう」


「いや、しかし……」


男子生徒はそれでも認めたくないらしく、尚も食い下がろうとするもその声は段々と小さくなっていく。

それはそうだろう、彼は既にエレナに対し散々な態度を取ってきた。

不敬罪に問われるのはどちらかと思うと、恐ろしくてこれ以上は何も言えない様子であった。



それでも絶対に認めないのがマルティナである。


散々見下し、邪魔だと思っていた女が同格の王女という身分を持つ者であったなど、死んでも認めたくないようだ。


「な、何をバカな事を言っているのよっ……では何故ハイラント騎士団が学校(ここ)にっ?その女を捕らえるために来たのでなければ一体何をしにここまで来たというのっ?」


まぁ確かに余程の事がなければ騎士団が学校に来る事など有り得ない。

学校が何者かに襲撃されたか、内部で大規模な暴動が起きたか、あるいは王家の名を受けその任務の為にやってきたか。


シヴァルがその答えをマルティナに示す。


「それはマルティナ王女、そなたの身柄を拘束するために騎士団はここに派遣されてきたのだ。一応王族であるそなたをまさか自警団に引き渡すわけにはいかないからな」


「なっなぜわたくしが捕らえられなければならないっ!?」


「そなたがこの学内で、数々の違憲行為を行ったからだ」


「えっ!?」

「マ、マルティナ様がっ?」

「王女殿下が……?」


その場にいた多くの者がマルティナを見た。

特進クラスのマルティナの腰巾着たちは既に真っ青な顔色をしている。

マルティナはツンと顎を上げ鷹揚に返した。


「何を仰っているのかしら。何を根拠にそのような事を。ふふ、でも今の言葉で貴方、その身を滅ぼしましたわね。王族であるわたくしを犯罪者扱いをした罪は重いですわよ。騎士団に捕らわれるべきは貴方ね、シヴァル」


最後の方には勝ち誇ったように語尾が明るくなってゆくマルティナ。

そんなマルティナにシヴァルは平然とした態度のまま淡々と罪状を述べていった。


「学内に個人への攻撃を目的とした噂を流した信用毀損罪。それらを他者に指示し、己の立場を利用して実行させる教唆罪に強要罪、学校の備品を故意に破壊した器物損壊罪、そして、学力テストの解答用紙を盗むように示唆し、それを利用してあたかも己の実力のように好成績を収めた窃盗教唆罪と虚偽罪……とまぁよくもまぁ虫も殺せないような顔してこれだけの罪が犯せるものだ」


呆れ果て、侮蔑を込めてシヴァルはそう言った。


「そ、そ、そんなっ、わた、わたくしは何も知らないわっ!」


まさかこれまでの自分がしてきた事を把握されていた上、露見するなどと思いもしなかったのだろう。

マルティナは分かりやすいほど動揺を見せている。


しかしそれでも絶対に認めるつもりのない王女はヒステリックな声を上げた。


「わたくしが罪を犯したというのなら証拠を出しなさいっ!どうせ証拠も用意できなかったのにそんな事を偉そうに言っているのでしょうっ!?」


それに対し、それまでキャスリンを堪能していたルーターが落ち着き払った声で口を挟んだ。


「証拠ならありますよ」


「え?」


マルティナが瞠目してルーターの方へと振り返る。


「俺がなんのために嫌々王女殿下の世話役として側にいたか。シヴァル(その方)の命を受け、王女が犯した罪の証拠隠滅や隠蔽を防ぎ、秘密裏にそれらを回収していたんです。もちろん近くで違憲行為を示唆する会話も魔道具にて録音しています。何より側でそれらを一部始終見ていた俺自身が証人となれますね」


「そ、そんな……嘘よ、……ルーター……それじゃあ貴方、最初からわたくしを裏切って……」


「裏切る?裏切るもなにも、俺は貴女の家来でもなんでもありませんし、貴女に忠誠を誓った覚えなどない。俺が忠誠を誓うのはここにいるキャスリンだけだ」


「そこは俺に忠誠を誓っていると言えよ!」


シヴァルがすかさずそうツッコミを入れるもルーターはそっぽを向いて誤魔化した。


そんなルーターをジト目で見遣りながらもシヴァルは更にマルティナに罪を付け足す。


「あとは先程からそなた自身が喚き散らしていた不敬罪だな。大国ハイラントの王女であるエメレインに対し、散々な無礼千万を働いた罪。俺的にはこの罪が一番許せぬ」


「い、嫌よっ!何を言っているのよっ、何が不敬罪よっ!わ、わたくしは認めないわっ!そんな安っぽそうな女がわたくしと同格などと……絶対に!」


「認めないのは勝手だが、同格というのは違うだろう」


シヴァルが呆れたようにそう言う。


「ど、どういう事ですのっ?」


「国力においても格差は存在するものだ。クルシオとハイラント、どちらが格上か。それは比べるまでもないだろう。もちろん、我がアデリオールと比べても、だ」


「っ……!」


シヴァルのその言葉に、マルティナと同時に多くの者が息を呑む。


皆、今までのシヴァルの発言やエレナがハイラントの王女だと聞き、その上で頭を過ぎる事がある。


利口な者ならば必然とその事実が見えてくるからだ。


シヴァルは常日頃から自身がエレナの婚約者であると公言している。


それが事実であるならば、シヴァルの本当の身分も自ずと明らかになる。




大国ハイラントの第二王女の婚約者は、

同じく西方大陸屈指の大国アデリオールの王太子であるということは、あまりにも有名な話であった。






───────────────────────




え?始業ベルが鳴らない?


騎士団が来た時点で授業ストップでしようよ。ねぇ?



あと二話で終わります。

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