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アンデッド  作者: 無理太郎
Episode.4 覚醒
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校内調査3

 図書室から出て、僕と神宮寺さんは真っ直ぐに校舎裏を目指す。

 最後の目的は、残る「土」の問題だ。

 学校の土地に魔力を貯蔵しているというが、目立たずに調べるのは意外と気を遣う。

 何せ、放課後とは言えまだ日没前だ。

 グラウンドで堂々と地面を調べていたら、次の日の話のネタになってしまうこと請け合いである。

 部活動に勤しむ生徒達の視線から逃れるには、必然的に人気を避けるしかない。

 校内に手に取れる土壌(じめん)がない以上、目的地は建物の外。

 故に、校舎裏はシンプルかつ確実に条件を満たす絶好の穴場(ポイント)というわけである。


「――――」


 一つ、問題があるとすれば。

 用事がなければ踏み入らない場所だからこそ、お互いに招かれざる客人同士になってしまう、という点。

 絶望的に日当たりが悪いというわけでもない校舎裏には、敷地の境界線上を奔る青緑色のフェンスと、それに沿うように生い茂る木々のおかげで、日没前だというのに薄暗い。

 視界が奪われるほどの闇ではないにせよ、人払いには十分過ぎるほどの薄気味の悪さがある。


「ね、ねぇ……神宮寺さん」


 ぶつかり合う視線に耐えきれず、僕は隣で堂々と立ち止まる少女に声をかけた。


「気にしない気にしない。奥の方に用事があるから、行こう」

「――えっ。あそこを突っ切っていくの?」

「うん」


 正気か。マジなのか。

 小声で話すこちらの声は聞こえていないだろう、彼我の距離十数メートル。

 警戒の先には、明らかに柄の悪い男子生徒四人組。

 何の因果か、どうにも僕はあの不良たちと遭遇する縁があるらしい。

 それを、いつだったか登校時に助けてくれた時のように、歯牙にもかけずに歩き出すポニーテールの格闘王様。

 当然、彼らの視線は先ほどから、僕たち二人が独占状態である。

 放課後の校舎裏なんぞ、用がなければそれこそ踏み入らないダークゾーンだ。

 仮に気の迷いでやってきたとしても、不良が溜まり場として使っていることが分かれば、大抵は尻尾を巻いて逃げ出す。

 それを承知に踏み込むのは、例外なく「特例扱い」なのは明白だ。

 よって、不良(かれら)の注目を集めないなど、不可能なのである。


「――――おい」


 半ば通り過ぎたあたりで、そんな声に呼び止められた。

 僕は分かっていたのにびくりと肩が跳ね、淀みなく振り返る神宮寺さんに遅れて、動きの悪いブリキ人形みたいに向き直る。


「こんな場所に何の用だよ、お前ら」


 四人組の一人が、そう質問をぶつけてくる。

 不良な彼らだが、質問自体は哀しいことにマトモであるのがツライ。

 そりゃあ、そうですよね。

 用がないのに立ち寄るのは、生活指導の先生くらいじゃあなかろうか。


「カレシ連れて来るような場所(トコ)じゃねぇだろ、ラブホでも行けよ」


 からかいの混じった警告。

 他の仲間が薄く含み笑いをするものの、嘲笑よりは苛立ちを強く感じる。

 馬鹿にしたい、というよりも――やはり、自分達のテリトリーに我が物顔で侵入してきたことが不服なのだろう。

 それを。


「下品だなぁ。――別に、先輩方が気にするようなことでもないですよ」


 なんて、神宮寺さんが涼しい顔で一蹴するのであった。

 キン、と凍りつく音が聞こえてきそうなほどの硬直。

 空気が張り詰めるなんてもんじゃない。

 それこそ、押せば終わるスイッチを力一杯押したような終末感。


「それに、ここに来たのは学校の周辺確認の為です。私、生徒会の人間なので。煙草の吸い殻なんて捨ててあったら、大事じゃないですか」

「…………」


 四人組は、神宮寺さんの説明を聞いているようで聞いていない。

 事情がどうこうよりも、下級生に自分達が一切恐れられていない、という事実が問題なのだ。

 ある種の上下関係、力関係が存在する不良界隈では、メンツというものは容易く踏みにじっていいものではなくなる。

 特に、彼らの自尊心(プライド)は殊更、繊細であるが故。


「じゃあ、なんでカレシなんて連れて来てんだよ」

「はぁ……単純に男手です。備品管理もしないとですし、重たいものも多いので。こう見えて久遠くん、鍛えてますから」


 あと――と、神宮寺さんは踵を返しながら。


「彼とは別に付き合っていませんので、テキトーなこと言うのはやめてくださいね、先輩方」


 低い声で、明確に威嚇をして彼女は歩き出した。

 僕は一応、先輩である四人組に頭を下げて、神宮寺さんの背を追いかけるのだった。

 ……幸い、彼らが後を追ってくる様子はない。

 気分を害してしまったものの、やはり神宮寺さんの実力は効力を発揮しているようで、喧嘩(ぼうりょく)に走ることはないらしい。

 まぁ、僕も身を以て彼女の実力は知っているつもりだ。

 格闘の心得があるどころか、実戦を潜り抜けてきた本物を相手取るほど、不良は暴力に傾倒しているワケではないことが分かる。

 そうして、彼らの視界(テリトリー)から外れた場所で、ようやく僕と神宮寺さんは立ち止まり、今度こそ地面に向かって視線を落とすのだった。


「ん~……やっぱ、表面上じゃあ分からないなぁ。ちょっと土が軟らかいところ、掘り返してみよ」


 相手が土であるならば、掘るという選択肢は想定内だ。

 しかし、その場にいる人間(ふたり)は問答無用の空手。

 意外と、高校生活の中でシャベルもスコップも、異質なのだといらぬ事実に思い至る。


「花壇、じゃあダメだよね?」

「花壇は正直、手入れされてるからねぇ。土壌そのものとは呼べないかも」

「うん、分かった。手で掘るから、軟らかそうなところ探そう」

「え――マジ?」


 もー、神宮寺さん。

 どうしてそこで「お前本気?」みたいな顔するかなぁ。


「土いじりはあんまり抵抗ないよ? 爺ちゃん婆ちゃんの手伝いで、畑仕事させてもらってたから」


 良い運動になるし、子供にとってはむしろご褒美だった。

 さすがに中学校にあがるとお手伝いの意味合いが強かったけど、それまでは昆虫採集とかそういうのと同じ括りだった記憶がある。


「……意外とクドウくんってサバイバルというか、野生児だよね」

「や、やせいじ!? それは言い過ぎだよっ」


 こ、これだからお嬢様育ちはっ!

 土いじり程度で野生児扱いされてはたまらない、とは思いつつも、まずはやるべきことをやる為にポイントを探していく。

 幸い、外からの人目を遮るように生い茂る木々の根元部分が無理なく掘れそうで、かがみ込んですぐに作業を開始した。


「――――」


 素手でザッ、ザッ、と地面を掘る。

 傍から見れば異様な光景だが、僕の代わりに周囲を警戒してくれている神宮寺さんの反応がないところから察するに、心配はいらないようだ。

 掘ること数分。

 なんてことのない、落とし穴にもならない直径数センチの穴ぼこを前に、神宮寺さんが砂をひとつまみして目を細めた。


「魔力を含んでる様子も、術式が混じってる様子もない。なるほどね、こりゃ一流の仕事だわ」

「そ、そうなの?」

「貯蔵庫として完全に機能してる。正直、私は地下に魔力の存在を探知出来てない。出来てたら、とっくの昔に気づいてるからね。これが意味するところは、密封に近いってこと。自然のサイクルレベルで魔力の霧散はあるかもだけど、それすら感知出来ていないしね、私。……きちんと実際に見に来てよかった。ちょっとやそっとの小細工じゃ、太刀打ち出来ないわコレ」


 神宮寺さんの発言から察するに、学校の土地に手を加えた相手は、舌を巻くレベルの錬金術師らしい。

 雲月君も言っていたけど、やってることは初歩的、精度は達人。

 あまり喜べない事実が判明したが、これからどうするべきなのだろうか。


「土地に関しては、お手上げかな。根本的な解決は、私には無理。でも、それが分かったのは大きな収穫。この件は、御紋会の手を借りよう。こういう規模が大きいヤツは、大人の方が得意だからね」


 確かに、神宮寺さんの案は全面的に賛成だ。

 大人が管理している場所は、やはり大人の立場や肩書きを持つ人達の方が強い。

 その後は穴ぼこに掘り返した土を戻し、運動部が使う水場で手を洗ってから、グラウンドの隅を歩いて校舎内へ戻る。


「来たわね」


 と、昇降口では麗華さんと雲月君が待っていた。


「見つけたわよ、鷲目先輩の居場所」


 おぉ、と僕と神宮寺さんは二人で声をあげた。

 まさか、黒木先生が鷲目先輩の居場所を知っているとは。

 一日掛かりでも辿り着けなかった貴重な情報を前に、僕らは確かな前進を感じ取る。

 オレンジ色に染まる校舎。

 それは再び、夜が街を呑み込む気配(よちょう)だ。

 そうなれば、昨日のような戦闘に遭遇する可能性は十分に考えられる。

 それでも、か。

 あるいは、だからこそ、か。

 僕らは誰一人反対することなく、当たり前かのように学校を後にし、美小野坂の街へと向かう。

 今度こそ、鷲目先輩の元へと辿り着く為に。

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