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アンデッド  作者: 無理太郎
Episode.4 覚醒
73/89

九年前:中

 神宮寺頭領の語る九年前の出来事。

 それは、ある二人の不死者から始まるものだった。

 一人は、タナトスの第五席に名を連ねる不死者――名を飫肥姫(おびひめ)

 もう一人は、大戦の動乱に紛れて歴史から姿を消した戮士の名家、麟道。

 その末裔であり、御紋会が秘密裏に保有する切り札としては「最強」の一角とされていた男――名を麟道将(りんどう まさる)

 日本という国の有史以来、証紋によって「妖怪」と呼ばれる怪物が生まれたことが幾度かある。

 飫肥姫は、その中でも現存する最古の妖怪の一柱であり、当然ながらその力は凄まじいものであったという。

 御紋会はかねてより、タナトスに日本の者が名を連ねていることを禁忌と見なしていた。

 早い話が、飫肥姫は強大な不死者であり、彼女の一挙手一投足によっては国際問題に発展しかねない、目の上の瘤であると認識していたのである。

 御紋会はその活動において、日本政府とは切っても切り離せない関係にある。

 政府としても、国外に大きな火種を残したままにはしておけない。

 そういった共通の認識が、秘密裏に麟道家の門を叩いたのであった。


「結果、御紋会は政府の公式支援を受けながら、麟道の末裔に飫肥姫討伐の任を命じる運びとなった」


 しかし、神宮寺頭領は続けて、「だが、それは失敗に終わる」と口にする。


「理由は? 俺の推測だが、麟道の者が生きているならば『装威』も現存していたのではないか」


 雲月君の指摘に、頭領は首を縦に振る。


「GHQと当時の日本政府の目を盗み、御紋会が現代まで文字通り秘蔵してきた切り札だ。だが、事の真相は失敗ではあるが、敗北ではなかった」


 失敗に終わった理由――それは、麟道将が飫肥姫を「保護」したことにあったという。

 討伐を命じられた彼はしかし、飫肥姫を国内へ連れて帰ってきたのだった。

 その理由は単純かつ周囲を驚かせるもの。

 二人は、平穏を夢見ていたのである。

 そも妖怪であることで国内での居場所を失った飫肥姫は、半ば囲われる形でタナトスの列席者となった経緯があった。

 加えて、麟道将の実力は本物――否、それ以上であり、装威を用いた戦闘では飫肥姫に勝ち目はなかったという。

 そして何よりも……二人は、互いに想い合っていた。

 長く生きすぎた女と、多く殺しすぎた男は、どこか似た境遇の互いを理解し合っていたのである。

 無論、当時の日本政府及び御紋会の上層部は黙ってはいなかった。

 飫肥姫自身に敵意や害意がなかったとしても、タナトスの列席者を匿うともなれば、国内を様々な脅威が襲うことになる。


「だが、結果として周囲は認めざるを得なかった。装威を駆る麟道将、そしてタナトスの列席者である飫肥姫が暴走した際、これを止める手段は三法機関との共闘以外にはあり得なかったからだ」

「飫肥姫はともかくとして、たった一人の戮士を止めるのに?」


 神宮寺さんが信じられないといった口調で聞くと、神宮寺頭領は目を伏せて答える。


「麟道家の装威は、大戦時のものだ。――名を『国切丸(くにきりまる)』。雲月、お前ならば聞き覚えがあるのではないか」

「あぁ。俺も装威に関して博識ではないが、その名は知っている。大戦時、天皇家所有の装威が名のある戮士に与えられた。その内の一つが、国切丸だ」

「如何にも。仕手もさることながら、装威そのものも天下一品。対抗馬となる装威を戦後処理によって失っていた我々にとって、麟道将はまさしく切り札であり、同時に彼の人間性に依存する危うい関係にあった」

「だとしても、そんなの内部抗争の火種にしかならないんじゃ……」

「その通りだ、薫。だからこそ、そのお目付役として当時の大家三家が選ばれた」


 そこから、ようやく登場人物に知る人達が出てくることとなる。

 神宮寺、久遠、雲月の三家は、協同して麟道将と飫肥姫の監視を行う運びとなった。


「とはいえ、監視と言えば仰々しいが、当時の三家は二人を守護の対象とみていた。言い換えれば、彼らが無事平穏に一般の人間として過ごせるよう、文字通りの生活支援をするのが主な役割だった」

「一般の人間?」


 神宮寺さんの言葉に、神宮寺頭領は深く頷く。


「そうだ。彼らは不死者ではあるが、ただ人並みに恋に落ち、家庭を築き、人並みにその生涯を終えたいと切望しているだけだった。それを、御紋会に所属し、まして本家である者達が異を唱えられると思うか?」

「…………」

「確かに、同族殺しは不死者の常だ。しかし、同時にそれは常に最期の選択だった。本来、御紋会がすべきは危険因子を排除することではなく、彼らの社会復帰を手助けするもの。国士団から御紋会へと改名する際、そう理念を新しくしたことを忘れてはならない」


 そこで、神宮寺頭領が僕を見る。


「……分かるか、久遠満。その二人に迎え入れられた赤子が、他でもない君だ」


 面と向かって言われ、しかし僕は言葉を返すことが出来ないでいた。

 ……何となく、話の流れで「もしかしたら」という考えはあった。

 けど、麗華さんの記憶と一緒に蘇った思い出の中にいる父さんと母さんは、不死者のことなんて一度だって話したことはなかったように思う。


「じゃあ、満君も――」

「――いや。彼は系譜ではない」


 麗華さんの言葉を、頭領はすぐさま否定する。


「久遠満は、麟道将と飫肥姫が施設から引き取った――捨て子だ」

「――――――」

「だから、あの二人――いや、君達家族には『名前』が必要だったのだ」


 その場の全員が、言葉を失っていた。

 僕は捨て子で、父さんと母さんは、そんな僕を拾ってくれた人達で。


「それで、あの人達は分家の『クドウ』の名前を?」

「そうだ。発案も久遠家からだった。直接分家と呼べる者らがいなくなって久しい久遠家ならば、丁度席が空いている、とな」

「……いなくなってって、どういうこと?」

「久遠家は分家が途絶えている。尤も、私も提案を受けてから根掘り葉掘り聞いてようやく判明した事実だったがな」


 僕の隣で、麗華さんが眉間を指で押さえながら、それはそれは大きなため息を吐くのが分かった。


「話を戻すぞ。そうして、クドウの名を借りた一つの家族の生活が始まった。……とはいえ、最低限の生活基盤を整えてしまえば、我々の出番はそうそうなかったのが実際だ。九州の山奥ということで、都市部に比べれば生活に不便もあっただろうが……それでも、幸せそうではあった」


 神宮寺頭領曰く、その苦労もまた、彼らが願ってやまなかったものなのだろう。

 そして、ここで終われば、この九年前の出来事を紐解く話は平和なままだった。


「しかしある時、我々三家は不穏な情報を掴んだ。それが、鑑グループの話だ」


 鑑グループは、医療・養護分野に関して圧倒的な国内シェアを持つ巨大企業。

 表向きは鑑グループという名前を出していないものの、それぞれの金の流れを追っていくと、最終的に辿り着く先がソコなのであった。


「鑑グループは、登録上は金融業だった。つまり、医療・養護分野における各企業体への資金援助を行っており、最終的にはグループ傘下として合併・吸収を繰り返していた」

「まぁ、でも要は親会社ってことでしょ? それそのものは普通っちゃ普通じゃない? ファミレスだって店名と運営会社は違う名前ってよくあるし」


 神宮寺さんの指摘に、頭領は頷く。


「問題は規模だ。そもそも捨て子だった久遠満の背景を調べていた中で掴んだ情報であり、鑑グループについては不自然な程に会社規模と流通している情報の規模が一致しなかった」


 神宮寺頭領曰く、あれだけの巨大企業ならば逐次ニュースに取り上げられているはずだ、と。

 それが、実際は不自然なほど誰も関わろうとせず、世の中に鑑グループの名は広く知られていない状態だった。

 つまり、実際はそれだけ多くの金額が鑑グループに流れており、まさしくその「鑑グループ」そのものが不透明なのであった。


「おまけに、鑑グループは当時の防衛大臣である光岡豊(みつおか ゆたか)と創設者との間に、個人的な繋がりがあることも判明した。……これを洗っていくと、最終的に辿り着く先は――あの龍御岳に建造された研究施設だ」

「……まさか、じゃあ」

「そうだ、薫。新生児の捨て子だった久遠満を保護したのは、鑑グループ傘下の施設。引き渡しまでは良かったが、鑑グループの人間がその子供に何らかの『価値』を見出した。御紋会の九州支部を統括する奈良沢ならざわ家も、同時期に久遠一家が拠点を置く一帯を企業が調査している、と報告を上げてきている」


 それを聞き、一気に背筋を冷たいものが走った。

 その時から、得体の知れない魔の手が迫っていたのだという事実に。


「とはいえ、表向き鑑グループは只の一般企業だ。御紋会として動くのにも、様々な根回しがいる。手をこまねいていると、麟道将から一つの連絡が入った」


 そして、それが決定打となり、事態は急速に動き出す。


「実は麟道家には既に家を出た者が一人いた。弟の麟道達人(りんどう たつひと)。鹿児島で腕の良い開業医をしている男だ。だが、どうやら兄弟の間には確執があるようでな。これが引き金となり、弟――達人はよからぬ者らと手を組んで、自分の元にやってくるだろう、と」


 そして、その手を組んだ相手というのが――鑑孝文その人だったのである。

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