幕間 なつのきおく
今でも、あの笑顔を鮮明に覚えている。
私にとって、生まれて初めての――楽しい夏の記憶。
何でも無いことに興味を持ってくれて。
何者でもないのに興味を持ってくれて。
何も持っていないのに興味を持ってくれて。
ただ生きているだけの、心臓が動いているだけの私に、息を吹き込んでくれた友達。
「れいかくん!」
「んな大きい声出さなくても、聞こえてるよ」
呆れるほどの田舎の奥地で、私と君だけなのに。
「お、おいっ! 満、これどーすんの!?」
「そのまま引いて! がんばって、れいかくん!」
「バッ――こっちは初めてだぞ! 手伝えよ、おい!」
「う、うんっ!」
どんな事をしているよりも楽しくて。
「え、触るの?」
「うん。焼いて食べるとね、おいしいよ」
「そりゃ魚だからな。……そういうことじゃねーよ」
「だいじょうぶっ! かんたんだよ?」
「いやだから――そうじゃねぇんだって」
どんな物をもらうよりも嬉しくて。
「わぁ……すごいよ、れいかくん!」
「おおげさだよ。ただのサッカーだぞ」
「ぼく、誰かとサッカーしたことないから」
「あぁ、そういや……そんなこと言ってたっけか」
「うん! だから、すごい楽しみなんだっ」
「……そうかよ。じゃあ、特別に俺が教えてやるよ」
「ほんとう!?」
「おう。ホント、特別だからな。地元じゃ、クラブのヤツだって俺に敵わねーんだぜ」
だから、その記憶はどんな景色よりも美しくて。
「だからさ、今度は――――」
だから、その約束はどんな物よりも大切で。
「――――今度は、美小野坂で一緒にサッカーやろうぜ」
それを守れなかった私は、心底自分が憎かったんだ。
救われた過去があって。
守れなかった未練があって。
覚悟に突き動かされた未来がある。
例えどれほど歪な形であろうと、私は彼の支えになると誓った。
だから、もう、私は私を止められない。
どれほどの地獄の末に、あの病室での姿になったのか、ようやく分かったから。
「――――オマエは、ここで殺す」
目の前の天使を睨み付ける。
もし、本当にここで愛が形となるなら。
私の想いだって、例外ではないはずだ。
伝える資格も、伝える機会も失った、古ぼけた想いだけど。
私が、人を捨てるには十分だろうから。




