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アンデッド  作者: 無理太郎
Episode.3 三つ巴
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幕間 知らせ

「お、いたいた」


 昼下がり、喫茶店で休憩がてらパフェを嗜んでいると、聞き慣れた声に顔を上げる。

 そこには、和服に割烹着姿というお馴染みの出で立ちで現れた、雲月家の家政婦兼用心棒の宗近が、髪と同じ藍色の手提げ巾着を揺らしながら歩いてくる様子があった。


「あ、ごちそうさまでーす♪」


 対面に着席するなり、人懐っこい笑顔で雇い主である雲月賢史オレにたかってくる。

 こちらの返答も聞かず、テーブルに設置されている押しボタン式の呼び鈴を鳴らすまで僅か一秒。


「いらっしゃいませ」

「同じ物を一つ、お願いします」

「フルーツパフェで御座いますね、かしこまりました。少々お待ちください」


 これほどの暴挙――もとい早業では、口での制止は意味を成さない。

 ひとまず頬張っていたものを胃へ送り届けると、「金は持ってるだろう」と一応の抗議を向ける。


「これ?」


 手提げ巾着をオレに見えるように持ちながら、「ここには女の子の秘密しか入っていないんですー」とのことだった。

 まぁ、返答の方向性としては予想通りである。

 何故ならば、ここに彼女を呼んだのは他でもないオレであり、少しばかり手を貸して貰ったからだ。

 平日ということもあり、店内は疎らにしか席は埋まっていない。

 少し待つと、すぐに追加のパフェが宗近の前にやってきた。


「わはぁ、美味しそう~。いただきまーす♪」


 宗近はほくほく顔でパフェを頬張り始め、オレはオレで食べ進めること数分後。

 空になった容器二つをテーブルの端に避け、本題に入ることにした。


「で、どうだった」

「うん。鑑蓮かがみ れんは、白だったよ」


 紙ティッシュで口元を拭きながら、何事でもないかのように宗近は結論から述べる。


「正確には、彼は鑑家の遺産を継いでない。むしろ、父親である鑑孝文の暴走を止める為、警察機関に情報を流していたみたいだよ」

「そうか。オレの方でも調べたが、動いたのは霊安室のようだな」

「残念ながら、霊安室に関する情報までは、手をつけられなかったかな。やっぱり警察の最高機密ともなると、御紋会の裏側を嗅ぎ回るより難儀だねぇ」


 おまけに、霊安室は警視庁直下の対不死者戦力だ。

 膝元の東京ならいざ知らず、美小野坂で詳細な情報を手に入れるのは、準備も時間も足りないだろう。


「だから、鑑蓮から伝って、色々と面白いものを仕入れてきたよ」


 ふんふ~ん、とえらく上機嫌な宗近は、藍色のおかっぱを揺らしながら顔を近づけてきた。

 整った容姿に、分かりやすく悪巧みをしているような嗤いが浮かんでいる。


「九年前の出来事。どうやら、神宮寺頭領が絡んでいるみたいだね」

「…………」


 鑑総合病院について調べを進める内、オレもその九年前、というワードに行き着いていた。

 同病院が取り壊しを受けているのも九年前。

 そして――――。


「旦那様と奥様が、片腕を無くされたのも九年前。……どう? なぁんか臭うよねぇ」


 ――――オレの両親が片腕を無くして戻ってきたのも、九年前だった。

 ただ事ではないが、当人達が決して詳細を語ろうとはしない為、雲月家では未だ謎に包まれたままである。


「賢史くんは、麟道りんどうって呼び名……覚えあるよね?」

「戮士の名家だ。尤も、戦時中の動乱で本家筋の消息は不明と記憶しているが」

「それがねぇ、どうやらそうでもないみたいだよ? 加えて、同時期に御紋会の根回しで、海外から国内に身を移している人物が一人いた」

「誰だ」

梶浦恭史郎かじうら きょうしろう


 ……なん、だと。

 オレは誇張無く、聞き間違いとしか判断出来なかった。

 何故なら、その名前は今生きているはずのない人間のものだったからだ。


「……あり得ん。江戸時代の人間だぞ」

「ねー。戮士界隈じゃあ、知らない者はいない超有名人。江戸はおろか、当時国中を血みどろの大内乱に導いた、未だ史上最強と恐れられる戮士だもん」


 生きているわけがない。

 だが、後に「国士の乱」と呼ばれる大内乱の記録に、彼の生死が記載されてはいないのも事実だった。

 三百年以上もの年月を、どうやって生き延びたというのか。


「この探偵・宗近が考えるにだね、賢史くん」


 むむっ、と目の端をキラリと輝かせ、自称探偵が唸りをあげる。


「こりゃあ、御紋会は相当な隠し事をしているよ? それも、意図的に大家へその情報が渡らないようにしている」

「重要なのは、その理由だな」


 大家六家への隠し事自体は、相互監視の面から見てもそう不思議はない。

 むしろ、牽制し合う意味合いとしては健全ですらある。

 しかし、宗近の持ってきた情報は、本来であるならば共有すべき内容を含んでいることが、問題だった。

 それがオレや久遠、神宮寺達を陥れる為であるのか。

 あるいは、その逆――何か裏で蠢く存在から護る為であるのか。

 それを見極めないことには、簡単に刃を振るうわけにもいかない。


「思っていた以上に、深い問題だな、これは」

「いやはや、全くですなぁ」


 困ったもんだねー、と肩を落としながら、やれやれとため息を吐く宗近。

 そこへ。


「賢史さん、お疲れ様でございます」

「うぉっ」


 いつの間にいたのか、唐突に降って沸いたような虎徹の声に、思わず驚きの声があがった。

 宗近と瓜二つの女性が、同じく和服に割烹着姿でテーブルの脇に立っていた。

 ……どうして彼女がこの場にいるのか。

 オレは宗近にしか声は掛けていないはずだが。


「お、虎徹ちゃん。早かったねぇ~」

「丁度一段落ついたところでした」

「……」


 宗近コイツが犯人か、と説明を求める視線を投げると、当の本人はフンスッと鼻を鳴らしながら、自信満々で「双子だからね」と回答した。


「元からオレにたかるつもりだったのか」

「人聞きが悪いなぁ、賢史くん。成功報酬を頂きに来た、と言って欲しいね」


 とはいえ、宗近が問答無用でパフェを頼んだ時点でオレは予想がついていたのだが。

 帰りに手土産でも要求されるとは思っていたが、まさかこの場に招喚するとは恐れ入った。

 二人用のテーブル席だったので、オレは立ち上がり、虎徹に席を譲る。

 眼鏡の奥に相変わらず感情の薄い相貌を見せる彼女は、深々とお辞儀をすると、素直に宗近の対面へ腰を下ろした。


「賢史さん」

「ん?」


 適当に金でも置いて店を出ようと財布を手にしていると、虎徹が声量を落としてオレの名を呼んだ。

 つまり、多少の配慮が必要な会話、という意味だと瞬時に察する。


「御紋会に動きがあります。どうやら、龍御岳方面で何か起こったようです」

「龍御岳……あの、何もない山でか?」

「はい」


 虎徹の頷き――その後に続く言葉がないということは、報告はそれで終わりなのだろう。

 彼女は宗近と違い、最低限の会話しかしない。

 無愛想と言われれば返す言葉もないが、オレとしてはこれが彼女の性分なのだと理解している。


「釣りはやる」


 五千円をテーブルに置くと、宗近が「太っ腹ぁ!」と驚きの声をあげた。

 おそらく、宗近の予想より早く虎徹がこの場に現れたのは、そうする必要があったからだ。

 一段落ついた、というのは御紋会の動きとやらが、一定の方針を定めたのだろう。

 つまり、問題に対処する為、組織的に動くことを決定したのだ。

 この場合、大家には緊急の連絡が入るのだが、虎徹からその手の報告はなかった。


「賢史くん」

「賢史さん」


 呼ばれ、振り返る。


「命だけは持って帰るんだよ」

「ご武運を」


 それぞれの言葉に背を押され、オレは頷いて歩き出す。

 レジにいた店員に退店の理由と支払いの手筈を簡潔に説明し、喫茶店を後にした。

 街の雑踏は穏やかだ。

 龍御岳は市の外周に連なる、禁足地指定された山のこと。

 ここから最低限の出力まで抑えた肉体活性で移動しても、それなりの時間がかかる。

 荒事前提で考えれば、贅沢だが足が欲しいところだ。が、下手に動けば御紋会に察知されてしまうのが悩ましい点だった。

 ひとまず家に戻って得物を持ってこよう、と考えているその時。


「おい」


 横付けしてきた大型バイクから、突然声をかけられた。

 ライダージャケットとヘルメットに身を包んでいるものの、声にはどこか聞き覚えがある。


「雲月、緊急だ。手を貸せ」


 片手で後ろに乗れ、と指示してくるのは、中性的なハスキーボイス。


「鷲目か?」

「あぁ」


 珍しい事があるものだ、と妙に感心する。

 美小野坂高校三年生の鷲目弓子わしめ ゆみこ

 校内外で一部から絶大な人気を誇る不良女子生徒であり、大家六家に名を連ねる鷲目家の現当主でもある。


「雲月、お前得物は?」

「家だが」

「チッ、丸腰かよ」

「オレから見れば、そっちも丸腰に見えるがな」

「錬金収納くらい常備しろ。時間が惜しい、とっとと乗れ」


 吐き捨てるように言ってくるあたり、時間的な猶予がないのは事実なのだろう。

 言われた通りにすると、途端に雑踏を引き裂くような唸り声をあげ、バイクが急発進する。

 乗り物に詳しくはないが、現在進行形で車の間を縫うように走っているところから推察するに、改造された代物だということは分かった。

 肉体活性で走っても十分は要する距離を、そのバイクは違法走行でたったの五分というタイムを叩き出す。

 到着するなり玄関をスルーして、二階部分の窓から直接自室へ入ると、刀を手に鷲目のもとへ戻った。


「龍御岳に向かうのだろう。御紋会は何を掴んだ」

「知るか。こっちは黒乃くろののとこの爺さんからだ」

「別動か。それは好条件だ。とっとと済ませて、連中に一泡吹かせてやるか」

「何企んでるのか知らねぇけど、アタシを巻き込むなよ?」


 互いに応酬をしながら、オレを乗せてバイクが再び走り出す。

 二度ほど警察車両のサイレンを背中に聞いたが、錬金術で強化されているであろうモンスターマシン相手では、一分と追随出来ずに消えていく。

 都市部を離れ、遠目には隆起する山々が見えていた。


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