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アンデッド  作者: 無理太郎
Episode.2 剣の道
36/89

守ったもの

 魔剣使いとの戦いは終わった。

 結論だけで言えば、それは勝利とは言い難い、難しいものだった。

 オレ――雲月賢史が目を覚ましたのは、中央区での決戦から二日後。

 見舞いに来た父母から聞かされた経過は、まぁ想像通りといったところだ。

 中央区の惨状は酷く、被害者加害者の区別も困難を極め、合わせての人数は五千人を超えたという。

 この規模の被害を隠し通すことは、警察と御紋会だけでは不可能と判断。

 両機関の上層部と日本政府の要人は、正式に三法機関の協力を仰ぐ運びとなった。

 それは、長く御紋会によって介入を抑えてきた、鉄の扉が開いた瞬間だった。


「けど、そこは三法機関。要求の権利を得た以上、彼らも求められる仕事は確実にこなす。……恐ろしいことに、街の混乱は既に下火となり始めているよ」


 父曰く、市民への被害は秘跡調査会による「治療」で事なきを得ていき。

 街への被害は錬金同盟の協力により、急速に復興しているとのこと。

 当然、後になって法外な報酬を要求されるのだろうが、向こうもそれを通す為ならば、全力で今回の事件を鎮火させる、というわけだ。

 今更ながら、全世界で三法が幅を利かせる理由がよく分かった。

 事物に裏表がある限り、これをひた隠しにしたい思惑がある限り、三法機関を世の中から追放することは、不可能なのだろう。


「父上」


 父母が病室を後にする際、オレは思わず呼び止めてしまった。

 聞かなければならないことがあったからだ。


「……魔剣使いは」

「生きているよ。尤も、発見されてからずっと、眠り続けている」

「そうか……」


 オレは、魂だけを斬った。

 クレオン・サラウマリの魂だけを殺せば、牛島剛の魂が自然と肉体に戻る。

 そう、信じて刃を振るった。

 ただ、オレ自身、そんな考えで刀を振るったのは初めてな上、試したことも今回が初めてだ。

 上手くいったかは、分からない。


「賢史」


 父が、ドアの前で振り向き、オレを呼んだ。


「よく、決断したね。父さんはそれがどんな結果であれ、決断をした、その事を誇りに思う」


 そう言い残し、二人は病室を後にした。


「……誇り、か」


 果たして、オレの決断は、誇れるほどのものなのだろうか。

 身勝手で自己満足と言われれば、それまでの幼稚な答えとも思える。

 けど、病室の窓から見える、青空を見ていると、それもいいか、と気分が上を向いた。


「オレの決断だ。オレが認めてやらず、誰が認めるのか」


 剣を握る者として、振るった刃への後悔は、自分だけのものではなくなる。

 それまでに斬った命があるなら、その命までもを否定してしまいかねない。

 後悔はない。

 そう頷き、オレは起こした身体をベッドに預ける。

 目立った外傷はないが、身体の内側がボロボロらしく、一週間以上は絶対安静だとのこと。

 やれやれ暇だ、とぼんやり考えていると、何やら複数名の足音が、こちらへ近づいてくる気配が分かった。


「失礼します」


 そう言い、病室に姿を見せたのは、久遠満、久遠麗華、神宮寺薫の三名。

 いずれも手に見舞いの品を持っている。


「雲月君、目を覚ましたって聞いたから」

「あぁ、まだ目を覚まして半日ほどだ。一応、家族から経過は聞いた。三法機関様々なようだな」


 オレが言うや否や、本家当主二名が渋い顔をする。


「ムカツクくらい、完璧な仕事してくるんだよなぁ、ほんと」

「あとで、どんな請求をされるか分かったものではないわね」

「はぁ、対応は御紋会がするとは言え、こりゃあ枢軸会議が荒れるぞぉ」


 先を見据えて、立場ある二名は頭を抱えているようだ。

 その点、オレやクドウ少年は気楽なものである。


「気を遣わせたな。すまない」

「う、ううんっ。その、好きなものとかよく分からなかったから、勝手に選んだお見舞い品だけど」

「構わん構わん、貰えるものは有難く貰う性分でな。……お、三日月屋のみかん饅頭ではないか」

「あ、うんっ。これね、黒木先生がお勧めしてくれたんだ。結構有名なんだって」

「美小野坂の土産ランキング五本指に入る代物だ。丁度小腹も減ったところだ、みなで食おう」


 そんなこんなで、オレは怪我人であることを最大限に活用し、三人に世話を焼いて貰う。


「しかし、学び舎で人気の女子二人から見舞いとは、贅沢が過ぎるかな」

「うわっ、危なっ! ちょっと変なこと言わないでよ、雲月くん! 林檎の皮と一緒に指削ぎ落としそうになったじゃん」

「学校で自慢すれば、貴方も満君みたいに変なあだ名をつけられるようになるわよ」

「いやいや、久遠くおん。久遠の――いや、満には遠く及ばんさ。何せ、日頃の積み重ねが違う。見舞い程度では、日常の厚みには歯が立たん」

「ほら、その話題禁止! お茶はいったよ!」


 四人も寄れば、病室は一気に騒がしくなる。

 まだ全てが終わったわけではない。

 だが、この一時だけは、友との時間を大切にしたい。

 守る為に剣を振るう。

 その代償をはらう日を遠く見ながら、守った今を、オレは噛み締めていた。

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