守ったもの
魔剣使いとの戦いは終わった。
結論だけで言えば、それは勝利とは言い難い、難しいものだった。
オレ――雲月賢史が目を覚ましたのは、中央区での決戦から二日後。
見舞いに来た父母から聞かされた経過は、まぁ想像通りといったところだ。
中央区の惨状は酷く、被害者加害者の区別も困難を極め、合わせての人数は五千人を超えたという。
この規模の被害を隠し通すことは、警察と御紋会だけでは不可能と判断。
両機関の上層部と日本政府の要人は、正式に三法機関の協力を仰ぐ運びとなった。
それは、長く御紋会によって介入を抑えてきた、鉄の扉が開いた瞬間だった。
「けど、そこは三法機関。要求の権利を得た以上、彼らも求められる仕事は確実にこなす。……恐ろしいことに、街の混乱は既に下火となり始めているよ」
父曰く、市民への被害は秘跡調査会による「治療」で事なきを得ていき。
街への被害は錬金同盟の協力により、急速に復興しているとのこと。
当然、後になって法外な報酬を要求されるのだろうが、向こうもそれを通す為ならば、全力で今回の事件を鎮火させる、というわけだ。
今更ながら、全世界で三法が幅を利かせる理由がよく分かった。
事物に裏表がある限り、これをひた隠しにしたい思惑がある限り、三法機関を世の中から追放することは、不可能なのだろう。
「父上」
父母が病室を後にする際、オレは思わず呼び止めてしまった。
聞かなければならないことがあったからだ。
「……魔剣使いは」
「生きているよ。尤も、発見されてからずっと、眠り続けている」
「そうか……」
オレは、魂だけを斬った。
クレオン・サラウマリの魂だけを殺せば、牛島剛の魂が自然と肉体に戻る。
そう、信じて刃を振るった。
ただ、オレ自身、そんな考えで刀を振るったのは初めてな上、試したことも今回が初めてだ。
上手くいったかは、分からない。
「賢史」
父が、ドアの前で振り向き、オレを呼んだ。
「よく、決断したね。父さんはそれがどんな結果であれ、決断をした、その事を誇りに思う」
そう言い残し、二人は病室を後にした。
「……誇り、か」
果たして、オレの決断は、誇れるほどのものなのだろうか。
身勝手で自己満足と言われれば、それまでの幼稚な答えとも思える。
けど、病室の窓から見える、青空を見ていると、それもいいか、と気分が上を向いた。
「オレの決断だ。オレが認めてやらず、誰が認めるのか」
剣を握る者として、振るった刃への後悔は、自分だけのものではなくなる。
それまでに斬った命があるなら、その命までもを否定してしまいかねない。
後悔はない。
そう頷き、オレは起こした身体をベッドに預ける。
目立った外傷はないが、身体の内側がボロボロらしく、一週間以上は絶対安静だとのこと。
やれやれ暇だ、とぼんやり考えていると、何やら複数名の足音が、こちらへ近づいてくる気配が分かった。
「失礼します」
そう言い、病室に姿を見せたのは、久遠満、久遠麗華、神宮寺薫の三名。
いずれも手に見舞いの品を持っている。
「雲月君、目を覚ましたって聞いたから」
「あぁ、まだ目を覚まして半日ほどだ。一応、家族から経過は聞いた。三法機関様々なようだな」
オレが言うや否や、本家当主二名が渋い顔をする。
「ムカツクくらい、完璧な仕事してくるんだよなぁ、ほんと」
「あとで、どんな請求をされるか分かったものではないわね」
「はぁ、対応は御紋会がするとは言え、こりゃあ枢軸会議が荒れるぞぉ」
先を見据えて、立場ある二名は頭を抱えているようだ。
その点、オレやクドウ少年は気楽なものである。
「気を遣わせたな。すまない」
「う、ううんっ。その、好きなものとかよく分からなかったから、勝手に選んだお見舞い品だけど」
「構わん構わん、貰えるものは有難く貰う性分でな。……お、三日月屋のみかん饅頭ではないか」
「あ、うんっ。これね、黒木先生がお勧めしてくれたんだ。結構有名なんだって」
「美小野坂の土産ランキング五本指に入る代物だ。丁度小腹も減ったところだ、みなで食おう」
そんなこんなで、オレは怪我人であることを最大限に活用し、三人に世話を焼いて貰う。
「しかし、学び舎で人気の女子二人から見舞いとは、贅沢が過ぎるかな」
「うわっ、危なっ! ちょっと変なこと言わないでよ、雲月くん! 林檎の皮と一緒に指削ぎ落としそうになったじゃん」
「学校で自慢すれば、貴方も満君みたいに変なあだ名をつけられるようになるわよ」
「いやいや、久遠。久遠の――いや、満には遠く及ばんさ。何せ、日頃の積み重ねが違う。見舞い程度では、日常の厚みには歯が立たん」
「ほら、その話題禁止! お茶はいったよ!」
四人も寄れば、病室は一気に騒がしくなる。
まだ全てが終わったわけではない。
だが、この一時だけは、友との時間を大切にしたい。
守る為に剣を振るう。
その代償をはらう日を遠く見ながら、守った今を、オレは噛み締めていた。




