不死講習2
以前のようにはいかず、僕は気づけば、あれよあれよという間に警察署へと運ばれてしまった。
落ち着き払った神宮寺さんの様子から、まだ不安は大きくないものの、ホテル街で発生した殺人事件との関与が疑われるかどうかが、気になって仕方がない。
場所は、美小野坂中央警察署の一室。
取調室、というほど狭苦しくはないが、ドア一つに窓一つ、そして長机が二つ分とまぁ、そこまで広くもない。小さな会議室、といったところか。
案内されたままに二人で座っていると、ふいにドアが開いた。
「久遠先輩」
神宮寺さんが、パイプ椅子から立ち上がって、その人の名前を呼ぶ。
最初に視界へ飛び込んで来たのは、制服姿の麗華さんだった。
厳しい表情が、僕らを見つけた瞬間、ふっと緩むのが分かった。
「どうやら、大きな怪我はないようね」
「はい」
「クドウ君も、無事でよかった」
「ごめんなさい、携帯――――」
気が動転していた僕は、結局、手から滑り落ちたソレをそのまま忘れてしまっていたのである。
幸いにも、警察の人が回収してくれたおかげで、大事には至らなかったけど。
アスファルトの上に落としたせいか、裏面の一部分がほんの少し欠けてしまっただけで、画面割れなどもしておらず、今はスボンのポケットに無事収まっている。
と、お互いに生きて顔を合わせた麗華さんの後ろから、今度はスーツ姿の男女二人が部屋へ入ってきた。
その内の一人は、どこか見覚えのある男の人。
「あ――――黒木、さん?」
「お、名前覚えていてくれたのか。ありがとな、久遠君。まぁまぁ、とりあえず皆座ってくれ」
黒木さんの勧めで僕ら三人は、パイプ椅子に腰を落ち着けると、スーツ姿の女性の方が緑茶のペットボトルを配ってくれた。
「ひとまずは、お疲れ様ってことで。お茶は自由に飲んでくれ。取り調べってワケじゃねぇからさ」
そう言いながら、黒木さんは自分で買ってきたのか、缶コーヒーの封を開け、口をつける。
僕らも思い思いにお茶で喉を潤すと、話は続いていく。
「で、一応今のところの状況説明な。ホテル街で発見された遺体は、北麓高校の女子剣道部員三年、村上典子。死因は、失血死。まぁ、首を落とされてりゃ、誰でも死ぬわな」
「ッスね。他、同区画にあるホテルの一室で、男性の遺体も発見されてるッス。市内在住の不動産会社勤務の男性ッスね。身元は、小林亮介、四十四歳。死因は外傷性ショック死。随分と痛めつけられたみたいで、ひどい状態だったらしいッス」
おそらく黒木さんの部下なのだろうか、体育会系な語尾が特徴の女性は、黒革の手帳を開きながらそう、僕らに説明をしてくれた。
そこに、麗華さんが「警察の見解は」と質問を投げる。
「現場に落ちてた木刀と、ホテルの一室で見つかった木刀が同一のものと証明されれば、少なくとも村上典子の関与は固い。ただ、片山第一高校剣道部員殺人事件と、今回の北麓高校の一件を結びつけるのは、流れとしちゃ自然だが繋がりは不明だ。世間に公表するにしても、難しい話だろなぁ」
「実際、片山第一の被害者、西堀雄一と村上典子には接点がないッス。住んでいる場所も違えば、保育園から高校まで見事にバラバラッス。面識があったかどうかは、これからの聞き込み次第ッスけど、当人同士がもう亡くなっている以上はなんとも」
「今のところで判断すれば、小林亮介殺害と剣道部員二名の関連は難しい。事件は二つに分けて考え、情報が出揃い次第、最終判断ってとこだろう」
警察官二人の考えを、僕は特に黙って聞いている。
正直、ここら辺は不死者とはいえ御紋会でも重鎮の彼女達がいる以上、出る幕はないからだ。
「やっぱり、私とクドウくんの証言だと厳しいですか?」
「いや、証言としちゃこれ以上ないくらい有難い。むしろ、二人の証言頼みなとこもある。ただ、御紋会での立場とか色々考慮すると、証言者の身分を明かすって点で、うちの課長は渋りまくってるよ。だから、あくまで決定打にはなれないって感じだな」
「そっかぁ、残念。でも、変に注目されないよう配慮してもらえるのは、うちとしても助かります」
そう言って、神宮寺さんは黒木さん達へ頭を下げる。
「いやいや、お互い様だって。まぁ、警察も四月の一件同様、巡回人数も回数も増やしてるからな。まだ人口密度の高い場所での事件はないと踏んでたのが、マズかった。まさか中央区でやらかしてくるとは、俺も度肝を抜かれたぜ」
「食べてた牛丼、噴き出してたッスからね、先輩」
「そりゃそうだろ、御剣。アテが外れたとはいえ、警察の膝元で事件が起こりゃあ、一般部署の連中は面目丸つぶれだ。ってなわけで、せめてもの罪滅ぼしだと思ってくれ」
すまん、と黒木さんもまた数多を下げる。
それに倣い、後ろで控えていたスーツ姿の女性――御剣さんも、深く頭を下げた。
数秒それが続くと、二人はスッと姿勢を整え、「で、こっから本題な」と何事もなかったように話を続ける。
「立ち直り早っ」
「過ぎた事はしゃあねぇ。警察が落ち込んでられねぇだろ。んで、その『魔剣使い』だっけか? そいつが、この一連の首謀者ってわけか?」
神宮寺さんの突っ込みを漢らしく捌くと、黒木さんは核心に迫る質問をする。
――魔剣使い。
あの、西洋鎧に身を包んだ青年を思い浮かべる。
「首謀者かの断定は難しいです。ただ、上村典子に関しては、魔剣使いの洗脳を受けていたと思われます」
「洗脳、かぁ。……はぁ、またなんだってこんな時代に洗脳だよ。あれだろ、一般社会的な洗脳じゃなくて、魔的なやつだろ?」
「はい。魔力による精神干渉の類いではないかと」
神宮寺さんの説明を聞けば聞くほど、黒木さんと御剣さんの顔色が、見る見るうちに悪くなっていく。
「じゃあ、何か。その魔剣ってのは、本物の魔剣ってことか」
「信じたくはないですけど。口調も現代風って感じじゃなかったですし、かなり魔剣からの影響を受けているはずです」
「……先輩、相当マズいんじゃないッスか、これ」
「うちの課長の胃が、限界突破するかもな。おそらく、海外から違法な手段で持ち込まれた、『本物』だ。国内の曰く付きは、ほとんど国が管理してるはずだからな。仮に盗み出されたとしても、何処で何が紛失したかは、すぐに分かる。そうなると、事態は深刻だ。下手すりゃ、災害規模の被害が想定される。魔剣の性質やレベルにもよるが、大昔は剣一振りで城一つ吹き飛ばす、なんて芸当もあり得たろうからな」
それを聞き、僕は思わず「えぇ!?」と声をあげてしまった。
だってそうだ。
そんなのもう、剣とかそういう規模じゃない。
「自然社会全盛期は、それぐらい出来ないと怪物に太刀打ち出来なかったんだろ。なんせ、冥王代以前って言われる、不死の始まりの時代を生きた代物だ」
「しるえら?」
僕が首を傾げると、いつもの調子で麗華さんが黒木さんから話題をバトンタッチする。
「表向きは、地質時代の分類の一つで、ざっくりと言えば、この冥王代に地球が形成されたと考えられているの。ただし、これはあくまで人類が文明の力のみで惑星を紐解いた場合――」
曰く、三法機関――特に錬金同盟の功績として、惑星の解明がある。
今、地球と呼ばれる惑星は、大きく分けて第一紀と第二紀という明確な時代の区切りが存在するという。
第一紀は、現代の文明力では解析・到達不可能な人類の始まりの時代。
そのほとんどが創造・創作として語られるに至る、自然社会全盛期。
つまり、不死者の大元となった人々が「生きた」時代だ。
しかし、その時代はまさしく、幻想の歴史そのものだった。
この一紀でも人類は社会を築いたが、その社会性が数々の怪物や伝説を産み落とし、人々はそれらとの対峙に一喜一憂する日々を余儀なくされていた。
竜が生まれ、竜を殺し、竜殺しの伝説が生まれるように。
延々と人間は、人間から枝分かれする「かつては同じだったもの」を殺す日々に明け暮れていた。
当然、それは永劫に続く輝かしい時代とはならない。
三法全盛であるが故、あらゆる超常現象が駆使された結果、人類は惑星を自壊させてしまう。
それが、本当に本当の、大昔。
今はその時代を信じる機会さえ失われた、人類という種族の前世だった。
「けど、地球は辛うじて持ちこたえたのよ。まぁ、ほとんど滅びたと言って違いはないのでしょうけど、それでも私達が今生きる、この惑星の基礎だけは残した。そのおかげで、人類は二度目の誕生を果たすことが出来たのよ」
故に、地球の修復期間でもあった冥王代は、土台の時代と名付けられたという。
「・・・・・・と、途方もないお話、ですね」
「本当にね。だから、通常は第二紀を生きる人類には、真実として受け入れられないのよ。一種の防衛本能と言われているわ」
「防衛本能?」
「えぇ。だって、もし自分達が魔法を使える、なんて知ったら、碌な事にならないのは想像がつくでしょう?」
「あ――――」
そも、それが原因で一度、滅びているのだ。
種の存続の為に、人類は「辿り着けない」という選択肢を選んだのである。
「第一紀と第二紀を生きる人類は別物だけど、生まれた土台だけは同じだから。おそらくは、地球という惑星がかつての記憶を残していて、人類は再誕の過程でそれを分け与えられた、というのが錬金術師達の答えよ」
気づけば、分かりやすい図解が、部屋に置いてあったホワイトボードに黒ペンで書かれてある。
「んで、問題の魔剣は、おそらく第一紀の代物ってわけだ」
「そ、そっか。だから、とんでもなく大変なんだ」
「久遠少年、正解」
ずびし、と黒木さんが僕に丸をくれる。
「まぁ、地球が自壊する中、どうやって形を残したんだよって聞きたいが、考えるだけ野暮ってもんだ。なんせ、異界との交流すら可能だったんじゃないかって言われてる、それこそ何でもありの時代だからな」
今更そのメカニズムを考えても、時間の無駄だ無駄、と黒木さんは話を進める。
「そういうわけだから、その使い手がどこまで使いこなすかにもよるが、もし本来の力を取り戻したら、街一つ消える可能性もある」
「――――」
なん、だって?
「さ、さっきはお城一つって!」
僕が前のめりに聞くと、それを両脇に座る女子二人が止めた。
「悪い、例えだ例え」
「あ、城の方ッスからね、例えなのは」
「もっとダメじゃないですかぁ!」
「だから、悪かったって。落ち着け落ち着け。話を聞く限りじゃあ、そこまではまだ到達してないっぽいしな。とはいえ、時間的猶予がないのも確かだ。こうなると・・・・・・正直、警察に出来る事はかなり限られてくる」
申し訳なさそうな顔で、黒木さんは僕――じゃなくて、その隣の二人に目配せをした。
頷く二人は、もう考えがまとまっているのか、言葉に迷いがない。
「久遠先輩、すぐに枢軸会議の手配しちゃいますね」
「えぇ、お願い。……黒木さん達も、同席して頂けますか」
「俺らでいいのか? 課長なら、胃がどうにかなる前に会議の一つくらいなら、なんとかなると思うが」
「会議の途中で卒倒されても困るので、お二人でお願いします」
「承知。おい、御剣。課長に口頭でいいから、出席の報告してきてくれ。俺は車回しとく」
「えぇ、先輩が報告してくださいよぉ。ただでさえ、報告書云々で面倒臭いんスからあの人」
「こらこら、上司の悪口言うな、新人だろが」
御剣さんは、「むぅ~」と納得がいかない様子で、しかし足早に部屋を後にする。
僕も麗華さんと神宮寺さんに促され席を立つと、黒木さんの先導で警察署を後にするのだった。
その際に見上げた空は黒く、まだ今日は長くなりそうな気配を出していた。
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御紋会本舎。
その広大な敷地面積を誇る武家屋敷の一角に、お偉方が集まる会議場がある。
枢軸会議と称されるそれは、現存する大家の中で、美小野坂に居を構える六家と御紋会上層部が一挙に顔を合わせる場。
不死者としての確固たる素質が大家なら、上層部はいずれもが実力のみで現地位にいる者達ばかりである。
その確執、各々が腹の底に抱える昏い感情は、今に始まったものではない。
故に、それは会議というにはあまりに物騒な、政戦の場と言って差し支えなかった。
だからだろう。
誰が呼んだか、枢軸会議は別の名で御紋会関係者に広く知られている。
――――伏魔殿、と。
「大丈夫だよ、クドウくん。後ろに座っていてくれればいいだけだから」
「……う、うん」
広い道場の真ん中、まるで宴会でもするように左右に等間隔で座布団が並んでいる。
その数は計十二。
私と薫で左側の座布団六枚の内、二つは埋まっている。
その後ろには、関係者同席として満君と黒木さん、そして御剣さんがいた。
満君は……ついさっき、続々と入室するお歴々に睨まれたせいか、完全に縮こまってしまっていた。
対岸を見やれば、既に六席の内、五席は有人だった。
「あぁ、これはまた、本家の方が集まりが悪い、とかで小言が始まるやつですかね」
隣に座る薫が、小声でそう愚痴る。
この会議において、上層部が本家の至らなさを指摘するのは、もはや慣例行事のようなものだった。
毎度毎度、飽きない点には、ほとほと感心する。
「久遠」
「……きたきた」
私を呼ぶ声に、薫がわざとらしくため息を吐きながら呟いた。
声の主へ視線を向けると、そこにはスキンヘッドの大柄な男が、黒服に身を包んで胡座を掻いている。
ざっと見た目は暴力団幹部だ。
「何でしょうか、阿賀島さん」
「此度の会議、聞けば取り付けたのは久遠と神宮寺だそうだな」
「えぇ、それが何か」
「神宮寺頭領が多忙故、緊急の会議に遅れるのは判る。しかし、美小野坂の治安を御役目とする大家が、この体たらくとはどう説明するつもりだ」
どうもこうも、大家六家は色々あって代替わりが早い。
学生の身分で、こんな深夜にいきなり来い、と言って集まれないことくらい、涼しげな頭で考えたらどうか。
とは、さすがに素直に言えば、あのタコ頭が茹で上がってしまうので、すぐに忘れることにし、適当な言い訳を取り繕う。
「御役目故、ではないでしょうか。危急とはいえ、街の巡回を疎かにすれば、それこそ相手の思う壺かもしれません」
「……」
「言ってしまえば、私と神宮寺は代表です。六家全て揃わずとも、最悪我々だけで対応できますので、ご心配なさらずに」
さらりと受け流し、入道頭を観察する。
納得いかぬ、という面持ちだが、こちらはハナから全員揃うとは思っていない。
が、それを意外な形で裏切ったのは、その場に居合わせた誰もが、想像していない人物だったからだろう。
「――――雲月」
誰とはなしに、静まり返る会議場にその名前が響いた。
当の名主は、周囲の視線など何処吹く風、といった足取りで座布団――もとい、座席へ進み腰を降ろす。
見れば、巡回帰りかその手には棒状の包みが握られていた。
「……今更、どの面を下げて出てきた、若造」
「なに、呼ばれた故、応じたまでのこと。いや、お歴々の面々は見た所健在のご様子で何より」
上層部からの圧を、雲月賢史は眉一つ動かさずにいなしていく。
あれだけ余裕の面持ちで対処されると、腹が立っても暖簾に腕押しだということは、明白だった。
しばらくすると、薫の父――神宮寺頭領が姿を現わした。
和装に厳格な顔つきは、相変わらず人間味を欠いている。
彼は左右六席とは別に、大家と上層部が収まるように、真ん中に腰を下ろす。
「このような時間に、皆、よく集まってくれた」
頭領の声に、私達は全員がその場で深く頭を下げる。
三泊ほど置いてから姿勢を正すと、神宮寺頭領は本題へと入っていく。
「つい先ほど、中央区である事件が起きた。事のあらましは知っている者もいよう。問題は、その事件の裏で暗躍していると思われる不死者が、『魔剣使い』である可能性が高いと判ったことだ」
ざわめきはない。
ただし、目に見えて上層部の顔つきに緊張が走るのが見て取れた。
「神宮寺頭領。魔剣とは、あの魔剣でしょうか」
「如何にも。私もその場に居合わせたわけではないが――神宮寺当主、説明を」
「はい」
名指しで呼ばれ、薫が警察署で話した内容と、ほぼ同じものを説明する。
上層部、六席中五席を埋める五人は、それぞれ程度はあれど皆が往々にして険しいものに変わっていくのが傍目にも分かった。
「……まさか、本物の魔剣とは。頭領、御紋会だけでの対処は後手に回るのでは――」
「いいや待て、三法に下手な借りを作ってみろ。どんな要求を突きつけられるか、分かった物ではない」
「しかし、相手は不死というよりも、魔剣だ。出力次第では、背に腹は変えられぬ相手となりうるが――」
本家は私を含め、三人とも押し黙っている。
目の前では、上層部五人による意見とも言い争いとも呼べぬ、不毛な応酬が繰り広げられていた。
「くだらない。政治屋の真似事がしたいのなら、事後をお任せしてもよろしいかしら」
正直言うと、私も私でそれなりに我慢の限界だった。
本家の側は全員が、表向きの身分は学生であり、実際に子供の面もあるだろう。
彼ら機関運営を担う大人からすれば、将来性はあれど世を知らぬ蛙と言ったところか。
こちらに目もくれず、自分達だけで「会議」をしているつもりなら、それでいい。
「神宮寺頭領、目下の問題は魔剣使いです。目的は不明ですが、薫の説明した通り、一般人への被害はもちろん、久遠家に名を連ねる彼も、同様に標的の一部である可能性が」
「ふむ。聞くに、その魔剣使いもまた、何者かの思惑で動いている節があるそうだな」
「はい。『先生』と呼んでいたそうですが、素性は現状、皆目見当がつきません」
「となれば、件の魔剣使いとやら、何としても身柄を確保せねばなるまい」
流石は曲者揃いの御紋会を仕切る人物だけはある。
一切の動揺は見せず、淡々と事実だけを推し進めていく様は、ここまで来るとある種のカリスマ性だと気づく。
「阿賀島、竜宮は街の目に、よく気を配らせておけ。相手は超人だ、決して手は出させるな」
「――――はっ、速やかに」
「鑑、村田、慈禅堂は、実動戦力を整えておけ。市内の何処を戦場とするかは分からんが、万が一の時は危険性のある一帯を封鎖する。……その時は、全力で潰せ。生死は問わん」
「――――御意」
あれだけ言い合っていた五人が、ざっと一瞬で襟を正す。
腐っても、御紋会は日本特有の不死者機関だ。
頭領が音頭を取れば、それこそ今だって、三法機関と戦争が出来る程の戦力と統率力を有する。
ちらりと隣を見やると、薫が複雑な胸の内を浮かべていた。
表情としては変化がないが、そこそこ長い付き合いの私は、僅かな変化でも気づくようになってしまった。
本来、神宮寺家はあの男が当主を務めるべきなのだ。
それを、後継だからと幼年期から凄まじい訓練を課して、今の代に繋げたと聞いている。
それでも、彼女は未だ父に遠く及ばない、と密かに苦悩しているのだろう。
「では、本家は本家で、件の使い手を追います」
「宛てはあるのか、久遠の」
「はい。気乗りはしませんが、久遠満を狙って姿を現わす可能性があります」
「……あまり、経験の少ない者に無理を強いるな。事態が事態なだけに、言うに留めてはおくが」
「ご忠告、痛み入ります。ですが、おそらくは――匿った所で、同じでしょう」
私と薫は、四月の騒動で一度経験している。
もし、裏で動く人物が同じであるなら、みすみす獲物を見逃すことはない。
どういった取引であれだけの実力者を丸め込んだのかは未だに謎だが、最大限の警戒をして不足はないだろう。
私の言葉に、「これ以上は不要か」と判断したのか、神宮寺頭領は追求を控え、他の本舎の職員へも指示を出し始めていた。
相互監視が根底にある分、絶大の信頼を持つ人間が仕切ると、そこからの動きは見違える程である。
頭領から指示を受けた一人が私達――というより、警察関係者の二人の元へ来ると、「んじゃ、俺らは俺らで話詰めてくるわ」と立ち上がった。
大人は大人で、色々と提出書類やら面倒な手続きがあるのだろう。
「さ、私達も明日以降の動きを練りましょう」
「そうですね。――悪いけど、雲月君も付き合ってもらうからね」
「無論。いやしかし、先ほどの久遠の見得は中々だった」
うむうむ、と頷く雲月君。
彼の性格からして、ある程度事の運びを予測して顔を出したのではないだろうか。
何も考えていないようで、こういう人物は誰よりも先見の明があったりする。
指示を受けた上層部は颯爽と姿を消し、私達本家陣は、広い会議場であーでもないこーでもないと、これからの作戦を練るのであった。




