エピローグ
本日2話更新しております(昼11時と夕方18時)。ご注意くださいませ。
快晴の空の下、騎士団庁舎内にある訓練場にて。
「……なあ、聞いたかよ今年の新人の話ッ!!」
比較的入団して若い騎士たちが休憩の傍ら、たわいのない雑談に興じていた。
話題は先日行われた入団試験についてである。
「聞いたっていうより、俺は現場手伝ってたから間近で見ていたが……確かにあれは凄かったぞ」
「マジすか! 羨ましい!」
「僕あの日は面倒で手伝い断っちゃったんですよねー。こんなことなら引き受ければ良かったなぁ」
「……てか、本当に噂通りなんすか?」
「噂ってのはあれだろ? 実技試験の総当たり戦で全勝した挙句、教官役の騎士にも勝ったってやつだろ? ――全部本当だよ」
そう答えたのはこの場では最年長にあたる二十代後半の男性騎士だった。
彼は肩に掛けた手拭いで汗を乱雑にふき取りながら、興奮気味の若者たちにニヤリと笑みを向ける。
「俺の見立てじゃ、お前ら相手でも余裕で勝っちまいそうだったぜ? 見た目こそ小柄で細っこい坊主だったが、技量は群を抜いていたな」
その言葉に、若い騎士たちは揃って顔を引きつらせた。
この場に居るのは一人を除いて入団から既に三年以上は経過している騎士たちである。それが入団前の新人と比較されて負けを想像されるなど、笑い話にもならない。
「ちなみに、そいつの年齢って……」
「ああ、十二歳だ。入団試験を受けられる最年少だな」
「うわぁ……去年に引き続き、今年もそんな化け物みたいな新人が来るのかよ……」
頭を抱えたくなる事実に一人の騎士がうんざりとした様子でため息を吐く。さらに彼は隣で会話に加わらず黙々と木剣の手入れをしていた少年へ唇を尖らせながら声を掛けた。
「――おい、ガルム。お前の天下もこれまでじゃねぇか?」
その刺々しい言葉に顔を上げた少年は、十三歳という年齢にしては非常に大人びた雰囲気を纏っていた。孤児院出身である彼は昨年の入団試験で首位合格を果たした期待の新人である。あまり口数の多い方ではないが、折り目正しく振る舞う姿から騎士団内では弟分のように可愛がられている。
そんな少年ことガルムは、周囲の騎士たちの視線が自分に集中していることに居心地の悪さを感じつつも、努めて冷静に返した。
「別にオレの天下だったことなんて一度もありませんよ先輩」
「おいおい謙遜は寄せよガルムくん? 俺はお前に模擬戦で一度も勝ててないんだが?」
「……それはたまたまでしょう。オレだって一度も勝てたことのない相手は山ほど居ますよ」
「いやお前が勝てない相手って隊長クラスじゃん……平の騎士にはほぼ負けなしじゃん……」
普通にドン引きする周囲の若手騎士たちに、今度はガルムが溜息を吐く。
「……オレの話はいいです。確かその新人って今日から正式に配属でしたよね?」
「おお、そうだぞ! 首位合格者は自分で希望の騎士団を選べるわけだが、そいつは第二騎士団を希望したって話だからな!」
「エリート揃いの第一じゃなくわざわざ我が第二を選ぶあたり、そいつはうちの団長に憧れてると見た!」
「その可能性は高いな。きっと今頃、団長のところで入団挨拶でもしてるんじゃね?」
「あー団長なぁ……あの人、めちゃくちゃカッコイイし強いし超尊敬してるけど、傍に居るだけで疲れるんだよなぁ……」
「分かる」「分かるわ」「それな」
全会一致で頷き合っている騎士たち。しかし言葉とは裏腹にその表情は実に楽し気で、なんだかんだと団長が慕われているのが伝わってくる。ガルムとしては聊か面白くないのが本音だが、人間としては尊敬に値することはこの一年で十二分に理解しているので、水を差すようなことはしなかった。
そんな一歩引いた様子を見せるガルムに対して、最年長の騎士がやや不思議そうに話しかけてくる。
「……ガルム、お前はその新人のことが気にならないのか? ぶっちゃけライバル筆頭だぞ?」
その言葉に、またしても周囲の騎士たちの目が集中する。
ガルムはしばし言葉に詰まった後で、
「――まぁ、簡単には負けるつもりはありませんよ。むしろ模擬戦が楽しみです」
この人たちに「実はそいつ、女ですよ」と言ったらどういう顔をするのだろうかと。
少しだけ底意地の悪いことを考えながら、ガルムは午後の訓練開始を告げる号令を遠くで聞いた。
――同時間帯、騎士団庁舎内の廊下にて。
「いくら実力で入団したいからって、性別偽って受験すんじゃねぇよこの問題児が。おかげで手続きに余計な手間が掛かっちまったっつの」
先日、待望の第二子が生まれたばかりの第二騎士団副団長ダグラスが、隣を歩く小柄な頭を軽く小突いた。それを受けて申し訳なさそうにへらりと笑うのは、真新しい第二騎士団の制服に身を包んだ十二歳の少女である。
年齢の割には発育が良く、背も同年代に比べるとやや高い。
身体に沿う制服のラインは男のそれではなく、少なからず女性的な柔らかさとしなやかさが見て取れた。
「だって女性として受験したら、すぐにバレちゃうから……今の自分の実力をきちんと試したかったの」
この三年ですっかり長くなった艶やかな銀の髪を左側でまとめた彼女は、ダグラスを仰ぎ見ながら「面倒掛けてごめんね」と謝罪を口にした。ちなみに当日、彼女は自分の髪を黒く染めて軽い変装まで行なっていた。故に実技を受け持った試験官は誰一人として正体には気づかず、結果として彼女の目的は無事に達成された次第である。
「だからって試験官まで叩きのめすことはないだろうが……」
「そ、それは確かに反省してます。でも、別にわたしから言い出したわけじゃないし……」
ごにょごにょと決まりが悪そうにしながら、少女はダグラスから目を逸らす。言葉通り、やりすぎた自覚もあるし反省もしているのだろう。思わず苦笑を漏らしたダグラスは怒っていないことを知らせるように、今度はポンポンと軽く彼女の頭を叩くに留めた。
そうこうするうちに二人は目的地へと辿り着く。
少女は改めてざっと身だしなみをチェックすると、閉ざされた扉を二度、ノックした。
「――どうぞ」
返って来た声に導かれるように入室する。
少女は部屋の奥に備え付けられた執務机に座す人物と数歩離れた距離で立ち止まると、背筋を伸ばして直立の姿勢を取った。その背後でダグラスも控える。
すうっと、一呼吸を置き。
少女が眼前の人物へと臆することなく朗々と声を上げた。
「本日付で第二騎士団所属となりました、アルマと申します!」
「ディートハルト・アメルハウザーだ。第二騎士団の団長を務めている」
アルマの声に呼応して、鮮やかな金糸の髪とタンザナイトの瞳を持つ美丈夫が静かに立ち上がる。
そして彼はアルマのもとに近づくと、手袋を外して右手を差し出した。
「ようこそ、我が第二騎士団へ――貴女を心より歓迎します」
その言葉と柔らかく優しい眼差しにアルマは、彼と初めて出逢った日のことを思い出す。
どこか緊張した面持ちの少年を安心させたくて、力になりたくて、仲良くなりたくて。
微笑みながら彼に手を差し伸べたあの日から――きっと、すべてはこの道へと繋がっていたのかもしれない。
様々な感情を胸に抱きながら、アルマはそっと彼の手を握り返し、花が綻ぶように破顔した。
「ありがとう――なるべく待たせないように頑張るから、見守っててね」
十八歳までは、あと六年。
後に【騎士公の最愛】と称されることになる少女が自らの実力でもって騎士爵を得たのは、この日より四年後のことだった。
【了】
途中何度か連載が止まってしまったものの、無事に完結させる事が出来ました。
短編時および連載中からも評価やご感想やいいねをたくさんいただき、本当にありがとうございました! ここまで辿り着けたのは間違いなく物語を応援してくださった皆様のおかげです。
改めまして厚くお礼申し上げます。
本編はこれにて完結となりますが、後日ボーナストラック的な恋愛成分高めの後日談を予定しております(本編終了後から数年後の二人の予定です)。宜しければぜひ覗きに来ていただけると幸いです。
また、もし本作を気に入ってくださった方がおられましたら、ぜひ評価やご感想、いいねなどで応援いただけますと嬉しいです!
本当に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
また別の作品でもお目に掛かれたら幸いです。




