解離性遁走
「解離性遁走?」
私は彼の言葉を聞いても理解出来なかった。すると、そんな私に気付いた彼は解離性遁走について言葉を組み立てていく。
「人間の心は強い反面、脆くもある。抱えきれない精神的な重圧や心的外傷を受けると、防衛機能が働くんだ。脳が情報を正常に処理する事を拒んでしまう。特に負の感情は、そのまま意識に置いておくと心が壊れてしまうから、脳は記憶や感情を切り離そうとする。これが解離と呼ばれるモノだ。普段は感情、自己意識、記憶。つまりは扁桃体、前頭前野、海馬が連動している。だが、極度に心が瑕つくと、この連動機能がバラバラになってしまうんだよ…。」
【あぁ。きっとソレはゲシュタルト崩壊みたいなものなのだろう。全体像は解体され個々の働きが残る…。そうか…。心はパズルの様なモノだ。全体像が見えている時が通常なのだとしたら、意識や記憶のパズルピースが崩れてしまうと、途端にソレは【形を無くす。】
「現実から逃避する様に…。記憶を失い、別人の様に振る舞い、別の人生を歩むんだ…。」
彼は窓の外に眼を向け、その後、何も云う事も無く、部屋から出ていった。




