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短編小説ー死にたい、寂しい、辛い方へのメッセージー

クラガ

作者: 音羽 心音

1章

僕は路地をうろついていた。

いつもの日課だ。

人がいない路地を歩くのが好きだからだ

タバコのカスが落ちている

日常だ。これが日常になったのはいつからだっけ?

思い出せない。

でもいっか。


そんな毎日を日常を繰り返してた日

ある日捨てられて錆びてるゼンマイ仕掛けのガラクターを見つけた。

何故か僕は【そいつ】に引き寄せられ手に取った。


ぜんまいを回しても動かない。


…。


僕は何故か家まで持って帰ってしまった。


そして古びたパーツを磨いたり、入れ替えしながら【そいつ】が出来た。


ぜんまいを回してみた


動いた

カチコチカチコチとなりながら


【ありがとう】


どっかから声がした。キョロキョロと見渡してもどこにも人はいない。おかしい。


でも近くから声がするもしかして…






2章


【ありがとう】


【そいつ】が喋ってた。

僕は神様とか信じないたちだ。

目を擦りぱちくりとしたほっぺもひったたいた


【ありがとう】


現実だ…。

なんてこった呪いか?いや、呪いとかも信じないけどでも実際に目の前で組みたてたゼンマイ仕掛けのガラクターが喋ってる。


【僕名前ない、君の名前何】


カタコトだ。


僕はのぞむ


そう教えると


【のぞむ、のぞむ、名前、素敵】


初めて言われた気がする。名前を褒められるなんて。


【のぞむ、僕にも名前、つけ、て】


んー…

名前か、、、


クラガはどうか?


【クラガ、クラガ、僕クラガ】


何故か喜んでるように見える。

そんなに嬉しいのか?名前ごときで。


そんなこんなでクラガと僕の非日常な生活が始まった。






3章


はぁ、バイトの面接また落ちた。

まぁしょうがない。

こんな古びたカスのような服装だ。

清楚感もない、落ちるに決まってる。


服を買う余裕もない。食事も毎日1食

そう、僕は社会の厳しさも何も知らない状態で家出してきた身だ。そりゃこうなる。

今更知っても遅い。

帰る場所もない。



おかしいな…こんなはずじゃなかったのに…



【のぞむ、のぞむ、回して】


はいはい、分かりましたよ


このクラガはぜんまいをまかないと、動けないらしい。そりゃそうか。

面倒臭いと思いながらも巻いてしまう。


【のぞむ、悲しいの、?、】


なんで???


ポロッとほっぺたをつたう冷たい水みたいなものが流れ落ちた。


【のぞむ、それは何、みず?】


違う、涙だよ



【涙、なんで、涙、出る】


わかんねぇ、でも…



人は辛い時に泣くんだよ



【のぞむ、つらい?、のぞむ、の、ぜんまい、巻き巻き、する】



はぁ?こいつ何言ってんだ?

僕はゼンマイなんてついてないぞ


人にはね、ゼンマイなんてついてないんだよ君と違って


【違う、違う、のぞむ、心、ゼンマイ、回す】



意味がわからない…。



4章


僕はなんで生まれたんだろう。

毎朝うなされて同じ夢を見て起きる。


【のぞむ、どうしたの、大丈夫、?、】


あぁ


と一言だけ答えてまたバイトの面接に行く準備をする。


【のぞむ、どこ、いく、の、?、】


面接、金ねぇと生きてけないんだよこの世の中



荒んでる、この世の中は荒んでる弱者は虐げられ強者が勝つ

僕は弱者、何も持ってない。何も…。


【のぞむ、こころ、くろい、】


ははっ…そう、僕も荒んでる、僕の家も荒んでる。


【のぞむ、苦しそ、どうした、の、?、】


んー、、、ちょっと思い出してな…


5章

いつも見る夢の話をしよう。


部屋は真っ暗、常に真っ暗、父親は仕事に行かず、酒ばっかりのみ、酔っ払ったら母親や、僕を殴る。そんな中、母親は毎日家事と仕事をしていた。

でも、ある日母親が飛び降り自殺をした。


「ごめんね」


それが最後の一言、そこで目が覚める。


そうだ、僕は、父親の暴力に耐えられなくなり出ていった。


「お前のせいで、死んだんやお前が殺したんやお前がいなければ今頃母さんいたんだよ」


今でもこの言葉が足枷になっている。



母さん…なんで…僕邪魔だった?生まれて来なければ!!!!!


思わずそこにあったガラスのこっぷを投げた。


パリンという音ともに僕のどこかが割れた音がした。


【のぞむ、いたい、】


ごめん、当たったか?


【ちがう、のぞむ、こころ、いたい、苦しい、だいじょ、うぶ、?、】


ううっ…


ボロボロと涙が出てきた。限界だった。

呪いのように付きまとうこの夢と父親母親の言葉。限界だったんだ。


僕は面接に行けなかった。ひたすら1日泣いていた。


【のぞむ、のぞむ、まわして、ゼンマイ、】


ほんと空気読まねぇな…


あぁ


カチカチカチカチ


【のぞむ、ありがとう、クラガ、のぞむ、ひつよう】


なんだかこいつの言葉で救われた気がした。

こんな僕でも必要とされてるんだと。


6章


【クラガ、名前、好き、のぞむ、の、名前も、好き】


こいつは相変わらず僕の名前が好きみたいだ。


【クラガ、すてられた、動けなくなった、雨、ふって、かたまった、のぞむ、クラガ、助けた、クラガののぞみ】


のぞみ、、、か、、、

僕の由来ってなんだったけ…。


【クラガ、思う、のぞむ、拾ってくれた、希望、見えた】


そう、僕の名前はのぞむ、「望」「希」




僕は希望なんかじゃねぇーよ



【クラガ、思う、人、物、みんな、望まれて、うまれる、のぞむ、望まれた】




僕は望まれてきたのか?いや、父親には全く、母親は…母親は…


そう、父親からの暴力から僕を守ってくれてた。


【クラガ、思う、名前、のぞみ、を、いれ、て、つける】



僕の名前はなんでのぞむなんだろう。





なぁ、クラガ、僕の名前の意味は何?生まれた意味は?





【のぞむ、クラガの、のぞみ、暗闇に、ある、北極、くま】


なんだそれ…

僕は少しクスッと笑ってしまった

いつぶりだろう、笑ったの



北極星だろう?言いたいの笑


【あ、まちがえた】


ははっ





北極星かぁ…僕そうなれるかな…


【のぞむ、わらった、うれしい】


よっぽどクラガの方が希望の星だよ

僕はそう思った




7章


ある日病院から連絡が来た


父親が癌で倒れたらしい末期癌だ




なんで行かなきゃ行けないんだよ…あんな奴のために…



自業自得だろ



【のぞむ、どうしたの、?、こころ、くろい】



クソ親が倒れたんだよ、親族僕しかいなくて行かないといけねぇ


【のぞむ、その人、怖い、?、】



嫌いの間違いじゃなくてか?怖い…怖いか…



【のぞむ、あうの、こわい、】


そうだね、怖いよ。せっかく離れられたのにって思ったのにな。


そうやって僕はクラガを家に置いて父親のいる病院へ行った。



8章


嫌いなはずなのに何故か父親が好きだったリンゴを買ってきてしまった。


コンコン、水上のぞむです


「どうぞー」


看護師さんの声が聞こえた


ガラガラ


失礼します


「あら、息子さんかっこいいねー、水上さん?息子さん見えましたよ」


「あぁ」



ヨボヨボたった。色んなところに管を繋がれヨボヨボだった。当時の面影もなく弱々しい姿だった。


僕は無言でリンゴをむく。


「なぁ…」


父親が声をかけてきた


「すまないな、あんころは、今更だけどこれ渡したかったんだ」



見たくなかった怖かった


「今見てほしい、それだけが願いだ」


なんでこんな糞のために…

そんなことを思いながらも、弱々しく言う声に耐えれなくて封筒を開けた


それは母親の遺書だった




9章

のぞむへ、

守れきれなくてごめんなさい。

弱いお母さんでごめんね?

希望を持って夢を持って生き生きと生きて欲しい。そう思って産んだけど、間違ったのかな?産んでしまったからのぞむが辛い思いをしてるのかなと思っちゃったの。

全部私のせいだって、でもね、のぞむは優しい子だからみんなの希望にもなれると思うの。

お母さんはのぞむの希望にはなれなかったけど、のぞむはなれるよ、のぞむお母さんは愛してるよどこへ行っても

のぞむあなたは望んで生まれた子よ

あなたの夢を叶える姿見たかったわ

でも、逃げてしまう私を許さなくていいから、ごめんなさい。



10章


ふざけんなよ!!!


僕は泣きながら遺書を握りしめた


母さんは悪くない、悪くないんだ!望んでって産んだんなら最後まで、最後まで…



生きててよ



腹が立つ、このクソ親のせいで目の前にいる、そいつのせいで、、、


「ごめんな、それだけだ、じゃあな」


今更謝っても遅いんだよ!死ねよさっさと!


そう叫んで僕は病院から家に帰った。



11章

家に帰って数日布団の上でボーと過ごす日々が続いた。

何もやる気が起きない。

そんな時父親の死の連絡が来た。

どうでもよかったあんな親なんて親じゃない。

でも遺品整理のために呼ばれたのでしょうがなく重い腰を上げた。



遺品整理している中、アルバムを見つけた。

何となく見てみると笑ってる母親と父親と僕がいた。


頭がズキズキする。


そうだ、小学生低学年までは平穏な家族だったんだ。


なんでこんなことに…


「久しぶりだなぁのぞむ」


あ、はい


父親の同僚だった人だ


「歩のこと今でも嫌いか?」


…。


「あいつさ、がん検診で引っかかってさ、ちょうどお前が小学5年の時かな、家族に黙っとけって言われたんだよ」


初耳だった


「歩、がんが酷くなって働けなくなったんだよ首じゃなくて本当は自主退職でな。絶対家族のために治すって」



「が、ん、?」


「おう、家族思いだったよ。工具を使ってほらこの写真のこれ、父さんが使ったんだよ?」



クラガ?


一気に流れてくる

記憶が滝のように


あぁ、忘れてた父さんは優しくて強くていつも笑ってた。


クラガも、僕が高二の時に出ていった時にたまたまリュックに入ってたガラクターで作った父親の人形を見たくなくて捨てたやつだった。



父さんはなんで教えてくれなかったんだよ

なんであんな親に


きっと父さんは1人で耐えてたんだ治そう治そうって、でも転移して進行して絶望して


1度人間は荒むとなかなかもどらない


父親は僕が知らないところで戦ってたんだ。孤独に。


ごめんなさい最後の言葉があんなんでごめんなさいごめんなさい


僕は密かに泣いた


12章

家に帰りついた。

クラガ?

あ、そっか、放置してたからゼンマイが切れたのか



カチカチカチカチ


回してみるがクラガはいつものように喋らない


あれ?おかしいな油さすか


ん?動かない


クラガ?クラガ?また僕は失うのか?

いや、最初に捨てたのはクラガを捨てたのは僕だツケが回ったのだろう


「ごめん、ごめん、何度でもまくからゼンマイ、動いてよ…話してよ…」


カッカッカッ


【の、ぞむ、】


クラガ!!!


【の、ぞ、、む、ひと、は、みん、な、こころの、ゼンマイ、もってる】


うん、、、


【の、ぞ、む、く、らが、回してく、れた、ひと、ひとり、孤独、いきてけ、ない、だ、か、ら、、、、】


うん、、、


【の、、、ぞ、、む、、、、あ、り、が、、、と、、、、、、、う】


うん、、、


僕は泣きじゃくった。クラガのありがとうが最後の言葉で、それが嬉しくて悲しくもあって静かになった部屋で僕の声だけが響いて


クラガ、母さん、父さん、ありがとう…



13章

僕は今家庭を持っている。

5歳の男の子と嫁3人で暮らしている。

相変わらず工業勤務だ。

でも、発達した社会ではほとんどが機会で製品が作られてるので僕は機械の整備をしている。


「ねーねー、ぱーぱーこれなーに?」


「これはね、クラガって言うんだよ父さんの大事なお友達」


「これ、おともだちなの?」


「そうだよーほら、寝よう、もう夜遅いぞ」


「まーまーとねるー」


「はいはい笑」


僕は幸せな家庭を持った。

もしクラガがいなければずっと孤独だっただろう。

あの時クラガが言った心のゼンマイの意味もわかった。

僕らは不便なことに背中にぜんまいがついてるようなもんだ。

それを回し合うことで助け合うことで、生きていける。


「クラガ、ありがとな…」



カチッコチッ


ふと音がしたのでクラガの方へ顔を上げると

なんだか笑ってる気がした。


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