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初めてのクエスト オカマの森編

 彼らは今、町外れの森に向かっていた。

 町から森までは歩いて2時間ほどの場所にある。馬車での移動であれば、1時間もかからない。

 が、馬車に乗るお金など彼らは持ち合わせてない。それ依然に森まで乗せてくれる御者はいない。物や人を運ぶ彼らだが、危険を冒してまでやるほど馬鹿ではないのだ。


「……着いたわね、シーラの森。今はオカマの森とも言われてるらしいわよ」

「なんだそのダサい名前を付けたのは」

「はーい、私でーす」


 ギルドから今の今までレンに担がれていたユウキがしゃべりだす。

 2時間以上も運んでいたというのに、疲れている様子はない。日々鍛錬してるだけはある。


「起きてるんなら、さっさと降りろ」


 担いでいるユウキを雑に地面へ投げ捨てる。


「ちょっと! 頭にコブができちゃうじゃない。女の子はもっと優しく扱うものよ。そんなんじゃ、好きな女の子は振り向いてくれないわよ。サヤもそう思わない?」

「誰がどう見てもお前は男だろうが! それに、俺は好きな女なんていねぇ」

「二人とも早くしないと置いてっちゃうからね」


 一人先に森の中へと入っていくサヤ。

 レンとユウキも後を追うようにして、森の中へと入っていった。

 昼間だというのに、森の中は薄暗い。辺りを見渡しても、同じような景色ばかりで方向感覚がわからなくなりそうだ。

 こういった場所で、遭難しないために目印を用意することが大切になってくる。

 先頭を歩いているサヤは、自分たちが通ってきた道がわかるよう短剣で木に傷を付けている。これは冒険者なら当然知っているはず。


「サヤちゃん、さっきから何してるの?」

「こうしておくことで、帰り道がわかるの。同じ景色だと、自分がどこから来たかわからなくなるからね」

「へぇー、そうなんだ。私初めて知った」

「お前、それでよく冒険者になろうと思ったな。これくらい町の子どもでも知ってるぞ」


 異世界から来たユウキは、まだこの世界の一般常識をすべて理解していない。

 彼が知っている常識といえば。


 その1、道端でゲロを吐くと冷たい目で見られる。

 その2、公衆浴場で他人の体をジロジロ見ると、管理人に注意される。

 その3、オカマにみんな優しい。物を恵んでくれるため。

 以上三点が、彼の知っているこの世界の常識だ。


 そうこうしているうちに、森の中にある池に辿り着いた。

 情報によると、依頼対象の薬草は池の周りに多く自生しているらしい。

 形はキノコに似ているが、実際は蕾の付いた植物。

 花が咲き、その花粉を吸えば体は痺れ、蜜は一滴舐めれば死を招く。今回採取する薬草とは、使い方1つで命を奪うことができる。

 そのことを彼らは理解していない。何故このクエスト単価が高いのか、理解いただけただろうか。


「……似た植物は生えてるけど、どれも花が咲いているわね。そっちの方はどう?」

「俺の方もだめだ。右も左もキノコしかねえ。ユウキ、お前の方はあったか? ……ユウキ?」


 先程まで一緒にいたユウキの姿が見当たらない。

 二人は薬草探しを中断し、ユウキの捜索を始める。この池に来てから、三十分も経っていない。

 そう遠くまでは行っていないと考え、池の周辺から探す。

 しかし、ユウキの姿はどこにもなかった。


「あいつ、どこ行ったんだよ」

「気のせいかしら……体が思うように動かせない」

「言われてみれば、体に違和感を感じるな」


 花粉の毒が効き始めている。このままでは生きたまま、モンスターの餌食になる。

 少し前から、身を潜めて二人の様子をうかがう何かがいる。

 毒の効力が増したのか、地面に倒れこむ。


「これ、ちょっとまずくない? あたし今トイレに行きたいんだけど。でも力入らないし、我慢できないかも」

「いやそれよりも、この状態はまずいだろ。モンスターや盗賊に襲われたら一溜まりもないぞ!」


 茂みの奥から二人の方へ何かが近づいてくる。

 モンスターか盗賊か、はたまたいなくなったユウキか。どちらにせよ、この状態でどうしようもならない。

 レンは目を瞑り、神に祈りをささげる。険しい顔をして、気合いで尿意を堪えるサヤ。

 二人の方へ近づく何かが、茂みから姿を現した。

 暗がりで光る目、鋭い牙、全身を覆う黒い毛。

 この森に数多く生息している四足獣。その名はシーラウルフ。

 見たところかなり飢えている。ここ数日、餌にありつけなかったのだろう。

 倒れた二人を見つめ、品定めをしている。

 先に食らう獲物が決まったのか襲いかかる。


「……スキル、投擲!」


 どこからか飛ばされた剣が、シーラウルフの腹部を貫く。

 その一撃でシーラウルフは絶命。間一髪、二人は助かったのだ。


「……二人とも何で寝てるの? もしかして死んだふりごっこ?」


 寝そべっている二人の背後からユウキが現れた。

 普段腰に下げている剣がない。どうやら、シーラウルフをやったのはユウキのようだ。


「見りゃわかるだろ、動けねぇんだよ。つーか、今までどこにいたんだよ」

「ふーん、動けないんだ。じゃあ今何やっても抵抗できないんだよね?」

「おい、何するつもりだ! 俺の体に指一本でも触れてみろ、ぶっ殺してやるからな!」


 ニヤ付いた顔で、ゆっくりとユウキはレンに近づく。

 腰を屈め、レンのズボンに手をかける。

 ユウキの息づかいが荒い。今からやることにかなり興奮しているのだろう。


「ふざけんな! こんなところでズボン脱がせて何するつもりだ! 動けるようになったら覚えて……あっ!」


 レンのお尻に花を挿した。

 二人の状況など気にせず、未だに気合いで尿意を堪えているサヤ。

 早く彼女を介抱してやってほしい。

 お尻に挿した花を引っこ抜き、ズボンを履かせる。


「……汚された。俺もう生きていけねぇよ」

「どう、体は動かせるようになった?」

「お前人にあんなことしといて良くも……動く」


 驚きの表情を浮かべながら、レンは立ち上がった。

 ユウキはサヤにもレンのお尻に挿した花と同じ花を口に入れる。

 サヤもレン同様に体が動くようになった。

 我慢していたものを解き放つためにサヤはこの場を去った。


「薬草採取も終わったし、サヤちゃんが戻ってきたら帰りましょ! 倒したシーラウルフはレン君運んでおいて。力仕事は男の子の特権よ」

「お、おう。……ってお前も男だろ」


 シーラウルフに刺さった剣を回収し、血を振り払うと鞘にしまった。

 少しして、サヤが満面の笑みで戻ってきた。

 レンは大槍にシーラウルフをくくりつけ、ギルドに報告をするために三人は町へ戻る。


 帰る途中、レンがユウキに今回の件について色々と問い詰めた。

 話によると、麻痺を治すには蜜に含まれる毒を摂取すること。毒同士が反応して、中和されるらしい。詳しい理由について、本人も知らないとのこと。

 どこでその知識を得たかというと、ギルドに置かれている書物に記載されているそうだ。

 手に入れた依頼報酬の半分は、前日同様に飲み食いでなくなった。

ご精読ありがとうございました。

次回投稿までお待ちください。

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