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冒険者ユウキ

「キャー! 助けてー!」


 長い髪を後ろで纏めて縛っている男は、情けない声を出してスライムから逃げている。

 ここは最弱モンスターのスライムが多数生息する草原。低ランク冒険者にとって、レベル上げに最適なスポット。

 しかし、その最弱モンスターのスライムを目の前にして男は逃げ惑っている。

 その腰に下げている剣は飾りなのだろうか。


「逃げてばかりいないで、剣を抜いて攻撃しろ」


 大槍で次々とスライムを倒していく男が、逃げ回っている男に声をかける。

 大槍を持った男の体格は非常に良く、日々鍛練をしてその肉体を手に入れたのが見てとれる。

 ただ肉が付けすぎているせいか、動きが少し鈍い。


「そんなの無理! 早く助け……」


 足を滑らせ、地面を転がる。

 転倒した際に擦り傷を負い、男を追いかけ回していた十数体のスライムが男を囲んだ。

 スライムは人間を殺傷できるほどの力はない。

 しかし、体に纏わりつけば行動を抑制することができる、その状態で他のモンスターに襲われれば、抵抗することなく死を迎える。

 たとえ最弱モンスターと言えど、決して油断してはならない。

 どんな相手であろうと、殺すつもりで戦え。それがこの世界で生き残る唯一の方法だ。


「クソ、手が空いてねえってのに!」

「あたしに任せて」


 スライムの間を通り抜け、倒れた男を庇うように彼女は立つ。

 右手に持つ杖を地面に突き立て唱える。


「風の精よ、我らを悪しきものから守りたまえ。エアウォール!」


 男を囲んでいるスライムが一斉に襲い掛かるが、壁にぶつかったように弾き飛ばされる。

 エアウォール。発動者の周囲を円形の見えない風の障壁で守り、外部からの攻撃を弾き飛ばす魔法。もちろん内側から外側への攻撃は可能。


「大丈夫、怪我はしてない?」

「転んだときに、掠り傷が出来ちゃったけど平気。助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。……さあ、あのスライムを倒して帰りましょ」

「うん!」


 男はようやく、腰に下げた剣を抜いた。杖を左手に持ちかえ、彼女も短剣を引き抜いた。

 エアウォールで弾き飛ばされたスライムに斬りかかる。

 べちゃ、ぐちょ、と音を立てて次々とスライムが倒されていく。

 最後の一匹を大槍を持った男が倒した。

 三人とも武器や服に倒したスライムの破片が付着している。


「はぁ……やっと終わった。スライムってベトベトするから私倒したくないのよね」

「あたしも。まだカエルやヘビと戦う方がまし」

「悪かったな。俺のレベルが低いせいでスライムと戦うはめになってよ」

「ごめんなさい! そんなつもりで言った訳じゃないの」

「初めて戦う相手はスライムがいい、って決めたのはあたしだもん。レンのせいじゃないよ。……それに、たくさんスライムを倒してレベルも上がったと思うから、明日は違うモンスターと戦いましょ」


 大槍を持つ男、レンはこの三人の中でレベルが一番低い。

 レベルはそのものの強さを表す。

 レンのレベルは1。レベル1は一般人と同じ強さ。冒険者に成り立ての人間は基本レベル1だ。

 杖を持ち、魔法行使ができる彼女のレベルは7。

 腰に剣を下げて逃げ惑っていた男のレベルは3。

 何故彼女のレベルが以上に高いかと言うと、それは魔法が使えるから。魔法が使えるだけで5以上レベルが上がる。

 もう一人は持って生まれた才能。稀に高レベルの状態で生まれてくることがある。その原因については未だに解明されていない。


 彼女は背負っているリュックから木の容器を取り出す。

 地面に落ちているスライムの残骸を容器へと投げ込んでいく。他の二人も同様に、落ちているスライムの残骸を容器へと投げ込む。


「……ふぅ、これで最後ね。どのぐらい集まったかしら」

「容器一杯に4つ。締めて銀貨2枚ってところだな」

「あんまり稼げなかったね。もう少し倒してく?」

「俺はここで退くのが妥当だと思うぞ。疲弊した状態で戦えば、死ぬ確率も上がるからな。金よりも命が大切だ」

「あたしもレンの意見に賛成。早く帰って、体に付いたスライム落としたいし」

「確かに、ベトベトして気持ち悪いよね。うん、帰ろう!」


 スライムの残骸が入った容器に蓋をし、リュックに収納する。

 そして三人はベトベトな状態で町へ向かった。


 町に戻ると早速換金所へと向かった。

 途中すれ違う町の人たちが三人をチラチラと見ていた。

 それもそのはず、全身ベトベトのからだ。歩く度にべちゃべちゃと音がすれば、ついつい見てしまうものだ。

 換金所に着いたはいいが、出迎えてくれた受付は嫌な顔をしながら対応してくれた。

 換金の結果はレンの言った通り銀貨2枚だった。

 換金を終えると、公衆浴場で体の汚れを落とし、宿屋に向かった。


「……あー、やっぱりお風呂っていいわね。心と体を癒してくれる万能の薬みたい。生きててよかったと思えるわ。それに、レン君の逞しい体も見れたし」


 そう言って、彼はレンに向けて視線を送る。


「き、気色悪いこと言うな! 俺は男になんて興味ねぇ!」

「いちゃついているところ悪いけど、お金の振り分けを始めるわ。……二人とも自分のステータス表を出して」


 二人は彼女に言われた通り、懐からステータスが記述されている羊皮紙を取り出す。

 机の上に置かれた、三人のステータス表を彼女は確認する。

 ステータス表には何が記述されているのか、その説明についてまた別の機会に説明しよう。

 彼女が今確認しているのは今日倒したスライムの数を確認している。ステータス表には、その日倒したモンスターの名前と数が記述される。これによって、報酬の振り分けがしやすくなるのだ。ただあくまで、倒した数がわかるだけで、他のところで貢献していることも考慮しなくてはいけない。

 中には振り分けに納得がいかず、メンバー同士での争いが起きることも多々ある。

 そのためクエストで得た報酬は均等にすることが普通。

 しかし、今回はクエストを受けたわけではないため、完全歩合制となっている。


「レンは十五体の討伐ね。銀貨1枚が妥当かしら。……あたしは九体の討伐、銅貨6枚ってところね。ユウキは六体の討伐、銅貨4枚ね。二人ともこれでいいかしら?」

「サヤちゃんが決めたことなら、私はなんでもいいよ」

「問題ない。多くもらえることに越したことはない」

「決まりね。それじゃ、初戦闘を無事終えたことを祝って飲むわよ!」

「「おー!!」」


 ここにいるユウキは、あの日をきっかけに、学生の侑希から冒険者ユウキとして、仲間と共に魔王を倒すべく異世界に召喚されたのであった。

ご精読ありがとうございました。

次回投稿までお待ちください。

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