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起床、そしてさようなら

これから毎週2話ずつ投稿していきます。

 ――――それはある日突然やってきた。


 カーテンの間から差し込む光。鳥のさえずり。部屋中に鳴り響くアラーム音。

 時刻にして朝六時。

 布団からアラーム音の発生源となるスマホへと手が伸びる。

 画面に指が触れると騒がしかった部屋は静かになった。

 変わりに布と布が擦れ合う音が布団の中から聞こえてくる。

 布団の中で蠢くその正体は――――。

 髪はボサボサ。来ている服は乱れており、少し肌が露出している。

外見から察するに男性であることに間違いないだろう。

 まだ起きたばかりで意識が朦朧としているのか、彼は上体を起こしてから全く動いていない。

 この状態が約一分続いた。その後、彼は布団を畳み、服を着替え部屋を出た。

 彼が向かった先は洗面所。着ていた服を洗濯かごへ放り込む。

 そして歯ブラシを手に取り、歯磨き粉をブラシ部分に付け、歯を磨いた。顔を洗い、鏡で自分の容姿を確認する。

 表情一つ変えず、いつもやっているかのように、彼は櫛とドライヤーを持ち、鏡を見ながら身だしなみを整えた。

 納得のいく格好になると、使用した櫛とドライヤーを所定の位置に戻し、部屋へと戻っていった。

 部屋へ戻ると、机の引き出しからヘアゴムを取り出し、男性として長い髪を後ろで纏めて縛った。

 閉じていたカーテンと窓を開く。そして押し入れから掃除機を取り出して掃除を始めた。


 時刻は朝七時。

 部屋の掃除を終え、彼は朝食を摂取するためにダイニングの席に着いていた。

 テーブルの上にはパン、トマトスープ、サラダの乗った器が置かれている。とてもバランスのとれたメニューだ。

 彼は手を合わせ、


「いただきます」


 と食事が取れることに感謝し、料理を口へと運ぶ。

 料理を半分食べ終えているところで、キッチンからティーカップを二つ持った女性が、彼の元に近づいてくる。


「おはよう、侑希(ゆうき)

「おはよう、お母さん。今日もお母さんの料理は美味しいよ」

「うふふ、そう言ってくれるとお母さん嬉しいわ」


 母親は左手に持っているティーカップを侑希の前に置き、対面の席へと座った。侑希は置かれたティーカップを手に取り、一口で飲み干した。

 気付けば、机に置かれた料理は綺麗に無くなっていた。

 食器を重ねシンクへ運ぶ。


「学校は……楽しい?」

「……楽しいよ」


 母親からの唐突な質問に侑希は答える。

 だが彼の表情は楽しいとは思えないものだった。それを母親はしっかりと見ていた。

 部屋へカバンを取りに向かった。


 時刻は朝七時半。

 靴を履き、カバンを肩にかけドアノブに手を沿える。


「それじゃあお母さん。行ってきます」

「気を付けるのよ」


 ドアを開け学校に向かった侑希を母親は見送る。

 家を出る際に見せた笑顔は母親を不安にさせた。あの日の出来事をまだ引きずっているのではないかと。

 心配になり、侑希の後を追うように家を出ると、悲惨な光景を母親は目の当たりにした。

 背中から血を流し、地面に倒れている侑希の姿があった。

 いきなりのことにその場で固まる。


「…………侑希!」


 すぐに我へ返り、侑希の元へ駆け付ける。

 地面で倒れている侑希の上体を両手で抱える。呼吸は荒く、顔色も青ざめている。今もなお、背中から血は流れ続けている。

 一体何故、こんなことが起きているのか、母親は理解することができない。

 自分の腕の中で少しずつ、体温が失われていくのを感じる。


「……お……かあ……さん。……ごめ……ん……ね」


 弱々しい声で侑希は言葉を発した。

 それを見て、母親は泣き叫んだ。子供一人を守ることさえできない自分の弱さを悔やんだ。

 滲んだ視界の中、ゆっくりと目を閉じていく姿を見つめる。

 そして、侑希の体は冷たくなった。

ご精読ありがとうございました。

次回投稿までお待ちください。

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