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 鑑定屋は狭くて年季が入った建物の、二階にあった(ちなみに一階は、魔導書やポーションやマジックアイテムなど、魔法に関する様々なアイテムが売っている雑貨屋だ)。


 雑貨屋の端にある、今にも壊れそうな(底が抜けそうな)木製の階段を上ることで、その鑑定屋に行くことができる。

 階段は、どちらかというと細身の俺に乗っかられただけで、ぎしぎしと悲鳴のような軋みをあげてみせた。それどころか、俺の半分くらいしか体重がないんじゃないか、と思わせるほどに軽そうなネルにすら抗議の軋みをあげる。


 二階に上がると、壁に一切の隙間なく配置された背の高い本棚と、本の海で溺れかけている少女(?)の姿が目に入った。


「へ、へるぷみー……」


 積んであった本が崩れたのだろう。

 少女は――多分少女だと思う――本の海から右腕をこちらに向かって突き出していた。手をくいくいと動かしてアピールしている。


「あー……どうする?」

「助けてあげてください」


 呆れ顔でネルが言った。

 俺は本をできるだけ傷つけないように気をつけて近づくと、少女の手首を掴んで思い切り引っ張り上げた。魚を一本釣りしたような気分。


「た、助かった~」


 本の海から出てきたのは、一〇歳前後と思われるかわいい女の子だった。


「ありがとう、と礼を言ってやろう」


 尊大な口調で女の子が言った。


「どういたしまして」


 俺は言った。

 女の子は本の海を飛び越えると、その奥にあるロッキングチェアに、飛び乗るように腰かけた。小さな彼女にはいささか大きな椅子だった。


「そっちの男は、初めましてかな? そして、ネルとは久しぶり、か……」

「一週間前に会いましたよ」


 ネルがむっとした顔で言った。


「そうだったか」


 女の子はどうでもよさそうに言った。


「で? 何の用だ?」

「この人――」


 ネルは俺を指差して、


「レンを見てほしいんです」

「ふむ」女の子が頷く。「この……イケメンなようなそうでもないような、どことなく冴えない顔つきをした無能そうなレンという男は、お前の恋人なのか?」


 初対面だというのに、随分な言われようだ。


「違います」


 ネルはきっぱりと否定した。


「では、なんだ?」


 俺とネルの関係性を尋ねているのだ。


「さあ?」ネルは首を傾げる。「知り合い、でしょうか?」

「なぜに疑問形?」

「いや、関係性も何も、まだ知り合って間もないですからね」

「ふうん」女の子は言った。「いつ知り合ったんだ?」

「二、三時間前でしょうか?」

「ほんとに間もないんだな」


 女の子は困惑した顔で顎を撫でた。

 困惑するのも無理はない。俺だってわけがわからない。


「どんな経緯で、この無能そうな男と知り合ったんだ?」

「実はですね――」


 ネルは自らが所属していたパーティーから追い出されたこと、街中をふらふらと歩いていたときに、偶然、仰向けになって黄昏ている俺を発見したことなどを話した。


「ふうん」女の子が言った。「二人ともパーティーを追い出されたのか。面白いな」

「これっぽっちも面白くないですよっ!」


 ネルはほんの少しだけ苛立ったような、そして拗ねたような口調で言った。


「お似合いじゃないか。二人とも無能だったからパーティーを追い出されたんだろ?」

「私は――いえ、私たちは無能なんかじゃありませんっ!」

「私たち?」


 私たち、というのは、ネルと俺のことだろう。

 俺が無能であることを強く否定してくれたのは、正直嬉しかった。


「レンを見てほしいのは、彼がすごいスキルを持っているかもしれないからです」


 ネルの言葉に、女の子が興味深そうな顔をする。


「何か、根拠でもあるのか?」

「私のシックスセンスが――」


 そこで言葉を切って、じらすように溜めてから、


「――そう告げているんです」

「つまり、何の根拠もないってことだな」


 ネル渾身の決め台詞は、あっさりと聞き流された。


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