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4:

「それで……」


 ネルは俺のことを見下ろしながら、


「レンはどうしてこんなところで黄昏てたんですか?」

「あー……」


 俺は今に至るまでの経緯をネルに話した。


 姿勢は相変わらず仰向けで、一方のネルは立ったまま腕を組んで俺の話を聞いていた。だから角度的に、ネルのかわいらしい柄の下着が見えてしまう。


 これは不可抗力だ。

 俺はネルのパンツを能動的に見ているのではない。受動的に見ている――つまり、見させられているのだ!


 もう一度言う。不可抗力だ。

 俺はネルのパンツを見たいわけでは、決してない。断じてない。むしろ、女の子のパンツを見ることに対して、罪悪感を覚えてしまうほどだ。


 しかし、なぜか俺の体は金縛りにあったかのように固まったままだ。だから、ネルのパンツを見ざるを得ないのだ。これは何者かによる魔法――ではなく、俺の内に秘めた欲望による所業だろう。


 幸い(?)、ネルは自分のパンツが見られていることに気づいていないようで、


「そんなことがあったんですねー」


 同情と憐憫の混じった目で、俺のことを見てくる。


「実は私もレンと似たような境遇でしてね」

「俺と似たような境遇……?」

「ええ」


 ネルはこくりと頷くと、


「えい」


 げしっ、といきなり俺の顔を踏んづけた。

 んぎゃ!


「な、何するんだよっ!?」


 抗議の声をあげる俺に、ネルは冷めた声で、


「変態さんは女の子に顔を踏んづけられると興奮するって聞いたことがあります。どうですか? 興奮しますか?」


 そう言いながら、ぐりぐりと靴を押しつける。

 地味に痛い。


「俺は変態じゃないからっ!」


 俺が慌てて否定すると、ネルはじとっとした目つきで、


「女の子のパンツを凝視するのは、変態ではないんですか?」

「……」


 バレてた……。

 バレてたバレてたバレてた……。


「もしかして、バレてないとでも思っていたのですか?」

「うん」


 俺は素直に頷いた。


「レンってお馬鹿さんなんですね」


 呆れた顔で放たれたネルの言葉が、ぐさりと俺の心に突き刺さる。


「まあ……賢くはない、な」

「うぬぼれないのは、美徳と言えなくもないですね」


 フォローするかのような言葉を言うと、ネルは小さな手を俺に差し伸べた。その手を握って俺は起き上がる。


 立って向かい合うと、改めてネルが小柄だと感じた。年齢は俺とそう変わらないと思うが、身長は軽く一頭身は違う。


「……意外とスタイルがいいですね」


 ネルは感心したように、あるいはうらやむように感想を述べた。


「ネルもスタイルいいと思うよ」

「……皮肉ですか?」


 ネルがじっとりとした目で見つめてくる。


「いや、皮肉ではない」

「では、お世辞?」

「そう。お世辞」

「お世辞も過ぎれば皮肉になるということを、よーぉく覚えておいてくださいね」

「わかった」


 どうやら、ネルは子供っぽい体にコンプレックスを持っているらしい。


「話が逸れてしまいましたね」


 ネルは歩き出しながら、


「実はですね、私もレンと同じく、パーティーから追い出されたのです」

「へえ?」


 俺はネルと並んで歩く。

 路地を出ると、そこは大勢の人で賑わう大通りだった。


 俺がかつて所属していたパーティーのパーティーハウスから、だいぶ離れたところにある通りだ。通りの名前は覚えていない。

 随分飛ばされたんだな、と思った。ほんと、よく生きてたな、俺……。


「カフェに行きませんか?」


 言葉とは裏腹に、カフェへ行くのは決定事項のような口調だった。

 拒否権はなさそうだ。まあ、拒否するつもりはないのだが。


「ああ、いいけど」


 立ち話もなんですから、カフェにでも行ってゆっくりと話しませんか?

 そういった意図があっての、『カフェに行きませんか?』なのだと俺は推測した。確かに、立ち話もなんだな。


「でも俺、カフェで豪遊できるほどの金持ってないんだけど……」


 もともときわめて薄給かつ、パーティーを追い出され、無職となった俺に、贅沢をするような金はない。贅沢をしなくても――節約しても厳しい。


「カフェは豪遊するようなところではありませんよ?」


 やれやれ、とでも言いたげにネルは肩をすくめた。


「仕方ありませんね。特別に私が奢ってあげましょう」

「奢ってくれるのか? ありがとう」

「いえいえ」


 俺はネルに連れられて、カフェへと向かった。


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