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 …。

 ……。

 ………。

 全身が痛む。


「……ん」


 目を開けると、青く澄んだ空が視界に入ってきた。


 俺は両手両足を大きく広げた状態で、仰向けに倒れていた。

 人気のない路地。左右の建物のせいで日陰になっている。薄暗く、地面に敷かれた石畳がひんやりとして冷たい。


 どうして、俺はこんなところで倒れているんだ?

 ……ああ、そうだ……。そうだった……。思い出したぞ。


 俺はセドリックにパーティーから追放されたんだ。そして、パーティーハウスから出て行こうとしたときに、シェリーに〈空気風砲:エアー・キャノン〉をぶつけられたんだ。


 俺は弧を描くように大きく宙を舞って、やがて重力に従って落下した。地面に叩きつけられた際の衝撃で、気を失っていたのだ。

 死んでないのが、不思議なくらいだ。それに、痛みこそあるものの、目立った怪我はない。骨も折れていないし、擦り傷なんかもほとんどない。


 五体満足。

 起き上がろうとしたが、やっぱりやめた。もう少し、こうして仰向けの状態で空を眺めていたい。黄昏る。


 考えるのはこれからのこと。冒険者として、この先どうやって生計を立てていくか。……あるいは、転職するか。まあ、転職なんてできそうにないが……。


 ソロで食っていくには実力が足りなすぎる。でもパーティーに入るとして、俺を必要とするパーティーが果たして存在するのだろうか?


 パーティーにはそれぞれ役割がある。俺に担える役割って何だろう? 荷物持ち、雑用。そんなのは役割とは言えない。必要性がないのだ。


「俺に秘められた能力があればなー……」


 右手を太陽にかざしながら、俺はぽつりと呟いた。


 もしかしたら、俺には自分でも把握できていない、秘められた特別な能力があるのかもしれない――。

 昔からよく考えていたこと。


 そんなことはあり得ない。俺は凡人だ。……いや、凡人以下だ。わかってる。そんなことはわかってる。わかってるんだ!

 これは現実逃避。

 現実を直視しないことで、精神を保っているのだ。


「あー……これからどうしよう……」


 相手がいないので、独り言になる。


「俺を受け入れてくれる、いい感じのパーティーないかなー……」


 答えは『ない』。

 ならば――。


「自分でパーティーを作るしかない、か……」


 だが、パーティーを作ったとして、入ってくれる人が果たしているのだろうか? 

 世界は広いから、俺のパーティーに入ってもいいよって言ってくれる物好きなやつもいるはずだ……多分……。


 そんなことを考えていると――。


「あのー」


 少女の声が聞こえた。


 声の方向に目を向ける。

 人気のない路地の入口にたたずむ、紫髪の少女と目が合った。


 その子は大きなとんがり帽子をかぶっていて、フリルのついた紫色のワンピースを着ている。まるで魔女のような格好だが、背が小さく妖艶さに欠けるので、魔女のコスプレをしている女の子にしか見えない。


「……ん?」

「そんなところで何してるんですか?」


 それは嘲りなどではなく、純粋な――そして素朴な――質問だった。


「え? ああ……」


 なんと言おうか悩んだ。

 悩んだ末(三秒ほど)に、


「ちょっと黄昏てたんだ」


 と、言った。

 嘘ではない。事実を一部省略してはいるが。


 俺の回答に、魔女っ子はきょとんとした後、くすくすとおかしそうに笑った。何がおかしいんだろう?


「面白い人ですね、あなた」


 少女は俺のもとへ近づいてきて、言った。


「私はネルと言います。あなたは?」

「レン」


 仰向けのまま、俺は名乗った。


「よろしくです、レン」

「……ああ、よろしく」


 これがネルとの出会いであり、俺の新たなる人生の始まりでもあった――。


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