* 40話 * 大衆 *
「キャスト――金界『銀融矢刃』」
ライズの宣唱により、ゴツい装飾を施された銀の矢が宙に出現し、シーカーへと襲いかかる。
その様に、大量の悲鳴がうねるように沸き起こった。
ライズ領・領主館――その裏庭の中央に作られた、円形の闘技場。
その周囲に、波濤のように大勢の領民たちが押し寄せ、ライズとシーカーの戦闘を見守っていた。
酒場の仲間たちへの指示――民衆を領主館に集めろ。
普通ならば相当な難題。
だが、ここ数週、魔族たちを殺し続け、街に平和をもたらしてくれたガラクラ酒場のメンバーが扇動することにより――民衆達は動いた。
煽り文句はシンプル――”魔族の次は、ライズを討つ”
ライズがその領主の座を降りることを願ってやまなかった民衆が、こぞって集結。
ライズの首を獲るガラクラ酒場のメンバーを見るために。
そして今、ライズの強烈な魔法がシーカーに浴びせられ、民衆が恐怖に息を呑んだとき――そこに、颯爽と現れる女の影。
「キャスト――花界『鞭叫花』」
荊の鞭が驚くべき速度で銀の矢を弾き飛ばし、シーカーを守った。
カヴンの登場。
民衆がどっと沸いた。
カヴンの存在は、この領地に魔族への抵抗力をもたらした女として、すでに知れ渡っている。
俺とバンビは闘技場の隅に移動しつつ、その様子を見ていた。
いつでも援護できるように。
そして、いつでも魔眼の使い手が現れてもいいように。
「舞台は整ってるみたいね」
カヴンの一言。
歓声が会場中から上がり、場のボルテージががんがん上がっていく。
「ったく、領民どもを集めて、俺の首をとろうってか? そんなことしなくても、お前ならいつでも嫁入り大歓迎だぜ、カヴン=デフラワー?」
ライズの気楽な声かけ。
カヴンはやわらかく微笑んだ。肯定ではなく、一笑に付す、というニュアンスをこめて。
「シーカー、大丈夫?」
カヴンはライズに目を向けたまま、背後の仲間へと声をかけた。
シーカーは満身創痍ながらも気丈な態度で「問題ない」とだけ答えた。
「そいつには優秀な護衛を3人も殺されちまったからな。流石に許しはできねぇぜ。どいてくれ、カヴン」
「どうしてそう、あなたの命令をあたしが聞き入れる前提で言ってくるのか疑問ね」
「はっ。別に聞き入れられなければ、聞き入れさせるだけの話だからな」
ライズが拳をぱきぱきと鳴らしながら、にやりと笑った。
「カヴンさん、大丈夫でしょうか? シーカーさんももう動けなさそうですし……」
バンビが闘技場を凝視しながら、不安げにそう言ってくる。
「魅了をかければその時点でカヴンのイージーウィンだ。だからこそ、俺たちが警戒すべきは遠距離からの狙撃や妨害。神経を研ぎ澄ませよ、バンビ」
「そうですけど……」
「大した自信ね。もうルリジサはいない。護衛もいない。あなた1人だけなのに」
「俺が、俺の最大の護衛だ。強さを持たずして、領主は務まらねえ」
そう言って、ライズがごそごそと懐に手を突っ込んだ。
「ま、お前のやり口はある程度分かってるからな。こいつを使わせてもらう。馴染みの商人からの土産だ」
そこで、ライズが懐から、光り輝く何かを手にした。
バンビが目を見開いた。
「俺は強さに対して手段を選ばねぇクチだ。来いよ――カヴン」
好戦的な笑みとともに、宣唱した。
少し前に感じた覚えのある、禍々しい魔力が溢れ出る。
「キャスト――結晶溶解『強化鍛認』」
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