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* 35話 * 突然 *

本日更新②





「――!」


 酒場の入口に、3人の男が厳然と立っていた。

 3人とも鍛え上げられた身体を鎧装甲に包んでおり、顔のいかつさも相まって相当な圧を放つ容貌だった。



「この酒場に違法旅客が複数滞在していると聞いている!」


 先頭の男が、隣の領地まで響かせたいのかと思うくらいによく通る鋭い声で言い放った。


 緊張が場を埋め尽くす。



「……ライズの私兵か?」


 俺は伝話(ベースバンド)でカヴンとバンビに話しかけた。


『たぶんそうね。適当な理由をつけて、あたしたちを連行して隔離する気でしょ』



「倒していいと思うか?」



『倒したら、間違いなくでかい報復が来るはず。それならもう、すぐにでもライズのところに殴り込んで殺すくらいの気持ちでいないといけない』



『カヴンさんが蠱惑して、帰ってもらうのは?』



『あの鎧、変な魔力放ってるし……たぶん防呪の加護があるやつだと思う。少なくともあの鎧を壊すところまではやってもらわないと――』




「聞こえなかったか? 違法旅客を出せと言っている!」


 声で酒瓶が割れるかの挑戦でもしているかのような声量。



 俺はうんざりしつつ、絶ち上がって真っ向から返答した。


「建前はいいよ。ライズの手下だろ? 俺らに文句があるなら直接言いに来いってライズに言っとけ」



「何だと? 貴様、名を名乗れ!」



「使いっ走りに名乗る名は無いね」



 わざとらしいまでの挑発。

 その間に、伝話でバンビに指示を出す。


 こういうがちがちの兵隊は、基本的に領主に心酔し、敬愛し、自分の心の柱にしているものだ。

 だからそこをつけば、すぐに怒らせられる。



「魔族が幅を利かせて俺らが弱ってるときは自分でここに乗り込んで来て大物アピールするくせに、こっちが乗りに乗ってる時はビビってパシリを寄越すだけ。恥ずかしい野郎だね、ライズってやつは」



 そして、こいつらは、怒りの表出を呪文よりも拳で果たしたいタイプに見える。



「貴様――ライズ様の名をその汚れた口で語るな!」


 案の定、兵士たちは剣を抜き、こちらへと歩み寄って来た。


 こっちに近づいてきてくれれば――バンビの呪文の射程に入る。



「バンビ!」



「キャスト――木界『芽依令(オーダーシード)』」


 俺の合図とともに、バンビが宣唱した。


 兵士達の鎧の内側から、木の芽が生えたかと思うと、鎧をぶち壊しながら生長した。

 この手の鎧は大抵、内側が脆い。



 そして、鎧がなければ、カヴンの独壇場だ。



「キャスト――花界『蠱惑(チャーム)』」


 

 芳香が兵士達に放たれ、兵士達の身体から力が抜ける。



「とりあえず――今日はお帰り願おうかな」



 カヴンの言葉と共に、さっきまでの剣幕が嘘のように、兵士達が帰って行く。


 とりあえず、無傷で帰したことで、向こうも報復という形は取りづらいだろう。



 だが、すぐにまた別の兵士が送り込まれてくるのは想像に難くない。

 いつまでもそんなラリーを続けててもしょうがない。



 俺はカヴンに目配せした。


 カヴンが無言で頷き、皆を見渡せるよう、椅子の上に立った。



「皆。今ので分かったと思う。もう、ライズはかなり追い詰められてる。ライズを領主の座から引きずり下ろすには――今が最高のチャンス」



 カヴンの宣言に、酒場が再び沸いた。

 このときを待っていた、というような高揚。




――だが、そこで俺とバンビとカヴンの3人へ、伝話が入った。


 予想外の人物。



()()()()。どうしました?」



 突然の依頼主からの伝話に驚きつつ応答。



『ライズ領にいるのかな? すまないね、オニキスにもこれから会いに行くんだけど、現場にいる君らに先に伝えた方が良いかなと思って』



 その口調から、言いづらいことを言おうとしているのが分かる。



「どうしました?」


 そう問うほかはなかった。



 ハイン卿はひと呼吸の間をおき、



()()()()()()()()()()()()()()()()。もう裏王都に帰ってもらって構わない』




お読みいただきありがとうございます◎

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