* 34話 * 一転攻勢 *
本日更新①
グリゴレを倒し、残った雑魚魔族を手分けして焼きつくし終えたところで、シーカーが俺に頭を下げてきた。
「すまない、私情に任せて統率を乱した」
俺は首を振り、全く責める気がないことを示した。
「私情の中でも、とびっきりの1番大事なやつだもんな。しょうがないよ。ちゃんとグリゴレは殺せたから、結果オーライだ」
「なんかあたしも思わず柄にもないこと言っちゃった。恥ずかしいね」
カヴンもそう言って笑った。
「俺の妹――リンデは、18歳のときにあいつに食われた。俺の故郷も帝国の近くで、治安の悪い領地だったんだ」
「……」
「魔族殺しの訓練のためにここに来たら、まさか本命の魔族がここにいるとはな。世界は狭いな。あいつを殺してくれて、ありがとう、アスト」
「位階9の魔族相手じゃ、手段は選んでられなかった。俺の手で終わらせてしまって、悪かった」
シーカーが何か言おうとするのを、カヴンが遮った。
「だから言ったでしょ、シーカーの復讐はチームで果たしたの。あたしたちは一心同体と運命共同体なんだから、謝る必要はナシ」
カヴンの言葉に、シーカーは緊張が途切れたように柔らかく笑った。
「俺の復讐は終わった。やるべきことを終えて、急に視界が広がった気がする。あとは、この領地のために貢献するよ」
俺は内心ほっとしつつ、頷いた。
強大な目的を果たした後、抜け殻になったように気力をなくす人々を何人も見てきたから。
シーカーは心配ない。
カヴンも同じことを感じたようで、俺に目配せした後、残りのメンバーに向けて快活な笑みを向けた。
「みんな、お疲れさま。ここが間違いなくチャンスだよ。一気に魔族を叩いて、人間族の攻勢ムードをぶち上げていくから!」
***
そこから、カヴンの言葉通り、一気に俺たちの進撃が始まった。
グリゴレによって強化されていた下位魔族はその後ろ盾を失い、俺ら人間族を避けてくるようになった。
中にはオクターヴ帝国へと帰る道を選んだものもいるようで、西への街道ではよく下位魔族が列を作っているのが目撃された。
名のある魔族(もちろん悪名、だ)たちは、酒場の連中で3,4人のチームを組んでガンガン討伐していった。
東の泉を汚す屑魔――ギル・5・ハーモニクス
果樹園を荒らして遊ぶ妖魔――キップ・7・セーハ
鉱山地帯へ続く道に住み着く石魔――ジレン・8・マズルカ
街に訪れては人間達を恫喝してまわる火魔――ギギ・8・マーチ
人間族たちに実害を与えていた魔族から順番に、こちらから攻め入って殺していった。
位階7以上の相手には俺とカヴンも同行し、危なげなく討伐していった。
魔族側もこれまで大した反撃をされてこなかったこともあり、例外なく皆油断や隙が生まれ、そこを衝いていけば良いだけの仕事だった。
街に流れていた不気味な音楽はいつしか止まり、街のムードが徐々に明るくなっていく様子は、眺めていて面白いムーブメントだった。
経済的にも、魔族のせいでストップしていた各事業が再開され、店に並ぶ品物もバリエーション豊かになっていった。
ガラクラ酒場の連中は、ある意味英雄視されるようになっていった。
それまでは「なんか強いけどおっかない集団」だったのが、「なんか強くて魔族を追い払ってくれた集団」という認識になり、酒場には小口ながら寄付が集まるほどだった。
**
殺す魔族のリストの中でもだいぶ下の方に記載されていた、西の湿原の水魔を殺し終えて酒場に戻ると、そこはメンバー勢揃いでの大宴会状態だった。
「アストの旦那、お疲れ様です。飲みましょうや」
太眉の男が俺に麦酒瓶を渡してきたので、ありがたく受け取った。
「盛況だな」
「もう領内にいる魔族はほとんど殺し尽くしましたからなぁ。ライズ領は魔族がうろついてる領地なんかじゃない、人間族が魔族どもを追い出した領地へと変わったんです。あんたたちのおかげでね」
「みんなの頑張りのおかげよ」「ですです」
横からカヴンとバンビが入ってきて乾杯。
太眉の男はカヴンとバンビにもしきりに礼を行った後、酒を追加しにカウンターへと向かっていった。
「いいムードだね。ここまですんなり上手くいくとは思わなかった」
カヴンがそう言うのへ、俺は声を潜めて、
「ぶっちゃけ、もう俺らでライズを殺しに行って良いタイミングだと思う」
「あたしも同意見だよ。もう膿は出きったし、あとはライズとその腹心の魔族を殺してしまえば、あたしらの使用主――ハイン卿に領主としての権利を渡せる。この状況なら誰も文句言わない」
「ただ、オニキスに伝話してるんだが、繋がらないんだよな」
「取り込み中なのかもねぇ。まあ、なんにせよ、そろそろ大詰めってところだね」
「……けど、こんなに人間族側が快進撃を続けてたら、向こうも黙ってないんじゃないでしょうか? 王家が関わってるとしたら、魔族との連絡の拠点を失うことになるわけですし」
バンビの冷静な指摘に、俺とカヴンは頷いた。
「さすがバンビちゃん、よく分かってるじゃん。そろそろ、魔族サイドからライズ側にクレームが入ってる頃。もしかしたら、ライズを飛び越して王宮に直接文句言ってるかもしれない。だからこそ、向こうも何か手を打ってくるはず――」
「――!」
カヴンの発言を裏付けるかのように、酒場の扉が派手な音を立てて蹴破られた。
酒場の喧噪が一気に引き、水を打ったような静寂が場に降りた。
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