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* 32話 * 女湯談話 *

本日更新②

アストがいないので3人称です◎




 ライズ領の中央よりやや北にある、なだらかな小山の上。

 その頂上に生息する泉妖精(スプリングファー)たちの沸かす温泉がいくつかの支流に分かれ、そこに温泉街が形成されている。


 その頂上――剣や鎧よりも高い入湯料を払った者だけが入ることの出来る、秘湯・リカーの湯。



 バンビとカヴンは、先客もおらずほぼ貸し切り状態の女湯へと2人で入っていった。



「カヴンさん……分かってはいましたけど、やっぱり……豊かですね」



 掛け湯を済ませ、ひとまず1番広い浴槽へと2人で入ったところで、バンビがまじまじとカヴンの胸元を見つめながらそうこぼした。



「傷より先にそっちに言及されるの、初めてのパターンかも」



 そう言ってカヴンは笑った。

 カヴンの背には痛々しい傷跡が、左肩から右の臀部に向けて、斜めに刻まれていた。



「傷はそんなに目に留まらないというか……わたしも、変な模様みたいなのありますし」



 そういうバンビの腰には、確かに色鮮やかなオレンジの幾何学模様が刻まれている。



「豊かさは、ないので。お姉様とかはわりとふくよかで健康的に育ってらしたんですけど」



「十分素敵よ、バンビちゃん――ふふ。結局女2人で普通に女湯入る展開になっちゃったけど、ま、これも悪くはないわね。休息はなによりの戦術、ってやつ」



 そう、わざわざアストと3人で山を登り、リカーの湯まで来たはいいものの、ライズは王都へ出張で昨日から来ていないという事実が発覚したのみだった。

 

 カヴンが魅了を駆使して聞き出した情報――”ライズ様の風呂好きは生粋で、領内にいる間は本当に毎日のように来てくださるんです”。



 タイミングを逃しての無駄足ということで、アストは若干萎えた様子でさっさと帰ろうという空気を出していたが、カヴンとバンビの「せっかくだから温泉入りたい」という主張に圧されて、今に至るというわけだ。




「あ、サウナもあるんだ。ちょっと数セットまわしてくるわ。一緒にやる?」


 カヴンがおもむろにそう言って、立ち上がった。



「サウナは苦手で……。わたしのことは気にせず、どうぞ。わたしは露天の方に行ってみます」



 バンビはそう言って、露天風呂へと出た。

 先客はいないと思っていたが、広い露天風呂の中央にぽつり、と1人の女性が座している。


 白濁色の湯に溶け入りそうな、白い肌の麗人だった。


 バンビは軽く会釈をして湯に入り、石の縁にちょこんと座った。



 なんとなく見つめていると、ふと、その女性に見覚えがあるような気がして、思わず声をかけてしまう。



「あの……どこかでお会いしたことありますか?」



 麗人は少し驚いた風に首をかしげたが、やがてにっこりと微笑んで、


「人違いだと思うよ。あんたみたいな可愛らしいお嬢さんを見たら、流石に忘れないと思うし」



 綺麗に澄んだ声でそんなことを言われ、バンビはびっくりしながら手を振って「可愛いだなんてそんな」と返した。

 思わず手で水面を打ってしまい、飛沫が顔にかかる。



「ふふ。面白い子だね。地元のひと?」



「あ、いえ、旅人です。バンビといいます」



 麗人は美しいながらも親しみのもてる柔らかな笑みで、


「あたしは()()()。同じく、旅人だよ。まだ来て2日目……だけど、もう今日にでも帰る」



「え、どうしてですか?」



「……可愛いバンビちゃんに忠告しとくけど、この領、ヤバいよ」



 2人しかいないのに、わざわざひそひそ声。

 バンビはテレサに近寄り、耳を傾けた。



「ヤバい……というと?」



「あたし、この温泉目当てでわざわざこんな西の端の領地まできたんだけどさ、ここの山の頂上でなんと! 魔族に遭遇しちゃったんだ」



「ま、魔族に……」



 もう自分は何回も遭遇してるけど……と思いつつも、バンビはテレサの話を真剣に聞いていた。

 集められる情報は、取りこぼさずに拾っていきたい。


 アストの役に立つために。



「で、その魔族がグリゴレって名乗ってた。()()()()・9・セレナーデって。魔族って、ほんとに戦うとき名乗るんだね」



 バンビは驚愕が顔に出ないように必死に抑えつつも、「ええ!?」とがっつり驚きの声を上げてしまう。


 グリゴレ――いま、最もその居場所を知りたい魔族。


 だがテレサはバンビの驚きを不自然とも思わない様子で、



「びっくりでしょ。位階9の魔族がふつうにいるなんて、まともじゃないよ、この領地。なんとか逃げ切れたけど、次会ったら食われちゃうと思う。なんか手下の低位魔族もいっぱいいたっぽいし」


 テレサの言葉を聞き漏らさないよう、バンビは頷きながら必死にテレサの言葉を反芻していた。



「もうちょっと長居したかったけど、もう温泉も堪能できたし、あたしは王都に帰るわ。バンビちゃんも、早めに帰った方が良いよ?」



「そ、そうですね……」


 

 真剣な面持ちのバンビを訝るように、テレサがその澄んだ瞳で覗き込むように見つめながら、



「あ、ごめん、怖がらせちゃった?」



「い、いえ。とんでもないです。忠告、ありがとうございました!」 


 バンビがかぶりを振ると、テレサはにっこり笑って、



「ふふ……可愛いなあ。じゃ、そろそろ上がろうかな。またどこか旅先で会えると良いね、バンビちゃん」



「ええ、ぜひ。またお会いしましょう、テレサさん!」



 バンビははやる気持ちを抑えつつ、テレサを見送った。



――すぐに、アストとカヴンに知らせなければ。




  ***




『――さ、情報は流したよ。これでグリゴレがさっさと潰されちゃえば、さすがにルリシザも表に出てくるでしょ』


 麗人――テレサ・11・リュートは、伝話(ベースバンド)でそう語りかけた。



『ルリシザとの戦闘になれば、間違いなく魔腕は使うね。で、間違いなく消耗する。いくら破片持ちでも、位階11相手にストレート勝ちはありえないし。そのあとシズルと戦う魔力なんて、ちょびっとしか残ってないと思うよ』




最後までお読みいただきありがとうございます!

ブクマや感想などお待ちしております◎

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