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* 31話 * リカーの湯 *

本日更新分①




 しばらくして、サレガが意識を取り戻した。


「……? アスト……?」



 自分がなぜここにいるのか分からない、という表情でぽかんと俺たちを見つめ、首をかしげる。


 操作されている、という気配はは完全に消えていた。



「ここ数十分の記憶はあるか、サレガ?」


 俺の問いに、サレガは呆然とした表情のまま、



「急に目の前が真っ白になって――気づいたら今、って感じだった。もしかして――私、何か粗相した? 酒はそんなに飲んでないと思うんだけど……」



 俺たち3人は顔を見合わせ、やがて代表するようにカヴンが言った。



「ちょっと悪酔いしてたのかもね。ホテル、戻れる?」



「近くだから大丈夫。ごめん、なんか全然頭が働かないや。なんかすごい疲れてるし」




 俺たちはサレガを見送り、ホテルへと戻った。

 俺の部屋に集合して、今後について話し合う流れに。



「とりあえず、電伝抗遮(ジャミングラフ)を使えば操作は解除できそうだが――厄介だな」



「さすがに、サレガちゃんがまた操作されるようなことはないと思うけど……警戒だけはしとかないとね。他の人間族も、いつ襲ってくるか分からない」



「ああ。食われてるパターンと、魔眼で操られてるパターン、両方の警戒がいる」


 

 バンビがひぇぇと情けない声を漏らす。



「バンビ、お前は人間族から攻撃されたとき、必ず魔眼による操作を警戒しろ。魔眼で操られる場合、敵は呪文も使える。危険度が高い方を想定して、呪文戦に備えろ」



「わ、分かりました。常に襲われるかもって思っとかないといけないですよね……」



「あたしは蠱惑魔(アゲハ)を使えば判別できるけど、バンビちゃんはそうはいかないもんねぇ。電伝抗遮(ジャミングラフ)なんて高度な呪文はあたしも使えないから、アストくんしか解除はできないし」



「ああ、人間族が敵の駒にされるのは、ぶっちゃけかなり面倒くさい。だからこそ――さっさと依頼を完遂して、身軽になった状態になっときたいんだよな」



 そこから、魔族との抗争へと議題が変わる。



「グリゴレを探して潰す、ってのは変わらず最優先だと思うんだけど――ぶっちゃけ、ライズに訊けるならそれが1番早いでしょ」



 カヴンの発言に、俺はため息をつきながら、


「そりゃそうだけど、現実的じゃないな。あいつは人間族優位な状況を崩すためにグリゴレを招いたんだし、仮にライズに会えたとしても、居場所は教えないだろうさ」



「けどそこはあたし、誘い屋の腕の見せ所でしょ。酒場にいきなり現れたときは面食らってチャンスを逃したけど、次はちゃんと魅了かけられると思う」



「――あのお付きの魔族はどうする。ルリジサとかいう、女の顔した魔族。あいつがいる限り、ライズに魅了かけるなんて無理だろ。怪しい動きしたら一発で殺しに来るぜ」



 ルリジサへの警戒度を、俺は相当高く見積もっていた。

 同じ場に数分いただけだが、あの気配はその辺の中上級魔族とは格が違った。


 おそらく、カヴンでは勝てない。



「それに、そもそもライズと会う方法も考えないといけないしな。正直、別のやり方を模索した方が良さそうに思えるけど」



 俺が意見を述べると、そこでバンビが思い出したようにぴんと人差し指を立てて、



「あれ、でもそういえば、言ってませんでした? あのライズさんって人、リカーの湯に来ればいつでも会えるぜ、って」



 カヴンがぱちんと指を鳴らしてバンビを指さした。



「そ。バンビちゃん、ビンゴ。そう、温泉だったらライズも1人でしょ? 少なくともあの女魔族はいない。だったらあたしが温泉に入って、根掘り葉掘り聞いてきてあげるよ」


 俺は何故カヴンが「グッドアイディアでましたぜ」みたいなノリなのか理解できず、問い質した。



「いや、おかしいだろ。どうやってあんたが男湯に入るんだよ」


 

 カヴンの回答はシンプルで、



「あれ、知らない? あたし、変身の呪文使えるんだ。男の子に変身して、男湯に入る。完璧でしょ?」



 変身の呪文――仮装通過(ハロウィン)

 非戦闘系の呪文でも群を抜いて難易度の高い呪文である。

 

 幽体がベースで、実体を適当に再現しているだけの魔族ならともかく、自分の肉体を変容させて別物になり、更にそれを維持するという高等技術。



 俺は素直に驚きを表明した。



「マジすか」



「立場がスキルをつくる、ってやつね。誘い屋やってるとどうしてもこの呪文が必要になってくるからね」




 ライズが本当に言葉通りリカーの湯にいるかどうかは賭けだが、試す価値はある。




お読みいただきありがとうございます!

つぎは本日20時~21時ごろに更新予定です◎

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