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* 26話 * やれば殺れる *





「あんたたちの実力は分かった。魔族の殺し方も知っているな」



 魔族を一発KOしたことに沸く客たちをよそに、シーカーがぼそりと呟いた。


 魔力の感じからなかなか優秀な使い手だと推定していたので、シーカーの不遜ともとれる上からの言い方は、そこまで俺は気にならない。



「組む気になってくれたか?」



「組むのは歓迎だ。おれも、1人で魔族を殺すのには限界があると思っていたところだった」



「魔族を殺した経験は?」



「この中じゃ1番多いと思うが」



「頼もしいな。よろしく、シーカー」



 俺とシーカーはがっちりと握手を交わした。

 おそらくこの酒場の常連の中で最も尊敬を集めているであろう男と、魔族を一撃で消し飛ばした男との固い握手――俺たちの同名を象徴するには十分だった。



 カヴンが手近な椅子に腰かけながら、客たちに向けて問いかけた。


「早速だけど、今のライズ領の状況を簡潔に教えてもらっていい? いつ頃から魔族が跋扈するようになったのか」



 シーカーも転がっていた椅子を立たせ、ゆっくりとそこに座った。


 その所作から、座りながらも常に周囲への警戒を怠らないスタンスが伝わってくる。

 裏で生きてきた人間の匂い。



「領主に入量を認められているのをいいことに、魔族は好き勝手やってる。ライズの魔族に対するスタンスは、”好きなだけ暴れて良い。その代わり、好きなだけ反撃されろ”」



「人間族と魔族を小競り合わせたいってこと? なんとなくそういう趣味だとは聞いてたけど……」



「豪放磊落が悪い方向に振り切れたような男だからな」



 シーカーは吐き捨てるようにそう言った。

 それだけで、領主に対する敵愾心を感じ取れる。



「魔族が入ってきてからは、好き勝手に暴れやがる。食われた人間族も1人や2人じゃない。何より、あの”音楽”ってやつが最悪だ。あんな不気味な音を垂れ流されたら、誰もこの街に寄りつかなくなるよ」



 店主のおっさんが嘆くように言った。



「宿屋のボーイさんも、お客さん全然来ないって言ってました」



 バンビがそう言うと、店主は深くため息をついた。



「街の中は、音楽が鬱陶しいのはあるが、それでもまだマシだ。一応、こいつら腕自慢の連中がにらみを利かせてる。シーカーもいるしな。そこまでおおっぴらには暴れてない」



 シーカーは自分の名を呼ばれても特に反応せず、落ち着いた表情で店主の話を聞いている。



「だが、南からの街道なんかは最悪だ。通ってまともな姿で帰ってこれる確率は五分五分、ってところだ」



「そこにいるのか」



「そう、でかくてうすのろの悪鬼(エティン)が居座ってる。観光客は西からがメインだが、商業系のルートは南の広い街道を使ってきた。だがあの悪鬼が来てからは南は使えない。物流は大きく阻害されて、仕入れもままならない」



 店主の嘆息に、俺は納得しつつ頷いた。

 テーブルの上に投げ出されたメニュー表には、”現在オーダー不可”の文字とともにたくさんの×印がつけられている。



 俺は顔を上げると、ざっくりと言った。



「その悪鬼、殺そう。景気づけにはちょうど良いだろ。何なら今から行こう」



「今から? おいおい、夜は魔族の時間だ、さすがに無謀だぜ、旦那」



 客の1人が呆れたようにそう言った。

 他の客も、程度の差こそあれ、「そんな無茶な」という感じのリアクション。


 シーカーも少し困惑した様子で、


「悪鬼は馬鹿だが、魔力量のデカさは侮れない。おそらく位階6か7はある。インプとは話が違うぞ」



「問題ない。位階7以下なら、お前達が3人以上でチームアップすれば問題なく倒せる。今まではそれをしてこなかっただけだ」



「そゆこと。ま、全員でぞろぞろ行くのもあれだから、希望者だけでいいよ」



 俺とカヴンの淀みない誘いに、客達はあからさまに動揺していた。

 もちろん、あえて動揺するように言い方を調整している。


 おそらく、場の流れとしては膠着、困惑といったところだろうが、ここで1人、空気を変える発言をしてくれれば一気に潮目が変わる。




「私、行きたいな。強い魔族と人間族が戦うところは、まだどの国でも見たことがないから」


 はたして、俺の狙い通り、バックパッカーのサレガが、場の空気を無視してそう発言した。




「OK。サレガ、行こう」



「おれも行く。偉そうな口叩いた以上、デモンストレーションは必要だろう。ついてくる奴らの護衛を任せて良いなら、特に反対する理由はない」



 シーカーが滑らかな口調で言った。


 そこで流れが変わり、何人かが「俺も」と手を挙げた。



「オッケー。それじゃ、行きましょうか」



 ぱんぱん、とカヴンが手を叩き、参加者を締め切った。



「さっきも言ったとおり、ライズの失脚をあたしたちは狙ってる。けど、ライズに直接向かっていったとして、ライズから恩恵を受けてる魔族達の妨害に遭うのは必至。だからこそ、人間族の力をがつんと見せつけときたいんだよね」



 カヴンが、全員に聞こえる音量ながら、少し潜めたような声で言った。

 連帯感を高める口調。



 俺もその後を継いで、低い声で言った。


「まずは、あんたたちに魔族を倒せるってイメージをきちんと持ってもらう。それができたら、その後道端ででかい顔してる魔族とエンカウントしたとき、一発ぶちかましてやれるようになる。それを繰り返していけば、この街の情勢は変わる。ライズにも手が届くようになる」



 にっこり笑い、立ち上がって、壊れた酒場の扉の前まで歩き、外を指さす。



「ってことで、早速潰しに行こう」




  ***



 中心街から広い平原を貫いて南方へと通じる街道。

 その途中の岩場に、そいつはいた。



「珍しいぃなぁ、こんだけ大勢の人間族って。死に場所、こんなところでいいのか?」


 岩の1つに見えなくもない、隆々と角張った土色の身体。

 禍々しいカーブを描く、2本の角。

 鼻が大きく膨らんだ、醜い相貌。


 醜い顔とはマッチしない、訛りはあるもののはきはきとした喋り方。



「名はケンゴー・6・ディストーション。種族は魔族、位階は6、属するは悪鬼(エティン)、石界の一族。ここぁオレの縄張りだ、全員殺す」



 悪鬼の足元には無数の白い物体が積み上がっている。

 少し目を凝らすと、それが人骨であることが分かった。




「予定通り。シーカー、サレガと一緒にやってみてくれ」



「大丈夫、ヤバかったらサポートするよ」



 俺とカヴンがそう声をかけると、サレガは緊張した面持ちながらも元気よく「了解!」と叫び、飛び出した。


「キャスト! 土界『泥暴(マッドマッド)』」



 サレガの宣唱とともに、泥の弾丸が無数にケンゴーへと襲いかかった。

 だが、全てケンゴーに到達する前に制止し、見えない壁に弾かれる。



「ま、セオリー通り、守護の呪文は張ってるわな」



 俺の呟きに、着いてきた酒場の常連達が不安の声を漏らす。


「大丈夫か、サレガちゃん……」



 だが、当のサレガの表情は、むしろ緊張が抜け、精悍さを帯びている。



「2人だけでいいのかぁ? 全員で来いよ! キャスト――石術『一弔一石(シングルアーミー)』」



 ケンゴーの宣唱とともに、巨大な石が俺たちの人数分、放たれた。

 命中すれば即押し潰されるような、物凄い圧力。



「キャスト、雷界『電道糸(エレバンジェリスト)』」



 シーカーは冷静に宣唱し、発現させた電撃の糸を巧みに操作して石の軌道を逸らした。

 そのまま、糸をケンゴー付近の岩の出っ張りへと引っかける。



「こっちは心配するな! キャスト、星界『星雲招(ネヴュラアワード)』」


 俺も流れ弾を防ぐため、重力の盾を展開した。

 飛来した石を全て受け止める。



「行くぞ、サレガ!」


 シーカーが叫んだ。

 叫ぶと同時に、岩場に引っかけた糸を使って一気にケンゴーとの距離を詰めたかと思うと、手にした旋棍(トンファー)を思い切りケンゴーの腹部へと叩き込んだ。



「!?」


 突然の物理攻撃に面食らったのか、ケンゴーの表情が明らかに歪む。


 その隙をサレガは見逃していなかった。



「キャスト! 土界『岳球平砂(サンドランド)』」



 サレガの宣唱とともに、凝縮された砂の球体がケンゴーへと放たれ、その身体にぶつかった。

 今度はしっかりと命中する。

 シーカーの物理的な打撃により、守護の呪文が解除されたのだ。



「くそ、何だこの砂! 離せ――」

 


 砂はケンゴーの身体をがんじがらめに絡め取り、身動き取れない状態にまで縛り上げた。

 カヴンには当たらなかったものの、砂の捕縛用の呪文としては最上位の効力を持つ。

 流石に抜け出せないだろう。



「OK、捕縛した。今だ、みんな!」


 サレガの宣言。



「全員撃ち込め! やりたい放題、好きな呪文を叩き込め!」



 俺がそう発破をかけると同時に、酒場の常連達は全員用意していた呪文を宣唱した。


 炎の矢や氷の礫、金属の弾丸など思い思いの攻撃が、ケンゴーへと叩き込まれる。

 全員が加担することが重要だ。

 魔族に魔法が効くという実感を持ってもらわないといけない。



 ケンゴーは一斉攻撃を受け、断末魔を響かせながら霧散していった。



 その断末魔と入れ替わるように、歓声が岩場にこだました。




   ***



 その一戦を皮切りに、人間族の快進撃が始まった。

 横暴をはたらく魔族がいれば、酒場の常連達が飛んで行って倒す。

 そのルーティーンができあがった。


 俺たちやシーカーの監督がなくとも、低位の魔族であれば酒場の常連達で十分太刀打ち可能だったし、それが彼らとその周辺の勇気と自信に変わっていった。



 魔族に怯えて夜出歩かない、という行動が徐々になくなり、夜の街にも活気が戻りだした。



 そして、ガラクラ酒場(ターヴェン)の存在感が日に日に増していった。

 あそこの常連の誰かがいれば、魔族を倒してくれる。

 

 魔族に支配されているという感覚が、徐々に徐々に薄れていく。


 そして――領主ライズにも立ち向かえるのではないかという希望の火が、街の人間族たちに灯っていく。




   ***


 

 ガラクラ酒場の賑わいは連日続いた。


「そろそろ魔族側でも噂が回ってるかも知れないな」


 そんな声が上がった。

 それはまさしく俺らが目指していた理想型だった。


 オニキスの指示は、人間族の結束、魔族勢力の減衰。

 このまま行けば、ライズを殺して、ハインを領主へ押し上げるところまでノンストップで行けそうな機運さえ感じられた。




 そんな高揚感に包まれ、俺らがガラクラ酒場で賑やかに飲んでいた、そのとき。

 がら、と扉を開け、堂々と1人の男が酒場へと入ってきた。



「へぇ、お前らか」



 品定めするような目線で俺とカヴンを見やると、がははと笑い、



「人間族をまとめあげてんだって? 面白いじゃねーの。待ってたぜ、お前ら」



 俺は、その男の放つ並々ならぬオーラに対して、警戒心を最大限に尖らせた。

 カヴンとバンビも同様に、臨戦態勢をとる。


 だが男はそんな俺たちの様子など意にも介さず、豪快に椅子を引いてどしりと座り込んだ。



「おっと、名乗ってなかったな。よく聞け、扇動者」



 見ると、酒場の連中はみな揃って口をあんぐりとあけていた。

 シーカーですら、驚愕に目を剥いていた。




「ライズ領が領主、ライズ=マーシャルだ。遊びに来てやったぜ、市民ども」



お読みいただきありがとうございます!

次回は12/1(日)更新予定です◎

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