* 19話 * 禁呪の結晶のあと *
新章入りました
また週3ペースで更新していきます!
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「結局、魔腕を手に入れるには至らず、優秀な駒を使い潰しておしまい。これは負け寄りの痛み分けってところだねぇ」
王宮中央、第3王子シズル=ボックスの部屋。
白い肌を水色のドレスに包んだ女――テレサが、渋い顔のシズルに向けてそう言った。
「別に、あの程度の駒、いくらでも替えが効く」
「そう? ユージンの人脈はけっこう有用だったし、代わりはいなくない? バックハックはまあ、ただの魔族だしいつでも帝国から連れてこれるけど」
「ユージンの王都の人脈程度なら、私の持ち駒でほぼカバーできる。唯一、ユージンにあって俺にないのが、裏王都へのコネクションだ。が……あんなスラム街に住むような連中に、コネクションも何もないだろう。大した問題じゃない」
「いやいや、問題でしょう。今回分かった――魔腕の持ち主は、アスト=ウィンドミル。裏王都の殺し屋さんだったわけだし。裏王都につながりをもつのはは重要なことだよ」
「裏王都にいるのは分かっているんだ。態勢を整えて、いつでも奪いにいける。魔族を数体貸してくれればそれでいい。裏王都なら人間族をいくら殺しても目立たないし、搦め手も必要ない」
シズルの考えに、テレサは額に手を当ててため息をついた。
大げさな挙動。
「あー、シズルは知らなかったか。裏王都にはね、あたしたち魔族は入れないんだ」
「……? どういうことだ」
「裏王都は”魔女”――オニキス=ハローバックの領域。オニキスが禁じた種族はあの領域に入れない。魔族は入領を禁じられてる」
「……なるほど、魔女、か。話には聞いたことあるが、この時代にもまだ残っていたとはね。別に、私を含めた人間族だけで奴を狩りに行っても良いが」
「アストの魔腕にはあなたの魔眼で対抗するとしても、オニキスが必ず絡んでくる。オニキスに勝てるような人間族の兵隊は、あたしたちの手持ちにはないよ」
「――ちなみに、私とオニキスが戦ったら、どちらが勝つと見る?」
「十中八九、オニキスが勝つよ」
テレサの即答に、シズルはにやりと笑った。
「面白い。いずれは対峙したいところだな、その裏王都の魔女と。……とりあえず、今回は目的優先だ。アストを裏王都の外へ引っ張り出す。次こそ、魔腕を奪り返す」
「そうね。そこで、あたしが考えた作戦なんだけど――アストは、割と”正義”で動いてる感じがするんだよね。ロール領でも、たいした金ももらえないだろうに、領民軍の依頼を受けてたし。弱者救済が行動原理っぽいからさ」
「ほう、面白い。それがお前の仮説だとして――どう誘き出す?」
「西の辺境自治領――ライズ領を使おうと思ってる。ライズの政治ほんとめちゃくちゃだし、かわいそうな民衆、って意味じゃ、アストを釣るにはいい案件だと思うんだ」
「なるほどな、確かにライズは滅茶苦茶な男だ。正義で動く男なら、見過ごしはしないだろう」
「あたしたちとしても、ライズ、好き勝手やりすぎて最近扱いづらくなってきたし。ライズの殺害を依頼して、アストとの共倒れを狙いつつ、消耗したところを襲いにかかる、ってのがいいと思う」
「ああ、王宮にもライズを領主の座から降ろすよう、嘆願がいくつか来ていた。特に隣の領地をもつハイン卿は強く要請してきていたな」
シズルは頷きながら、声のトーンを落として、言った。
「ライズ領はお前達魔族にとっても重要な拠点だろう。俺としてもきちんと保守して、お前ら魔族との関係性を強固にし続けたい。お前の力も引き続き貸してもらう。頼むぞ、テレサ」
真剣な表情のシズルとは対照的に、テレサは微笑みながら、
「もちろん。テレサ・11・リュート。種族は魔族、位階は11、属するは水妖、水界の一族。盟友のためなら、どんな敵とでも渡り合うわ」
芝居がかった所作で、シズルをからかうようにそう言った。
***
裏王都の中でもほぼ南端に近い位置に広がっている、鬱蒼とした森。
その森の奥で、そこだけ不自然に木々が生えていない円形の広場で、俺とサナウェイは自分たちの掘った穴を見下ろしていた。
「深さ、こんなもんでいいかしら」
「ああ、大丈夫だろう。……入れるぞ」
俺とサナウェイは、持ち帰ってきたユージンの形見を納めた箱を、穴へと投げ入れた。
遺体が無いので、形見だけ。
「キャスト――土界『葬石沈琉』」
俺の宣唱とともに、穴が埋まり、墓標が立った。
ユージン=ドルフィンの名を刻んである。
「またいつか、星の導きによって巡り会えるまで」
「またいつか、どこかの風に乗って巡り会えるまで」
俺とサナウェイがそれぞれ弔いの言を述べることで、ユージンの葬送は完成した。
「こうしてみると――もう、半分以上いなくなっちゃったね」
サナウェイがぼそりと呟いた。
その目線の先には、ユージンのものを含めて6つの墓石がある。
全て、幼少期を裏王都で過ごした戦友達の墓標だった。
かつての仲間達はみな、この墓で眠っている。
かつて裏王都で、魔術の媒介用として遺体の需要があった頃、墓暴きが横行したため、こんな森の中の誰も寄りつかないような場所を選んだのだ。
「さ、弔いも終わったところで、帰りましょうか。あたしも次の仕事入ってるし。アストはどうするの?」
サナウェイが、作為的な朗らかさを放ちながらそう訊いてきた。
「俺は――」
答えようとしたところで、急にバンビから伝話が届いた。
『アストさん、外出中すみません。ボス――オニキスさんから伝言で、今日のお昼にお客さんが来るので戻ってきて欲しい、とのことです』
『……なんで直接言ってこねーんだよ。まあいいわ。分かった。戻るよ』
『ありがとうございます。あの、ユージンさんのお墓……付き合いの浅いわたしなんかが出しゃばるのは良くないって、それは分かるんですが……今度わたしも、連れて行ってもらえませんか?』
ユージンの死に対して、バンビはかなりショックを受けていた。
まあ、これまで身近な人間の死など経験したことがないのだから、無理もない。
とはいえ、俺やサナウェイにとっては幼なじみでも、バンビにとっては数日間宿や食事の世話になっただけの相手だ。
そのレベルの関係性でそんなにショックを受けていたら、正直先が思いやられる。
ここは人が死ぬ街で、俺たちがやろうとしているのは死が伴うことだ。
『あんまり深入りすんな。保たないぞ。じゃ、また後でな。サナウェイに乗せてもらって戻るから、昼には間に合うと思うぜ』
俺は半ば強引に伝話を打ち切った。
「バンビから?」
サナウェイの質問は短いながらも、思うところがある、という気配を湛えていた。
「そうだ。オニキスからの伝言。仕事だとさ」
「……やっぱり、あの子は裏稼業には向いてないと思うわ。別に個人的に好きとか嫌いとかの話ではなく、この先、あなたの足を引っ張ることもあると思う。だって……純、すぎるもの」
サナウェイがバンビのことを評価しているのは知っていた。
実際、呪文結晶の案件に関しては、バンビの気づきがなければ時計塔までたどり着けなかっただろう。
それでも、本気でバンビと俺を案じるように、サナウェイは言った。
「その純真さも純粋さも、いずれあなたの枷になる」
「分かってる。それは、ちゃんと考えるさ。けど――あいつを手放すわけにはいかない」
「どうして」
「あいつは遅かれ早かれ、絶対に必要な存在になるんだ。それまで、ずっと側にいてもらわないといけない。守っておかなくちゃいけない。当人にも、自分を守る技術を与えてやる必要がある」
「……まあ、それなら止めないけどさ。確かに、妙なところで勘が鋭いし、プラスにもなるとは思うけど。ちゃんとあの子のメンタルも考えてあげなさいよ」
「……ああ。ありがとな」
サナウェイは微妙な表情で、箒に跨がった。
「オフィスまででしょ。乗せてってあげる」
***
サナウェイにオフィスまで送ってもらい、別れを告げる。
階段を上がってオニキスの部屋に入ると、オニキスとバンビ――そしてもう1人、女が談笑していた。
「げ。あんたは」
豊満な身体を見せつけるかのような薄い布地。
露出の多い肌は透明感に溢れ、唇には潤いが満ちているのが遠目でも分かる。
緋色と黒の混じった滑らかな髪にはきらびやかな花飾りがあしらわれ、女として磨ける部分を全て磨き尽くしました、というオーラが漂っていた。
「あらぁ。アストくん、チャオっす。久しぶりぃ」
カヴン=デフラワー。
オニキスが配下の1人、”誘い屋”の女。
紹介する方が恥ずかしい通り名だが――ハニートラップの名手である。
そして特筆すべきこととして――俺が苦手なオニキス配下トップ3に入る女だ。
「何で”誘い屋”がいるんだよ。これから依頼人来るんだろ?」
俺が不満を隠さずオニキスに抗議すると、オニキスは何食わぬ顔で、
「ああ、一緒に打合せに入ってもらうんだ。今回の案件は、カヴンと組んで取り組んでもらうからね」
「……まじすか」
俺はあからさまに苦い顔をしてみせたが、当のカヴンはにっこり笑顔で、
「アストくん、また男前になった?」
絶妙な角度で小首をかしげてみせた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
次回は11/5(火)更新予定です!
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