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刀一本で世界を救う  作者: 破壊と絶望の申し子
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護衛の依頼

箱を開けると、ひし形の石が出てきた。薄黄色で透き通っている。


「これは何だ?まさか【雷の魔石】か?」

「いや、これは【幸せの結晶】ってやつだな。運が上がるだの幸せになるだの言われてるよく分からないやつだな」


なんか物凄く微妙な雰囲気。幸運のお守りってことか?


「つまりこれは外れか?」

「まあ、そうだな。Eだし。使い道も不明だ」

「しゃあないか、どうせタダでもらったやつだしな」


とは言うものの、ちょっとは期待していたので少しガッカリする。親父は中身を確認したので仕事に戻った。俺が飲み物を飲みながら結晶を眺めていると、声をかけられる。


「そこのお方。先ほど武闘大会で優勝されたクロ様ではありませんか?」


振り返るとそこには茶髪のふわふわセミロング、おっとりとした顔で白いワンピースを着ている少女がいた。


「そうだが」

「やはりそうでしたか。わたくしはアリシアと申しますわ。突然のことで申し訳ないのですが、あなたにご依頼したいことがあるのです」

「何をだ?」


話を聞くと、アリシアはこの町の町長の娘らしい。となり町でやることがあるらしいが、町長の仕事が今立て込んでて忙しいらしく代わりに行くらしい。その道中の護衛をしてほしいとのこと。


「でも、それなら冒険者に依頼した方が良くないか?俺1人だし冒険者じゃないし、パーティ組んでる冒険者に守ってもらった方が安全だと思うが」

「冒険者は野蛮な方が多いので。クロ様は大会で、できる限り傷つけないように勝利していたので、お人柄は保障できるかと。それに優勝する程の実力もお持ちですしね」


まあ刀を使わなかったのは、単に使う必要がないやつが多かったのと、魔法がかけられているとはいえ、人を切る気になれなかったからだ。


「報酬は?」

「2日ほどの拘束で5万ゴルドですわ」


5万か、悪くはないな。金はあって困るものではないし、受けるか。


「わかった。その依頼引き受けよう」

「本当ですか?ありがとうございます!」


アリシアの顔がぱあっと輝く。断られると思っていたのか、ホッとした表情だ。


「では明日の朝、お迎えに参りますね」


ペコっとお辞儀して帰っていった。2日がかりの依頼か…。ちょっとした旅行気分だ。少し遠くまで行くのならちょっと準備しておくか。




「いらっしゃい」


今いるのは町の服屋。せっかく金も手に入ったことだし、服を買うことにしたのだ。宿に置いてある洗濯機みたいな箱に入れると数分で洗浄、乾燥をしてくれるため、同じ服や下着でも汚いということはないのだが、気分的に他の服も持っていたい。適当に下着や服、ズボンを買った。3万1500ゴルド減った。


次は雑貨屋。村でもらった袋は使いやすいが、あまり入らないし見た目がイモっぽい。なのでそこそこな大きさのバックパックを買うことにしたのだ。旅もするしちょうどいい。他にも欲しい物は色々あったが、それはまた今度ということで店を出た。3万2500ゴルド減った。


最後に薬屋。そのままの素材や調合した回復薬が置かれていた。麻痺や毒といった状態異常に効く薬も置いてある。全体的にそこそこ高いな。回復薬2本、毒消し1本買った。毒消しを買ったのは万が一毒状態になったら1番厄介そうだったからである。2万5000ゴルド減った。


(残りちょうど1万ゴルドか…)


金を払っていると、幼い子供2人が入ってきた。2人は店内をキョロキョロ見渡して、


「どうしよう、おにいちゃん。ないよ、あのおくすり」

「すみません、これくらいの大きさの赤色の実はありませんか?病気に効くやつです」


兄妹らしい2人の兄の方が、薬屋の婆さんに身振りを交えながら話しかける。


「ごめんねえ、今ちょうど切らしているのよ。明日の夕方にうちの店に届くんだけど」


婆さんは申し訳なさそうに言う。すると妹の方は泣きそうな顔になり、


「どおしよう、おかあさんしんじゃうよ」

「死ぬことはないよ」

「でも、あんなにくるしそうなんだよ」


兄も婆さんも困ったようにオロオロしている。店を凄く出づらい。しょうがないので話を聞いた。なんでも、この兄妹の母親が痛苦病というものにかかってしまったらしい。全く命の危険はない病気なのだが、2日ほど全身が激しい痛みに襲われるらしい。それの即効薬として【ピリンの実】という赤い実を煎じた薬があり、それを飲ませれば痛みは治まるとのこと。


「で、その実はどこにあるんだ?」

「この町の北にある森にあるわ。危険な魔物も出るのだけど…」

「大丈夫だ。詳しい場所と実の詳細を教えてくれ」





2人組の男がいる。門を出るクロを、片方の男が見ている。


「どうした?ぼーっと門の方なんか見て」

「あの村人野郎、北の森に行くのか…」


ニヤリといやな笑みを浮かべる。


「どうしたんだよ、ニヤニヤして。なんか良いことでもあったのか?」

「いや、これからあるんだよ。おい、集められるだけ人数集めろ」





「さて、急ぐか。命の心配はないとはいえかなりの苦痛らしいからな」


森まで走って向かう。それなりのスピードで走っても疲れる気配がない。徒歩で3時間という話だったが15分ほどで着いた。森に入り、【ピリンの実】がある場所へと向かう。


「うわ、何だこのデカさ。キモっ」


人ほどの大きさのカマキリの魔物が出た。前脚が刃物のように鋭くなっている。その刃物を振り上げて襲いかかってきた。


ガシュッ!


刀で受け止めると切れた……前脚が。どうやら硬さはそれほどでもないらしい。そのまま真っ二つにした。

【カマキリの前脚】をドロップした。キモいので拾わなかった。


「あった。これだな」


教えてもらった場所にたどり着くと、自分と同じぐらいの背丈の木に赤い実がなっていた。背伸びしてもぎ取る。なんか必要か聞き忘れたので3個取った。きた道を戻ると何か鳴き声が聞こえる。


「キュッキュー!!」


声の方に顔を向けると1匹のウサギがさっきのカマキリ3体に追いかけられていた。じわじわ追い詰められている。何となく可哀想だと思い、走り出す。後ろから1体、2体と切り捨てる。最後の1体が前脚を振り上げウサギを狙う。


「キュー!」


足に力を入れて踏み込み、間一髪刃を弾き、首を切断した。ウサギの方を見ると、後ろを向いてプルプルと震えている。そっと撫でるとピクッとして恐る恐る振り向き、俺のことをじっと見つめる。


「うわっ!何だ?」


ポケットに入れていた【幸せの結晶】が輝いている。取り出すとそれにウサギが反応して、それをくれって目で見てくる。差し出すと、ウサギの体に結晶は溶け込むように消えていった。


「どういうことだ?」


ウサギは俺の周りをぴょんぴょん飛び回り、鼻をフスフスさせている。可愛いし害はなさそうなので、連れて帰ることにした。親父が知っているかもしれないし。


「よう、村人野郎。会いたかったぜ」


ポツポツと雨が降ってきた。森を出ると7人が待ち構えていた。皆剣や杖を持っている。聞くまでもないけど一応聞いた。


「何の用だよ」

「てめえみたいな雑魚村人に俺が負けるはずがねえ。ありゃイカサマだ。そんなことをするやつは消しとくのが世の中のためってもんよ」


ニヤニヤしながらビルドは言う。俺が負けるはずがねえって言っておきながら、7人用意するあたり流石だなって思う。


「野郎ども、やっちまえ!」


その声を合図に後ろの魔道士3人が氷や風の球を飛ばしてきた。それを刀で全てかき消す。


「な、なんだよあいつ!」

「魔法が効かねえ!」


敵魔道士はうろたえている。舌打ちしながらビルドは、


「小細工しやがって!お前ら、斬り殺すぞ!」


そう言って4人で斬りかかってくる。殺しに来てるとは言え、俺としてはクズ相手でもあまり殺したくない。峰打ちで留めておいてやるか。「安心しろ、峰打ちだ」って言ってみたかったし。でも峰打ちでも当たり場所によっては死ぬだろうし、鉄の塊で殴るわけだから骨折はするだろ。全く安心できないよな。


「キュー!」


突然ウサギが急に天に向かって鳴いた。すると次の瞬間、落雷が落ちた。

「「「「「ぎゃああああ!!」」」」」


7人のいる周辺に落ち、その衝撃で全員気絶したようだ。峰打ちの機会を逃してしまった。


「キュキュッ!」


自分がやったと言わんばかりにウサギは鼻をフンフンさせている。偶然か?撫で回すと目を細めて気持ちよさそうにしている。


全員息はあるようだが、介抱するのは面倒だし、する義理もないので町まで走って帰った。




薬屋に着くと、まだ兄妹は中にいた。婆さんに出してもらった飲み物を2人して飲んでいる。妹は落ち着いたようだ。


「えらい速かったわねえ。まだ出てから2時間も経ってないわよ。徒歩で3時間の距離なのに」

「走ったからな。それよりこの実だろ?何個いるんだ?」


実を3個出す。


「1個で十分よ。早速薬を作るわ」


数分で薬は完成した。それを兄妹に渡す。


「ありがとう、おにいちゃん!」

「本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいか…」


2人は頭を下げる。


「ああ、いいから早く母親に持って行ってやれ」


兄妹は2人顔を見合わせ、頷く。


「これ、受け取って下さい。たいしたものじゃないですが」

「わたしのおこづかい、あげる!」


兄が300ゴルド、妹は100ゴルド俺に差し出す。俺は子供の小遣いを、こんな額を貰ってもしょうがないので断ろうとする。


「いや、俺は別にいr……」


兄の目は真剣だし、妹は全開の笑顔だった。これはもらわない方が失礼だな。子供の気持ちを無下に扱う訳にはいくまい。


「…ああ、ありがとうな」

「はい!」

「えへへー」


2人は店を出る前にもう一度ペコリと頭を下げ、走って出て行った。外はいつも間にか晴れて、虹がかかっていた。


婆さんはニコニコしながら、


「あんた、いいやつだね。50年前のあたしだったら惚れてたよ」

「それはどうも」

「まさか強いだけじゃなくて性格まで良いとはね。武闘大会で優勝したクロってあんただろ?」

「見てたのか?」

「あたしじゃなくて爺さんがね。黒髪で刀を持ってる村人っぽいやつが優勝した。凄い戦いで興奮したーってね。今は血圧上がって奥で寝てるよ」

「マジか。悪いことをしたな」


思わず苦笑いする。


「とりあえず余った【ピリンの実】は買い取るよ。それに薬が必要になったらいつでも来な。安くしてあげるよ」


【ピリンの実】は1つ2000ゴルドらしいが、少し上乗せで2500、2つ合わせて5000ゴルドで買い取ってくれた。


「ああ、助かる。薬が必要な時は頼むな」


店を出ようとすると、


「ああ、婆さんや、血圧の薬は……ってふおぉぉぉ!!お主、さっきの優勝したやつではないか!?

さ、サインを、これにサイン……はふぅ」


爺さんは倒れた。杖にサインを書いておいてあげた。


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