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出会い

ざわぁ~。


 植わる木々が吹いた風にその身を心地良さそうに揺らしている。緑豊かな枝葉。暑くもなく寒くもない気候。それらから感じ取れるのは今、この時季は初夏の始め。五月の中旬と言ったところだろう。


まぁ、勿論。この世界の事は俺には分からない。そもそも季節というのがあるのかどうかも疑わしい。ずっと、こんな暖かな気候という可能性だってあるわけだ。そんな羨ましいことがあってたまるかだが、何せここは異世界。俺の持っている常識など何の力にもならない。 


ざわぁ~。 


・・・まぁ、何にせよだ。


今。現在いま。この状況は俺の常識を遥かに超越してるのだが。 


「どうしたのだ?やけに物静かではあるまいか?もしや、妾の顔を忘れたとは言わせんぞ?」 


「あっ、いや。そうじゃない。そんなわけないだろ?俺がお前・・いや、貴女の顔を忘れるなんてそんな。はは。」 


・・いやいや。待った。待った。ちょい待ったああああああああああっっ!!


 何でこうなる?転生して直ぐ目の前にいきなりラスボス??誰がそんなこと、予想するよ!?バカじゃねぇの?生き返って直ぐ死ぬとか笑えねえよ。マジで。


・・ふぅ。


まあ、だが。現にこうしたバグが起きてしまっている。それはもうどうしようもない。あの筋肉バカに説教しようにも死ななければそれも叶わない。

そして死んだら元も子もないのだ。現時点で俺がするべきこと。それは現状の整理。そして打破だ。


とりあえず現状だ。見た感じ転生には成功したようだ。そして俺の希望通り校門前にもいる。そこまではいい。問題はそこからだ。


目前にいる人物。その少女。銀髪・ショート。紅色の眼をした恐らくここの制服だろう衣服を身に纏った少女。その少女が俺を殺したであろう天使であるということ・・。


いや、待て。そう言えばコイツ、自分で天使とか言ってたか?俺の早とちりなのでは?いきなりのことで俺も混乱していたがそうだ。そういった可能性も無いこともない。ならば早速、確認だ。


 「おい、あんた・・」 


「ふふ。では、そろそろ妾の力を見せるとしようか?なぁに、痛みはない。一瞬で汝を黄泉の国へと送り込んでやる。」


「待った。待った!待って下さい!!」


 あっぶねえ。何を悠長なことを言っているんだ俺は?彼女が天使ではない可能性?そんなの始めの時点で無くなっていただろ?


始め、彼女は何て言った?俺の記憶が正しければ「汝、また妾に殺されに来たのか?」とか何とか言っていた筈だ。


ほぼ間違いないだろ?

大体、彼女の姿を見れば一目瞭然。

銀髪に紅眼。そんな異質なモノを持った者が只者なわけがない。


と、とにかくここは当たり障りないよう、穏便に話合いで事を解決するしかない。あの筋肉バカの言い分であるのなら彼女は俺を恨んでいる。それはもう殺す程に。


「あ、あの?すみません。俺を殺そうとするのは昔のことですよね?でも、あの時の俺もまだ小さくてそういった事とか全然、分からなくって・・」


「よい。」


「え?」


「汝の戯れ言に付き合っている時はない。こう見えて妾は忙しいのだ。それに妾は赦しても妾に眠る膨大な力は汝を赦さぬと申しておる。」


「そ、それは変わらない未来・・。そう言うのか?」


「・・ふっ。つまらない事を言わせるな。これは時の定め。妾と汝が出会えばそうなる決まりだった。神々が決断した予定調和というものだ。」


「なっ・・。」


まさか、神にまで怒りを買っていたとは?天使をフッたのだ。過去に神様。女神をフッたことだってあるのかもしれない。これは俺が思っていた以上にヤバイ展開なのか? 


「では、覚悟しろ。」


言って彼女はその細く、華奢な腕を振り上げる。そこから何を繰り出そうとしているのか?勿論、俺には見当もつかない。

だが、良いことではないのは確かだろう。




「ごめん!!」 



「なっ・・」 


こうなれば形振り(なりふり)構ってられない。男のプライドだかなんだか知らんがそんなもの棄ててやる。こんな頭を下げるだけで赦されるとは思えないがそれでも何もせず、何の可能性も試さずしてまた死ぬなんて冗談じゃない。


「な・・何をしている。そ、そ・・そんな事をしても汝の運命は変わらぬのだぞ?」 


「ああ。そんなこと知った上だ。だが、このまま簡単に殺される訳にはいかねぇんだよ。俺にもそれ相当なモノを背負ってんだ。」 


そうだ。このまま何も無いまま終わるなんて絶対に嫌だ。


「だから、そのようなことをしても妾は汝との因縁をここでだな・・うぅ。」


ん?何だか様子がおかしいぞ?確かにここで俺が頭を下げる事は彼女にとっても予想外な出来事だったかもしれないが・・。

これは何だ?彼女、困惑している? 


「何で・・・どうして。やっとあえたと思ったのに・・。頭下げられたらどうしていいか分かんないよ・・。」 


ど・・どういうことだ?あの筋肉バカの話では出会えば直ぐに殺しに来るという話だった。確かに直ぐに殺しに来ようとはしていた。だが、こうも簡単に心は揺れるものなのか?確かに聞いた話では謝って赦して貰えという話だった。だが、だ。


 チョロすぎやしないか?


 確かに未だ好意を寄せているとは聞いていた。

それでもいくら何でも・・。 


「お、おい?」 


「へっ?あっ、ひゃいっ!?」


 完全に別人だ。まあ、何でもいい。今が好機なのは言うまでもないのだ。


「お前、よく見たら可愛いし今からでも俺と付き合わないか?」 


「・・・・。」


 数秒の静寂。やっぱ、急ぎすぎたか。と、訂正の言葉を加えようと口を開く。

のだが、そこから俺の言葉は出ない。


「ひゃっ!?へっ!?つ、つ・・付き合う!?なん・・私とあなたが?そ・・それは・・あなたが私の事をす、す・・好きということなの?」


凄い動揺。始めのキャラはどこにいったのやら。


 「えっと・・。ああ、まぁ、そういうことだな。で、どうだ?昔の事は忘れてくれとは言わねぇ。それでも今からでもやり直せないか?」


正直、彼女と付き合う。それに引っ掛かるものはある。そりゃぁ、そうだ。俺はこの世界に来て彼女しか見ていない。学園生活。この先の異世界ライフを送れば彼女以上の女性に出会える可能性は大いにある。だから、今のこの時。その発言は非常に心苦しい。

だが、まあ。これは仕方の無いことなのだ。彼女に赦して貰うにはこれが一番、手っ取り早い。それにまぁ、可愛いってのはあながち嘘ではない。 


「あ、あのょぉっっ!!・・わ、私達、まだ出会ったばかりだしそういうのは早いというか・・私もそういのはよく分からないし・・」


最後の方はゴニョゴニョ。何を言っているか聞き取れなかったが引っ掛かる言葉。その一言は聞き取れた。


「出会ったばかり?は?お前は昔、俺にフラれたんじゃ・・?」


「なっ・・何を言ってるのよっ!あなたに会ったのは今日が始めてよっ!」


「は?じゃぁ、何で俺にあんな事を・・」


「そ、それは・・あなたが本物かと思って・・」


「本物?何の?意味が分からねぇっ!もっと、分かりやすく説明しろよっ!」


「えっ・・あっ・・えっと・・」


勢いよく彼女に言い寄ると、彼女は明らかに怯えた様子で涙眼になった。

女の涙はなんとやら。だが、そんなの関係ねぇ。今、ここで決着けりをつけれるならここでつけた方がいいに決まっている。だから、更にもう一押し。 


「なぁ!!何が・・」


「はいは~い。そこまで。そこまで~。」


明るく陽気なそれといてしっかりした声音。そんな女性の声が俺の言葉を遮る。 


「面白そうだったから見守っていたけど千羽せんばちゃんを泣かしたらダメだぞ。転校生。」


 「は?え?」 


突如、現れたのはこれまた容姿レベルだけではレベルの高い女子。

スラーッ、と伸びた黒髪は清く艶が目立ち、上品な日本人形のよう。だが、顔立ちは大きな眼がパッチリと大きく、睫毛も長く鼻も高い。日本人形と外国人形のパーツをより良く集合させた感じだ。そしてそんな彼女の口元が今では何故かにんまり曲がっている。 


「おまっ・・お前は誰だ?てか、今はそれどころじゃ・・。」


いや、どうなってんだ!ほんとっ! 


「はは。面白いな。君は。まあ、いいや。私はここの学生で美野みの ちょう。一応、クラス委員長をしている。よろしく。」 


「あっ、これはこれはご丁寧に。俺は堂島しん・・。じゃねえよっ!!」


何だコイツは?ナチュラルに現れ、その流れで手とか差し出してきやがった。社交性が有りすぎる。いや、それとも才能か?何にせよ。


「何を呑気に自己紹介とかしてんだ!お前はっ!こっちとらいきなり命狙われてそれどころじゃねえんだよっ!」 


「おお。テンションが高いな君は。ところで命を狙われてるとは物騒な話だね。誰に誰の命を狙われているのかな?」 


「は?だから、この物騒な天使に・・」


と、言ったところで気付く。


「・・うっ。ごめんなさい。私はただ、会えたと思ったから。・・こんな事になるとは思わなくて・・ひぐっ。」 


「・・・・・・え?」


 見える少女の姿は明らかにそんな事をする筈もない弱々しい女子高生。ご自慢の紅眼からボロボロと大粒の滴を落としている。これでは俺が悪役みたいだ。 


「はは。天使とは君。かなり千羽ちゃんに夢中だね。だけど、か弱い女の子を泣かす行為は見過ごせないな。これはクラス委員長としてそれ相当の罰を下すべきかな?」 


「いや・・。は?」


 もう、一体。何がなんだか?いいからこの現状を誰か説明してくれ。


「まあ、とにかくさ。」


 色々な問題に疲弊している俺に美野蝶。自称、委員長は一つ両手を重ね合わせこう言う。 


「千羽ちゃんも。転校生君も。もうHR始まってるから教室行こっか?」 


******************


暖かな気候の為か歩く道にズラリとある窓の殆どは開け放たれている。そこから流れる心地よい風に髪を揺らせ、俺は。俺達は職員室へと向かっていた。 


「はあ~。そういうことか。どうりで。途中から変だと思ったんだよ。」 


あれからここ。校舎内の廊下に来るまでに彼女。千羽せんば 卯李ういの事を聞いて俺は深く息を吐き出した。 


どうやら彼女は俺の知っている世界の用語を使うと中二病という病に犯された迷惑な人物だったようだ。


中二病とは自分の事をアニメや漫画の主人公。特別な能力。特別な境遇下。過去を背負っているとかなんとか想い込んでいるちょっと・・いや、かなりイタイ人物等が掛かった病気の事を称して言う。・・らしい。  


そしてどうやら千羽卯李に関しては自分にとてつもない魔力が眠っていると想い込んで。過去に大切な人を同じくとんでもない魔力を持った人物(性別は不詳らしい)に殺されたと想い込んで。その人物を倒し、大切な人の居場所を教えて貰う事を目的としている。

・・という設定なのだとか。 


「ん~?転校生君も同じ人種だとばかり思っていたのだけど?」


「ばっ・・この俺がそんな可哀想な人間だと?冗談にしては笑えねぇぞ?」


「にしてはノリノリで千羽ちゃんと話合っていたけれど?」


「違う。あれは・・」


クソッ。この流れで事情を説明したら俺までイタイ人物扱いだ!死んでも言えんぞ。 


「ん?あれは?」


「・・あれはアイツが可愛そうだったから合わせてやったんだよ。話し掛けられて無視されるのはキツイだろ?」


「ふ~ん。優しいんだね君は?」


 にんまり。人をからかうような笑顔。まるで信用してない。まあ、自分でも無理があっただろうとは勘づいていますけどね・・。


「ところでお前も教室に向かわねぇのか?一緒に向かってくれるのは助かるけどよ。」 


この委員長。美野蝶が担任の教師に言われて俺を探していたのは聞いたが、職員室までの道のりは教えて貰ったし俺一人でも行ける。まあ、誰も知らない学校。世界で隣にいてくれるというのは素直にありがたいことなのだが。 


「まぁ、ここまで来たら私も行くよ。君には聞きたい事が沢山あるからね。」


「聞きたいこと?」


はて?一体?


まさかこの娘、俺に惚れたか?

名前?年齢?住所?連絡先?趣味?好きなタイプ?


・・まあ、言えない情報もあるがそれなら仕方ないな。全く、イケメンはこれだから困る。いや、ほんとに。はは。 


「うん。君、千羽ちゃんに告白してたけど彼女のどんなところが好きになったの?」 


「は?」


な・・何を言った?この女。 


「だからさ。君は千羽ちゃんのどこが気に入って想いを伝えたの?それであの後は声が小さくてよく分からなかったんだけど。どうだったの?OK貰ったの?あっ。でも、千羽ちゃん泣いてたっけ?いや、でもあれは嬉し泣きという場合も・・。」


などと、一人「うんうん。」頷いている自称委員長。 

それはそうと。 



 聞かれてたああああああああああああああああ。 



「お前っ!どこから聞いてた!!」


「え?それは千羽ちゃんが 『汝、また妾に殺されに来たのか?』 とか言ってるところから?」


ところから?


じゃねぇぇぇぇぇぇぇ。

始めっからじゃねえか!一部始終観てんじゃねえかよっ!この女!!

恋愛ドラマじゃねえんだぞ。止めろやコラッ!! 

「お前・・」


「お前じゃなくて、蝶。もしくは委員長と呼びなさい。全く。人の名前も覚えられないのかい?」


「うっ。じゃぁ、美野。」


「んー。候補にない呼び名を選ぶとは性格が悪いな君は。」


「いいだろ。呼び方なんて。それよりさっきの話だ。」


「おぉ。そうだった。そうだった。で、どうなんだい?どうなんだい?君は千羽ちゃんの何に惹かれたんだい?」


目を光らせるな。目を。ああ、うっとしい。 


「悪いがあれは冗談だ。途中で変だって気付いたんでな。流れを断ち切る為にああ言った。・・・まぁ、あいつは可愛かったけどよ。」 



「・・・・・・・・・。」



「どうした?」


さっきまでのうっとしい程の輝きが無くなっている。それどころか軽蔑しているような眼。 


「・・いや、ちょっと失望しただけ。包み隠すとか私はできないからね。素直に言うよ。」


そう言って委員長は。美野蝶は。美野はとても冷たく、殺すような声音で俺にこう伝える。 



「もう、君は彼女に近付くな。」



 「は?いや、だからあれは・・」


 違う。このままではヤバイ。何がどうとかはっきりしたことは言えないけど。このままでは夢見た甘酸っぱく、絵に描いたような青春学園生活なんて送れなくなる。今ここで彼女の誤解を解かなければ。


だが。 


「着いたよ。じゃあ、私は先に教室に戻ってるから。」


「いや、ちょっ・・。」


言葉は通じず、俺は馬鹿みたいに彼女の背中に向かって手を伸ばす。そんな間抜けな姿のまま固まっていた。

別に彼女は走っているわけでも、早歩きしているわけでもない。追い付ける。けれど、俺は決して彼女の背を追わない。その先の言葉がどうしても思い浮かばなかったから。


 数秒。いや、数分だろうか。ついには彼女の姿が見えなくなるまで俺はその姿を続けていた。 


「はあ~。・・クソッ。」


どうしてこうなる。イケメンってのは全てが順風満帆じゃねえのかよ。初っぱなから躓いてばかりじゃねえか。


 「・・失礼します。」


憂鬱な気持ちを残したまま、職員室の扉をスライド。言われた担任が座る机に足を運ぶ。


「遅い!」


机に向かうと眼鏡を掛けた見た目キツそうな女教師が一言、俺に言葉を浴びせてきた。


「・・すみません。」


「ん?元気ないな。まあ、いい。君、一人という訳ではないからな。」


「・・は?」


「ああ、今日。もう一人、転校生がいるんだよ。しかも何でか私のクラスにな。ほんと、どっかに回せって話なんだけどな。」


この教師の口調やら、態度のことは一先ず置いとくとして。


は?俺以外にもう一人、転校生?そんな・・。


多少の支障はあったがこれからはイケメン転校生。クラス中の女子がキャー。キャーという流れではないのか?

もう一人、転校生がいるとか俺の存在が薄くなるだろうが。 


あっ!そうか。美少女の転校生か。それでその転校生が俺に惚れて。そうしてだんだん・・とかいった感じか。

うんうん。まあ、それはそれで悪くない展開だ。 

などと思っていると。


 「・・すみません。道に迷ってしまい遅れました。」


 ・・・・・・・・え?


「ああ、もういい。コイツもさっき来たところだしな。よしっ。さっさと教室向かうぞお前ら。」


「はい。」


「・・・・。」


「?・・あっ、あの?俺の顔に何か?」


「・・は、はは。」


俺と一緒に転校してきた転校生は男であった。


そして。しかもだ。


俺より長身。俺より髪色が派手(赤)。眼は鋭くかなりの美形。俺より。 


遅れてやってきた転校生は俺よりイケメンとか。



ほんと、何?

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