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Re スタート

 月刊エンジェル。


その雑誌の存在はここ天界ではとても大きなモノなっている。今やその雑誌の存在を知らない者はいない。そう言っても過言ではない。


たかが雑誌。新参者はそう言うだろう。だが、その雑誌を一目見れば誰もが虜となる。ページを捲れば目が離せない程に面白い漫画の数々。

奇抜やキュート。クールで派手なファッションをしたモデルの数々。

グラビアに男は何冊も買い占め、イケメンアイドル・可愛いアイドルに男も女も届かない黄色い声を上げる。

達筆した小説。情報の数々。観光スポットに動物の写真までも雑誌内を賑わす。 


そう。その雑誌。月刊エンジェルはここ天界のありとあらゆる情報に娯楽などを押し積めた。ただ一冊の雑誌なのだ。 


音楽・ゲーム・アニメにドラマ。その他もろもろの娯楽がある中で、エンジェルだけは常に売り切れをキープしている。天界人にこよなく愛され、重宝されている雑誌。それがエンジェルという雑誌なのだ。 


で、その雑誌の巻頭にハニの妹。エルルが選ばれたのはつい先刻の話だった。 


「はぁ~。疲れたぁー。 」 


休憩室。エルルは机にグテーッ。と、体を伸ばし、息を吐く。


 「エルル。だらしないですよ?せっかく名誉ある経験をさせて頂いているのですから休憩と言えど、他の天使の模範となる佇まいをですね。って、聞いてますの?」 


「え~。だって、お母さんの話長いもん。」 


「はぁ~。あなたは。黙っていれば文句のつけようのない、美しい自慢の娘なんですがね・・。」


「わぁ~。お母さん、それはヒドイよ。私、中身もそれなりに綺麗なつもりなんですけど・・。」


「そういう発言が美しくないと言っているのです。あなたはもう少し謙遜を覚えるべきです。いいですか?」


「え~。それって面倒。」


「何が面倒なのです。はぁ~。大天使様はこの子の内面も見て選考して下されば・・。」


「まぁ、まぁ。雑誌に写るのなんて所詮は外見だけだし。言われた通りのポーズ取ってればいいから大丈夫だよ。問題なのはインタビューだよね。何言えばいいか全然、分かんない。」


「それで私を呼ぶとは思いもしませんでした。」


「だって、ハニお兄さんには私の仕事頼んでるから呼べないし。」


「だからって私に相談ですか。」


「うん。だって、お母さんに聞けば間違いないし。私、お母さんは尊敬してんだよ。綺麗で優しいし。まぁ、たまに怖いけど・・。」


「・・お、おだてても何も出ませんよ。」


「はは。照れてる。照れてる。あっ、やばっ!そろそろ時間だ。というわけだからお母さん頼んだよ。私はただ座ってるだけだから代わりに質問に答えてね。」


「今回だけですよ。こっちも忙しいのですから。」


「うん。」


エルルは無邪気に微笑み、立ち上がる。時間的にインタビューが行われる部屋へと向かわなければならないのだ。


「エルル。髪が乱れています。こっちに来なさい。」


「はぁ~い。」


綺麗な銀髪を左右に揺らし、エルルは母の元へと足を持っていく。母親に髪をとかれ、エルルはふっと思い出したように小さく声を漏らした 。


「お兄ちゃん大丈夫かな?」


*****************  


 「・・異世界に転生?」


正面に座るおっさんことハニさんは確かにそう言った。 


「マ・・マジか?」 


「嘘を吐いてどうする?」 


「ま、まぁ、そうだが。」


 余裕に座るハニさんを見ていると驚いているこっちがおかしいように思える。

だが、騙されてはならない。おっさんが言った言葉。それは今やあながちかもしれないが アノ 異世界転生だ。


漫画。アニメ。小説。映画などでお馴染みの 

アノ 異世界転生だ。転生後、もれなく特別な能力。チート能力が特典で付いてくるという アノ 異世界転生。(物語によって無いものもあるが・・) 

それをこのおっさんはいとも簡単にしようなどと言いやがった。漫画やアニメならまだしも。


 「い、一応、訊いておくがその異世界に魔法の世界やら猫の世界やらファンタジックな世界は候補にあるのか?」


 「あ?あぁ、探してみんことには何とも言えんがその程度の世界なら存在する筈だ。何だお前さん?魔法とか使いたいのか?」 


「べっ、別にそんなことねぇしっ!ただ、そういう世界にトバされたら対処方とか聞いとかなきゃならんだろ?その辺の能力、俺には使えんだろうし。」


焦る必要などないというのに何でか早口になっていた。いや、まぁ。魔法とかそりゃぁ、使えるなら使いたいですよ。何て言うかそこは人間として新しいことには常に積極的に取り込むべきだろうし・・。


 「あぁ、その辺の心配はせんでええ。どうせ肉体も改良せなあかんしな。その時、適当に弄ればアッチでも生活できるだろう?」


「マ・・マジか?」


こうも簡単。お約束通りに特典が付くとは。異世界転生すれば人生、勝ち組。薔薇色の人生じゃねぇか。 などと思いました。


「ん、じゃあ。異論はないようだしな。早速、大天使様に連絡するか。」


と、言って短パンのポケットをゴソゴソ。見慣れた携帯電話。スマホを取り出す。何か天界のイメージが小さくなるから止めて欲しい。

天使なら色々とね。通信手段ってあるじゃない。テレパシーとか。瞬間移動とか。思念体で話すとか。何か。こう。ねっ。 

まぁ、いいんですけど。結局、何をしても遠くにいる相手に話が通じれば結果は同じなのだし。 


「あっ。お忙しいところ失礼します。私、第五班に所属しておりますハニと申します。あっ、覚えていて下さいましたか。先日の戦いではお世話になりました。あっ、いえいえ。私など。」 


完全に別人。お母さんかよっ!と、ツッコミの一つ入れたい気分だ。

ほんと、何でお母さんって電話に出る時、口調や声音が変わるんだろうな。まぁ、その件に関してはお母さんに限ったことではないと思うが。 


「・・それでですね。この度、ご連絡したのは少し頼み事がございまして。はい。ええ。ほんと、勝手なんですが。」


 どうやら、長くは掛からなさそうだ。これで俺も異世界転生モノの主人公の仲間入りか・・。

うん。悪くない気分だ。


 「・・はい。えぇ。え?そうですか。なら始めから。あぁ、そうでしたか。あぁ、はい。」


ん?何だ?何の話だ?ハニさんの会話に少しの違和感を覚える。何か少し、本当に直感なのだが、嫌な予感がする。


「・・はい。はい。分かりました。では、本人にはこちらで伝えておきます。はい。はい。では、失礼します。」


ピッ。 


「おっさん。何の話をしていたんだ?」


通話終了後、直ぐ。俺はハニさんに先程、感じた違和感を確かめるべく質問をする。


「ん?あぁ。それがだな。」


 訊くとハニさんは何故か言い難そうに頬を掻く。何か良からぬ事があるのは間違いなさそうだ。


 「まぁ、簡単に言うとだ。お前さん。魔法の世界だったか?そこには行けなくなった。」 


「へ?」 


「おいおい。そんなに行きたかったのか?鳩が豆鉄砲くらったような顔になっているぞ?」


 「あ、いや。・・・てか、何でだ?さっきは行けるって言ってたよな?どうしていきなり出来なくなった?」


 別にどうしても魔法を使いたかったわけでも。チート主人公になりたかったわけでもないが納得ができない。 


「大天使様の意向だ。俺から意見できるわけなかろう。ほれ、分かったらこっちに来い。転生の準備をする。」


 「うっ・・。」


もっと、ちゃんとした説明を求めたかったのだが、それを言われてはこちらは何も言えない。上司命令に「はいはい。」頷くのは社会人として上手く生きていく上で絶対的なルールみたいなものだ。それを部外者が意見するなど出来ない。

まぁ、その大天使様って奴に直接、話が通るのならそれがベストなのだが。そうはいかないだろうし。転生ができないわけでもないし、食い下がっても問題はなかろう。


 「で、転生の準備って何すんだ?着替えにアッチでの通貨。マニュアル本でもくれんのか?」 


何か修学旅行の準備みたいだな。 


「いや。そんなものは与えん。てか、そもそも無いしな。」


「はは・・。ですよね。」


 何となく分かっていた。よくある転生モノでも何の準備無しに送り込まれるのが多い。それは何かもう先代からの教えみたいなものなのだろう。知らんけど。


 「じゃぁ、何の準備だよ?さっきから背中に手、置かれてるけど。おっさんに背中触れられて嬉しい男はそうそういねぇぞ?」


とは、言ったがホンワカ。何だか気持ちがいい。まさか。このイケメンな俺にソッチの趣味が。

・・いやいや。イヤイヤイヤ。


 「言ったであろう。お前さんの肉体は永くないと。だから、メンテナンスをしておる。ベースは変えんが細胞や神経を新しいのに変えている。勿論、心臓などの臓器もな。」


「ほ、ほう。」


簡単に言ってくれるがとんでもない事だ。こんな背中触るだけで蘇生できるとか。マジでさっきまでは馬鹿にしてたけど凄い人・・いや、天使なんだな。


「ところで俺が送られる世界。ソコはどんな所なんだ。まさか言われただけで知らないって事はないよな?」


「ん?あぁ。そうだな。まだ言ってなかったか。」


「おいおい。しっかりしてくれよ。魔法が使えないにしろ行き先が戦場だったとか笑えねぇからな。マジで。」


肉体は新しいモノに変わっていようが元の力。能力は変わらないのなら戦闘経験がない俺にそういった世界で生きる術は殆どない。


「はは。その点に関しては安心しろ。お前さんが行く世界は至って平和だ。というかお前さんが元いた世界とさして変わりない。強いて言うならアッチの人間は少しお前さんよりも力の引き出し方が上ということくらいだな。」


「力の引き出し方・・?」


「はは。気になるか?やはり、お前さんも筋肉ちからが欲しいか?なら、やはり行く前に俺と筋トレでもするか。よし、そうと決まればまずはランニングから・・」


「だから、それはいいって言ってんだろ!!」


「そ、そうか?せっかくお前さんにも筋肉の素晴らしさが伝わったと思ったのにな。」


「なわけないだろ。人の思想は早々に変わるもんじゃねぇ。」


ったく。隙あれば俺を筋トレに誘いやがる。どんだけ、仲間欲しいんだよ。どんだけ、仲間いねぇんだよ。このおっさん。


「まぁ、それはそうと。修復完了だ。これでお前さんはアッチで何時間。何週間。何年いても大丈夫な体になった。何か不具合があったら俺に言ってくれ。これが俺の携番な。」


「お、おう。」


何かもう普通に携帯見せてくる。天界の文化が発達してるのかどうか疑うな。


「まぁ、怪我や病気などによって死んだとかいうクレームは受け入れん。そこら辺は俺とお前の仲で了承してくれ。」


「いや、あんたとそんな仲良くなった覚えはないのだが・・。」


了承はするけどよ。


「なっ・・友達と思ってたのは俺だけだったとか寂しいぞ。今はそうでもないがお前さんにも筋トレの素晴らしさが理解できる日が来て俺と共に良い汗流す。そんな夢見た世界をどうしてくれる!」


「いや、ソレ。ほんと、おっさんだけの夢だから。存在しない世界に俺を招き入れないでくれるか?」


これが美少女だったら少しは嬉しかったかもしれないが、おっさんだからな。むしろ、止めて頂きたい。


「はは。相変わらずお前さんは辛辣だな。それではアッチに行っても恋人は愚か、友達もできんぞ。」


「余計なお世話だ。生憎だが、友達に困ったことは生涯で一度もねぇよ。」


まぁ、その生涯がもの凄く短かったんですけど…。


「はは。お前さんとこうして話しておると楽しいのだが、俺も暇という程暇でもない。妹の様子を見に行かねばならんしな。」


俺は全く、楽しくない。


「というわけでそろそろ送る。少し目を閉じておれ。粒子分解させてから結合させる。まぁ、簡単に言えば瞬間移動みたいなものだ。目を開けていてもいいが一瞬、空間が歪むぞ。」


「は、はは。」


蘇生方法といい、とんでもねぇな。


「あぁ、送り先を聞いておらんかったのう。希望があるのなら聞いておこう。」


「・・希望?」


「ああ。公園だとか。湖の中だとか。スポーツジムの中だとか。色々あるだろ?」


その色々の中にスポーツジムが入っているのはどうかと思う。まぁ、湖の中というのも普通じゃないのだが・・。


「ん~。そうだな。そう言われてもな。」


いきなりそう聞かれても困る。


「あっ、そう言えば。アッチでの俺の役柄は何なんだ?学生とかか?」


できればそうであって欲しい。何だかんだで俺はまだ高校を卒業してない。心残りに二つ目があるとしたらソレが次にくるのは確かと言えた。


「ん?あぁ、そうだな。お前さんの年齢にしてもそうなるだろう。戸籍やらの色々な面倒事はコッチの方で何とかしておくつもりだ。」


「そうか。何か悪いな。」


「なに、気にするな。友の為なら面倒事の一つや二つ何ともないわ。」


友達になった覚えはないのだが・・。

まぁ、頼もしいのは正直な感想だからここでは何も言わない。


「じゃぁ、そうだな。転送先は学校の校門前で頼む。」


「校門前だな。了解した。なら、目を閉じろ。」


「あぁ 。」


希望していた魔法の世界とはならなかったが何だろうな。この胸にくる感情もの。少年漫画の主人公みたく言うには わくわく するってやつなのだろう。


 全くの新天地。知らない世界。知る者も知られる者もいない。そんな何もかもが分からない異世界。


そこで俺は・・ 


「ああ、ところでお前さんよ。」


「あ?」


んだよ。人がせっかくテンション上げてる時に。 


「お前さん、昔はモテテいたそうではないか?」 


「昔は。じゃない。今もモテている。死んでしまったが。」


 「まぁ、それはさておき。」


置くなよ!


「お前さん、幾人かの女性にアプローチされた過去があるみたいではないか。」


「ん?あぁ、高校上がる前まではそんなの日常だったよ。てか、何だよ?何でこんな出発ギリギリでそんなこと訊く?」 


「いやな、大天使様が言っておったのだよ。お前さんの死んだ理由。それは事故などではなく殺人だと。」


「は?殺人?」


そういえば死ぬ直前。大型トラックに轢かれる前に何か衝撃があったような・・。あれが誰かによるものだったら確かに殺人と言える。


だがだ。


「そうだとして何でそれを今、言う?」


「あぁ。それがな。お前さんを殺した人物。・・いや、天使はなお前さんが過去にフッた者なんだとよ。それで今、その天使は天界を出て、逃亡中らしい。」



「はっ??」



俺を殺したのが天使?俺が過去にフッた?逃亡?


「ちょっと待て。意味が・・はっ!まさか。」


全てを理解したわけではない。だが、ここで。

出発直前でおっさんがその事を俺に言った。それが意味する事は分かった。 



「ソイツが俺の行く世界にいるんだな?」 


「はは。さすがだな。話が早くて助かる。まぁ、そういうことだ。後、これは大天使様からの忠告だ。その天使は未だ、お前さんを恨んでおる。もし、ソッチの世界で奴に出会ったら殺される事は必須だ。だから。」


ヤバイ。意識が薄れてきている。粒子分解とかいうのが始まってきているのだ。ここで一方的に言葉だけを投げられ、送り込まれる。それだけは防ぎたい。


だが、俺にできることなど・・。


数秒間、考えたがやはりないんだな。これが。第一、こんな意識朦朧としている状態でまともに考えられるわけがない。


そうこうしているうちにおっさん。ハニさんの言葉が耳に届く。


「だから、お前さんがソッチの世界でやることは一つ。その天使を見付けだし、謝罪し、赦してもらうのだ。」 


「ふざけるなっ!あっ、まっ・・話を・・」


そんな俺の言葉は最後まで結ばれない。その前に視界が歪み、俺の姿はそこから消える。


「それまでお前さんの童貞卒業はおわずけだな。 はは。」


そんな台詞が最後、聞こえたような気がした。

・・いや、できれば聞きたくなかった。


********** 


「・・んっ。・・ん~。」


冷たい。懐かしい感触。アスファルトの地面。どうやら転生したようだ。そしてあのおっさんの言葉が正しいのなら顔を上げた瞬間。そこにあるのは俺がこれから通うであろう学校の校門。そうなのであろう。


・・いや、だが。今はそんなことよりも出発前。あのおっさんが一方的に言ってきやがったあの言葉だ。


確かに始め、あれを聞いていたら絶対にこんな世界に転生などしなかった。どんな事があっても他の世界にチェンジでお願いした。

クソッ。俺とした事がまんまとはめられた。


ジャリッ・・。


前の方でそんな音が聞こえた。

人か?いつまでもこんな地べたに這いつくばっているわけにはいかない。人でも呼ばれ、大事件になっては初っぱなから大きな枷を背負わされる。

そうと決まればさっさと起き上がる他ない。 


「あぁ。大丈夫。俺は何とも・・」


起き上がると同時に声を発す。だが、その先に立つ人物はそんな俺の言葉を聞くことなくこう言葉を重ねた。


「フフッ。汝、また妾に殺されに来たのか?」

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