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事故当日の朝2

「落ち着いて優香。アベルトゥラの雑貨は力を使ったら消える消費型魔法アイテムだって昨日言ってたろ?」


『……賢斗、信じてないんじゃなかったの?』


「信じるさ。信じているから今こうして俺と優香は話ができてるんだから」


『どういうこと?』


「メビウスの鍵は俺が使った。だから、鍵が消えたんだ」


『え?』


僕はひとつ深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


「いいか、優香。信じられないかもしれないけど、メビウスの鍵は過去への扉を開く鍵、時間をもう一度やり直すアイテムだったんだよ」


優香が僕の言葉の意味を反芻して、やがて、おずおずと訊いてくる。


『…………ねえ、その話が本当だとして、賢斗が鍵を使ったってことは、今の賢斗は時間をやり直してるってことだよね? 


……今日、これから何があるの? 賢斗が時間をやり直そうとまで決意したどんなことがあったの?』


僕の脳裏に、未だ生々しく残る事故の情景。


ひしゃげた列車。苦悶の声を上げる要救助者たち。懸命に救出作業に加わる人々。倉庫に並べられた犠牲者たち。冷たく固くなった優香。


「……今日の昼前、香南線で列車の正面衝突事故が起きるんだ。そして、その事故の100人を超える犠牲者には優香も含まれていた」


『……っ!!』

 

「俺は、優香の死をなかったことにするために、あの事故を止めるために今日という日をもう一度やり直しているんだ。このまま何もしなければ列車事故が起きることを俺は知っている。俺はまだ優香を失った悲しみと絶望を覚えている。事故が起きれば、たくさんの人が俺と同じ辛い思いをするって分かってる。


だから俺は、列車を止める。あの事故をなかったことにする!」


『……賢斗』


涙声の優香が、電話越しに何度もうなずく気配が伝わってきた。


『行こうよ、賢斗! 事故を止めなくちゃ!!』





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